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第3話 いじめ2
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僕は応急処置しかしていない足を叩き、気合を入れてから廊下を進んだ。
教室まで歩くことに必死になるなんて、初めて登校する小学生じゃないんだから。
僕は自分のことを笑いながらドアに手をかけた。
視野が狭まっていることすら気づかずに。
「クッ。あっはっはっはっは!」
急に目の前が真っ白になった。
「あっはっはっはっは!」
「ははは! ふ、ふっふふ!」
同時、大神くんたちの笑い声が聞こえてくる。
当然だが、大丈夫? なんて言ってくれる人はいない。
教室で黒板消しが落とされても、僕らにとってはこれが日常と言わんばかりに、一瞬だけ見た後はすぐに自分のことに戻ってしまう。
触らぬ神にたたりなしってワケだ。
「あっ……」
ただ、一人、日向を除いて。
「どうしたの?」
「う、ううん。な、なんでも、なんでもない」
だが、僕が厳しく言っていたおかげで、日向もここで無理に割って入ったりはしない。
中学までならここで僕をかばい、大神くんたちをけなしていたのだろう。だがそのせいで、当時は女子まで含んだいじめに発展した。
かわいいなんてのは関係ない。むしろ、かわいいからこそ目をつけられていたのかもしれない。
殴られる時は僕が前に出たが、それでも被害は少なくなかった。
「……」
不安そうに僕のことをチラチラと確認している日向。
僕は大丈夫と目で返し、そっぽを向かせた。
「サブラーイズ! サブライズだよ!」
「そ、そうなんだ」
大神くんの大きな声で僕は現実に引き戻された。
「さっきは心から喜んでくれたみたいだったからな」
「そうそう。こんなことしかできないけど、朝から楽しんでもらえた?」
「それなりに」
喜んだフリでもしとかないと、どうせろくな目に合わない。
僕が作り笑いで大神くんたちを見ると、彼らは満足そうに笑った。
「つっても、そのままじゃいかんだろ。楽しんだ後は片づけも必要だからな」
「真っ白じゃあ目立つしな」
「感謝しろよ?」
「あ、ああ。ありがとう」
僕についたチョークの粉を払うように三人は僕を叩き出した。
しかしそれは、僕自体を殴るような勢いで、三人は容赦なく僕のことをバシバシと叩いてくる。
僕はそんな三人からの攻撃を我慢しながら席まで移動させられた。
目に入ってくるのは見慣れた机。
「俺たちは影斗くんが来るまでに消そうとしたんだがな。間に合わなくって。すまない」
そう言って大神くんは謝ってくる。
僕の机には罵倒、罵詈雑言。言い方は色々あるだろうが、正気な人間が書いたとは思えないような内容がずらりと書かれている。
頑張ってシャーペンか鉛筆で書いたようだった。
一部は大神くんの言う通り消されているが、まだだいぶ残っている。
しかし、逆だろう。今からなら消せる量だ。おそらく量を調整してこれを書いたのは大神くんたちだ。いつものことだ。
「消すの手伝ってやるよ。影斗くんは座っててくれ」
大神くんの言葉で僕の肩を押さえてくる山原田くんに五反田くん。
「いや、いいから」
協力を装ってまざまざと書いてある字を見せるつもりだろう。
だから僕は抵抗した。
「いいって、遠慮しすぎだよ」
三人は上履きの時のように僕を無理やり座らせてくる。
「ッ!」
突如、尻からくる無数の痛み。
勢いよく座らされたからだけではない。どうやら椅子にも画びょうがまかれていたらしい。
ここまでされると、忍者か! と言ってやりたいが、当然、今の僕にそんなことを言う余裕はない。
痛みをこらえ、息をひそめて、あくまで冷静なフリをすることで精一杯だ。
普段なら、座る前に確認できたが、朝から連続でやられたせいで注意力が切れていた。
「よしっ! 消えたな」
耐えている間も時間は過ぎている。
気づけば三人がかりでラクガキは消されていた。
「おい! 影斗をいじめてるヤツはいい加減出てこいよ!」
大神くんはクラスメイト全員に向けて叫んだ。
当たり前だが、誰も反応はしない。
「チッ! 隠れてコソコソやりやがって。先生が来る。何かあったら言えよな。いつでも相談に乗るぞ」
お前だろうが!
喉元まで込み上げてきた言葉を僕はぐっと飲み込んだ。言えたら何か変わるのだろうか。
わからない。言ったことはない。何か反撃したとして変わる未来はこれまで見えなかった。
ガラガラガラと音を立てて、教室のドアが開かれる。
「おはようー」
気の抜けた声を発しながら、担任が教室へ入ってくる。
僕の方を見て少し表情を曇らせるが、それ以上はなにもない。
きっと僕のことは察しているのだろうが聞いてこない。言っても、意味はなかったんだ。先生の方からはなにもないだろう。
「ホームルームを始める」
担任は素知らぬ顔で連絡事項を伝えてくる。
だが、全く内容は入ってこない。痛い。逃げたい。
とにかく時間が過ぎるのが遅かった。ゆっくりと話しすぎだ。
最後に。
「では、次の授業に遅れないように」
とか言っていた気がする。
が、僕は話が終わるなり画びょうを抜き、教室を出た。
痛い、痛すぎる。
一日はまだ始まったばかりだと言うのに、これはまずい。
「次が来る前に一旦距離を取らないと」
さもないと、僕が潰れる。
日に日にあくどくなる大神くんだったが、今日は特に休みなく続いている。
次の授業までしのぐため僕はどうにかトイレに避難した。
教室まで歩くことに必死になるなんて、初めて登校する小学生じゃないんだから。
僕は自分のことを笑いながらドアに手をかけた。
視野が狭まっていることすら気づかずに。
「クッ。あっはっはっはっは!」
急に目の前が真っ白になった。
「あっはっはっはっは!」
「ははは! ふ、ふっふふ!」
同時、大神くんたちの笑い声が聞こえてくる。
当然だが、大丈夫? なんて言ってくれる人はいない。
教室で黒板消しが落とされても、僕らにとってはこれが日常と言わんばかりに、一瞬だけ見た後はすぐに自分のことに戻ってしまう。
触らぬ神にたたりなしってワケだ。
「あっ……」
ただ、一人、日向を除いて。
「どうしたの?」
「う、ううん。な、なんでも、なんでもない」
だが、僕が厳しく言っていたおかげで、日向もここで無理に割って入ったりはしない。
中学までならここで僕をかばい、大神くんたちをけなしていたのだろう。だがそのせいで、当時は女子まで含んだいじめに発展した。
かわいいなんてのは関係ない。むしろ、かわいいからこそ目をつけられていたのかもしれない。
殴られる時は僕が前に出たが、それでも被害は少なくなかった。
「……」
不安そうに僕のことをチラチラと確認している日向。
僕は大丈夫と目で返し、そっぽを向かせた。
「サブラーイズ! サブライズだよ!」
「そ、そうなんだ」
大神くんの大きな声で僕は現実に引き戻された。
「さっきは心から喜んでくれたみたいだったからな」
「そうそう。こんなことしかできないけど、朝から楽しんでもらえた?」
「それなりに」
喜んだフリでもしとかないと、どうせろくな目に合わない。
僕が作り笑いで大神くんたちを見ると、彼らは満足そうに笑った。
「つっても、そのままじゃいかんだろ。楽しんだ後は片づけも必要だからな」
「真っ白じゃあ目立つしな」
「感謝しろよ?」
「あ、ああ。ありがとう」
僕についたチョークの粉を払うように三人は僕を叩き出した。
しかしそれは、僕自体を殴るような勢いで、三人は容赦なく僕のことをバシバシと叩いてくる。
僕はそんな三人からの攻撃を我慢しながら席まで移動させられた。
目に入ってくるのは見慣れた机。
「俺たちは影斗くんが来るまでに消そうとしたんだがな。間に合わなくって。すまない」
そう言って大神くんは謝ってくる。
僕の机には罵倒、罵詈雑言。言い方は色々あるだろうが、正気な人間が書いたとは思えないような内容がずらりと書かれている。
頑張ってシャーペンか鉛筆で書いたようだった。
一部は大神くんの言う通り消されているが、まだだいぶ残っている。
しかし、逆だろう。今からなら消せる量だ。おそらく量を調整してこれを書いたのは大神くんたちだ。いつものことだ。
「消すの手伝ってやるよ。影斗くんは座っててくれ」
大神くんの言葉で僕の肩を押さえてくる山原田くんに五反田くん。
「いや、いいから」
協力を装ってまざまざと書いてある字を見せるつもりだろう。
だから僕は抵抗した。
「いいって、遠慮しすぎだよ」
三人は上履きの時のように僕を無理やり座らせてくる。
「ッ!」
突如、尻からくる無数の痛み。
勢いよく座らされたからだけではない。どうやら椅子にも画びょうがまかれていたらしい。
ここまでされると、忍者か! と言ってやりたいが、当然、今の僕にそんなことを言う余裕はない。
痛みをこらえ、息をひそめて、あくまで冷静なフリをすることで精一杯だ。
普段なら、座る前に確認できたが、朝から連続でやられたせいで注意力が切れていた。
「よしっ! 消えたな」
耐えている間も時間は過ぎている。
気づけば三人がかりでラクガキは消されていた。
「おい! 影斗をいじめてるヤツはいい加減出てこいよ!」
大神くんはクラスメイト全員に向けて叫んだ。
当たり前だが、誰も反応はしない。
「チッ! 隠れてコソコソやりやがって。先生が来る。何かあったら言えよな。いつでも相談に乗るぞ」
お前だろうが!
喉元まで込み上げてきた言葉を僕はぐっと飲み込んだ。言えたら何か変わるのだろうか。
わからない。言ったことはない。何か反撃したとして変わる未来はこれまで見えなかった。
ガラガラガラと音を立てて、教室のドアが開かれる。
「おはようー」
気の抜けた声を発しながら、担任が教室へ入ってくる。
僕の方を見て少し表情を曇らせるが、それ以上はなにもない。
きっと僕のことは察しているのだろうが聞いてこない。言っても、意味はなかったんだ。先生の方からはなにもないだろう。
「ホームルームを始める」
担任は素知らぬ顔で連絡事項を伝えてくる。
だが、全く内容は入ってこない。痛い。逃げたい。
とにかく時間が過ぎるのが遅かった。ゆっくりと話しすぎだ。
最後に。
「では、次の授業に遅れないように」
とか言っていた気がする。
が、僕は話が終わるなり画びょうを抜き、教室を出た。
痛い、痛すぎる。
一日はまだ始まったばかりだと言うのに、これはまずい。
「次が来る前に一旦距離を取らないと」
さもないと、僕が潰れる。
日に日にあくどくなる大神くんだったが、今日は特に休みなく続いている。
次の授業までしのぐため僕はどうにかトイレに避難した。
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