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第176話 謎があるので二人に解いてもらいたい4

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 謎解き最終ステージ。

 砂場のように大量の砂が足元にあることに、向日葵が気づいた様子だった。

 今まで認識していなかったせいで驚いたのだろう、向日葵は勢いよく後ろに飛びのいた。

 しかし、砂に足を取られ滑ってしまったのか、それとも驚きでうまく体に力が入らなかったのか、普段の向日葵ならしないようなミスが起きた。

 向日葵はジャンプで体勢を崩したのだ。

「あっ」

 楓は気づいて手を伸ばした。

 反応したまではよかった。だが、楓の能力ではどうあがいても届きそうにない。

 しかし、すぐ近くにいた咲夜が、さっと向日葵の背中に手を伸ばし、そっと向日葵の背中を支えた。

「大丈夫か」

 咲夜が言った。

 一瞬だけ向日葵の顔を見たが、すぐに目線はそらしてしまった。

「う、うん。大丈夫。ありがと」

 向日葵も咲夜の顔を見たのは少しだけで、目線をそらしてつぶやいた。

 今までの咲夜だったなら、きっとこのようなことにはならなかっただろう。

 その場に尻もちをつく向日葵を、ただただ眺めていただけかもしれない。

「よかった」

 楓も言葉を漏らしながら、ほっと息をついていた。

 なんだかんだと仲良くさせる作戦は前進しているように楓には感じられた。

 喧嘩腰だったのは、きっかけがなかっただけなのではないか。楓にはそう思えていた。

「さ、謎解きに戻ろう」

 向日葵が両手を打ち鳴らし大きな音を立てながら言った。

「そうだな」

 咲夜もうなずきつつ言った。

 少し照れたように頭をかくと、二人は微妙に距離を取りながら壁に向かい合った。

「で、どう思う? この足元のクズクズ。謎に何か関係があると思う?」

「うーん……」

 向日葵に聞かれ、腕を組み考え始める咲夜。

 チリの落ちたところの近くを、必死になって眺め、そのまま唸っている。

 少しの間そうこうしていると、顔を上げ、真っ直ぐ先を凝視し始めた。

 一歩、また一歩とゆっくり近づくと、目の前にある壁面を他の部分と見比べているようだった。

「なあ、この壁って最初からこんなへこんだ形だったか?」

「さあ。あんまり覚えがないけど、ちょっといびつだね。もう少しなだらかだったような……」

「もしかして、実は力が戻って壊してたとか?」

「いやいや、そんなはずはないよ。力だって入れてなかったし。ただ撫でただけだもん」

 向日葵が否定するものの、咲夜は拳を腰だめに構えると、正拳突きの要領で勢いよく拳を突き出した。

 砂浜を歩いた時のような音が鳴った。
 
 咲夜の拳は壁の中にめり込んでいた。

「嘘。本当に戻ったの?」

「いや、俺も特別力がみなぎる感じはしなかった。多分、この壁が柔らかい、というかもろいんだと思う」

「もろい壁……?」

 向日葵は視線を宙にさまよわせた。

 それからちょうど入り口側まで移動すると、手を伸ばした。

「この壁の厚さ。私たち二人なら手が届くんじゃない?」

「え?」

 向日葵の言葉を受けて、咲夜も反対側から手を伸ばした。

「マジだ。俺たちが手を伸ばせば届く距離だ」

「道をつなげるのって、この壁にってことなんじゃない?」

「確かに、今の力でも壊せそうだけど、これ全てを?」

「とりあえず一本でも道をつなげてみようよ」

「おう」

 向日葵の気迫に押されたように、咲夜はうなずいた。

 向日葵は掘っていた方から、咲夜は反対側から両手で壁を掘り始めた。

 素手にも関わらず、見た目の壁としてたたずむ丈夫そうな印象に反して、二人はサクサクと掘り進めていった。

 次第に手を伸ばして掘り出すことが多くなり、片手で掘ったものをかき出していた。

 二人が黙り込んで掘り出してからしばらくして、

「あっ」

 二人同時に何かに気づいたように声を漏らした。

「何かある」

 より体を奥へと押し付け、二人は何かを求めるように手を伸ばした。

「動いてる」

「ザラザラしてる?」

「捕まえた」

「俺も。って、あれ?」

 二人してまたしても同時に動きを止めた。

「もしかして今俺の手を握ってる?」

「多分」

 両者ともに何が起きたのか理解したようだった。

 黙り込んで身を引くと、二人の間の壁には一つの穴が開いていた。

「道が」

「つながった?」

 それぞれ言葉を拾い合いながら、二人はつぶやいた。

 それから奥まで続く壁の先を二人は見た。

 解錠の音がした。

 しかし、部屋の奥には変化がない。ただ壁が続いているだけ。

「あれ。音は鳴ったよね? でも、何も起きない? もしかしてまた間違ってた?」

 不安そうに咲夜は楓を振り返った。

 その様子に楓は首を横に振った。

「合ってるよ」

 優しく笑みを浮かべつつ、楓はささやいた。

「でも、開いてないよ? 出られないよ?」

「今二人がここから出たら危ないでしょ」

「なるほど。でも、どこに?」

 不思議がる二人に楓は背を向けた。

「最初の部屋まで戻ろうか」



 最初の部屋まで戻ると、待ちきれないといった様子で、二人は扉に手を当てた。

「せーの」

 二人同時に声をかけあうと、ドアは一斉に開かれた。

 たちまち三人は謎解きの館から解放された。

「本当に出られた」

「あれでよかったんだね」

 安堵の息を漏らしながら、二人は嬉しそうに笑い合っていた。

「どうだった?」

「私は楽しかったよ」

「俺も。最初はどうなることかと思ったけど、なんだかんだ楽しめたよ。兄者にこんな才能があったなんてね」

「いやぁ照れるな」

 二人から穏やかに褒められ、楓は頬をかいた。

 張り合うように言葉を出し合う様子もなく、二人はあくまで冷静だった。

「もう、力も使えるようになってるはずだよ?」

「おっ本当だ。そっか、さっきまでがいつも楓が過ごしてる世界だったんだね」

「久しぶりに何もできなかったな。でも、今まで力がないことがフツーだったのに、やっと元に戻った気がする」

 空中に拳を突き出したり、やたらと高くジャンプしたりして、二人は力が戻ったことを確かめているようだった。

「じゃあ、楽しんでもらえたってことで、今日のところはこれで解散ってことでいいかな? ってここ夏目邸だから僕が帰るのか」

「なら、送っていくよ」

「俺も、兄者に少しでも感謝したいからさ」

 ここでも自分だけがという調子ではなく、全員一緒にということらしかった。

 左右から二人に手を取られると、楓はまたもはにかみながら空を見上げた。

 なんだかこれで十分かもしれない。

 楓はそう思いつつ、体にかかる重力を感じた。
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