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第175話 謎があるので二人に解いてもらいたい3
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よほどポーズや謎解きが外れたことが恥ずかしかったのか、咲夜はその場にしゃがみ込んでしまった。
うつむいたまま自分の世界に入ってしまい、独り言を何度もつぶやいていた。
しかし、何を思ったのか、突然その場で立ち上がると、勢いよく楓たちの方を振り返った。
「マネキンはあくまでサンプルだったんだ!」
その言葉に向日葵はぽかんとした様子だった。
わからない様子の向日葵に説明するように、咲夜は続けて口を開いた。
「つまり。このマネキンっていうのは、ポーズを指定しているものであって、それ以上でも以下でもなかったってわけさ」
「どういうこと?」
「実際にやるのは俺たちってことだよ」
「私もやるの?」
頭上のはてなが取れないままで、向日葵は咲夜がいる場所へと移動を始めた。
「違う違う」
しかし、咲夜は咄嗟に両手を出して向日葵を止めに入った。
「じゃあ、どういうこと? 私はやらなくていいの?」
「そうじゃなくて。ほら、近い台の上を見てみてよ」
楓はそこで「おっ」と声を漏らした。
起き上がる時は、ただでは起き上がらない。そんな咲夜はどうやら変わっていなかったらしい。
ショックを受けるだけでなく、冷静に足元を見ていたようだ。
「まあ、楓がそんな反応するなら何かあるんだろうけど」
「あ、あはは」
苦笑いを浮かべる楓を見ながら、向日葵はマネキンが置いてある台まで移動した。
「マネキン以外に何かあるの?」
「マネキンをどかしてみて」
咲夜の指示のもと、向日葵は台からマネキンをどかした。
すると、マネキンの足で隠れていたものが明らかになった。
「何かある。H? って書いてあるけど」
「やっぱり。こっちにはSって書いてあるんだよ」
「S?」
「そう。これはイニシャルなんだよ」
「イニシャル? SとH……はっ」
向日葵も何かに気づいたように声を漏らした。
咲夜はその様子に笑みを浮かべている。
そこからは二人が会話をすることはなかった。
にも関わらず、二人とも台に乗ると、示し合わせたようにマネキンと同じポーズをした。
少し照れたような二人が、ちょうど鏡合わせになるようにして。
少しして、カチャリと解錠を知らせる音が響いた。
「お見事」
楓が拍手を送ると、咲夜が照れたように頭をかき出した。
「たまたまだよ。俺が絶対に動じない心を持っていたら、きっと気づかなかっただろうし」
「でもこれで、脱出にまた一歩近づいたね」
「うん」
謎解き成功の余韻に浸りながら、二人は台を降りた。
そして意を決したように、続くドアへと進んでいった。
何層もあるアスレチックだった施設は、謎の部屋へと姿を変えていた。
それは楓が茜、時には朝顔の力を借り、アスレチックを謎の部屋へと変えてできたものだった。
謎はアスレチックだった全ての層にわたっており、とうとう二人は最上階へと上り詰めていた。
「ここが最後の部屋だよ」
「私としてはどの層も愛着あったんだけどな」
「茜ちゃんによればバックアップは取れてるみたいだから大丈夫だと思うよ」
「いや、楓のためなら、私の作ったものくらいいくらでも壊しちゃっていいから」
何故か慌てた様子で向日葵が言った。
「さすがにそこまではやらないよ」
楓は苦笑いで向日葵の反応を見た。
最初は二人して不機嫌そうに毒づいていたが、いつの間にかそんな様子はなくなっていた。
一刻も早く外に出るためかもしれないが、それでも、今までにない状況に楓は思わず笑みがこぼれた。
何より自分の作ったものを楽しんでもらえることが、楓にとっては嬉しかった。
「それで、最後の謎は?」
相変わらず紙で用意されたお題には「道をつなげよ」と書かれている。
「今までで一番わからないんだけど」
最後まで楓を見ることをやめなかった向日葵に、楓は思わず口を開いた。
「この部屋では道がつながってないんだよ」
「まあ、そういうことなんだろうけど、道がつながってないって?」
部屋は至ってシンプル。
紙を乗せていたテーブルが一つ。部屋の真ん中に柱があるだけだった。
「道がつながっていない……?」
咲夜も不思議そうにしながら、部屋を歩き始めた。
特に柱を見ながら、奥へ奥へと歩いて行った。
すると、途中で足を止め、入口と奥を見比べ出した。
「出口がない」
「えっ!?」
向日葵も慌てた様子で咲夜の後を追った。
そして、驚いたように入口と奥を見比べていた。
「本当だ。ただの柱かと思ったけど、奥まで続いててドアがない。これじゃ壁じゃん」
現実を把握し絶句した二人は、しばらくその場から動かなくなった。
「どうしようもないじゃん。最初から閉じ込める方が目的だったってことはないよね?」
少しためらいがちに向日葵に聞かれ、楓は首を横に振った。
「ないよ。僕が出られるならまだしも、出られないなら意味ないじゃん。それに、よく考えればこの部屋の謎も、ここからの脱出方法も見えてくるはずだよ」
最終層となっても、能力の制限が取れることはなかったらしく、二人はじっと考え出した。
楓としてはヒントが少なくとも、解けるように配慮をしてきたつもりだった。
今回の謎も、仕掛けに気づいてしまえば、やることはわかる内容にできたつもりだった。
その代わり、動かなければ気づくことは相当に難しいだろう。
そんな楓の考えを読んだように、向日葵は早速目の前の柱、もとい壁に近づき出した。
「今更だけど、ここにあるものって動かしたり、触ったりするのはルール違反じゃないよね?」
「全然問題ないよ。それなら最初から動かせないようになってるからさ」
「それはそうだよね。思えばマネキンから簡単に動かせたわけだし」
うんうんと唸っている咲夜をよそに、向日葵は壁に手を伸ばした。
そして、表面を撫でるように横に移動すると、自らの手を何度もグーパーし始めた。
「何かに気づいた?」
「なんだかサラサラしてる? 見た目から大理石みたいな印象を受けたけど、ツルツルというよりも、なんだか別の感触のような」
両手でこすったり、手を払ったり、と何度も繰り返しながら、向日葵は壁の材質を確かめているようだった。
「今までのどれよりも、なんだか捉えどころがない? 道どうこうはこれが関わってるはずなのに」
「あれ、そもそも足元ってそんなになってたっけ?」
向日葵は咲夜に言われ、目線を下げた。
向日葵の足元には、手についた量よりも明らかに多いチリが落ちていた。
うつむいたまま自分の世界に入ってしまい、独り言を何度もつぶやいていた。
しかし、何を思ったのか、突然その場で立ち上がると、勢いよく楓たちの方を振り返った。
「マネキンはあくまでサンプルだったんだ!」
その言葉に向日葵はぽかんとした様子だった。
わからない様子の向日葵に説明するように、咲夜は続けて口を開いた。
「つまり。このマネキンっていうのは、ポーズを指定しているものであって、それ以上でも以下でもなかったってわけさ」
「どういうこと?」
「実際にやるのは俺たちってことだよ」
「私もやるの?」
頭上のはてなが取れないままで、向日葵は咲夜がいる場所へと移動を始めた。
「違う違う」
しかし、咲夜は咄嗟に両手を出して向日葵を止めに入った。
「じゃあ、どういうこと? 私はやらなくていいの?」
「そうじゃなくて。ほら、近い台の上を見てみてよ」
楓はそこで「おっ」と声を漏らした。
起き上がる時は、ただでは起き上がらない。そんな咲夜はどうやら変わっていなかったらしい。
ショックを受けるだけでなく、冷静に足元を見ていたようだ。
「まあ、楓がそんな反応するなら何かあるんだろうけど」
「あ、あはは」
苦笑いを浮かべる楓を見ながら、向日葵はマネキンが置いてある台まで移動した。
「マネキン以外に何かあるの?」
「マネキンをどかしてみて」
咲夜の指示のもと、向日葵は台からマネキンをどかした。
すると、マネキンの足で隠れていたものが明らかになった。
「何かある。H? って書いてあるけど」
「やっぱり。こっちにはSって書いてあるんだよ」
「S?」
「そう。これはイニシャルなんだよ」
「イニシャル? SとH……はっ」
向日葵も何かに気づいたように声を漏らした。
咲夜はその様子に笑みを浮かべている。
そこからは二人が会話をすることはなかった。
にも関わらず、二人とも台に乗ると、示し合わせたようにマネキンと同じポーズをした。
少し照れたような二人が、ちょうど鏡合わせになるようにして。
少しして、カチャリと解錠を知らせる音が響いた。
「お見事」
楓が拍手を送ると、咲夜が照れたように頭をかき出した。
「たまたまだよ。俺が絶対に動じない心を持っていたら、きっと気づかなかっただろうし」
「でもこれで、脱出にまた一歩近づいたね」
「うん」
謎解き成功の余韻に浸りながら、二人は台を降りた。
そして意を決したように、続くドアへと進んでいった。
何層もあるアスレチックだった施設は、謎の部屋へと姿を変えていた。
それは楓が茜、時には朝顔の力を借り、アスレチックを謎の部屋へと変えてできたものだった。
謎はアスレチックだった全ての層にわたっており、とうとう二人は最上階へと上り詰めていた。
「ここが最後の部屋だよ」
「私としてはどの層も愛着あったんだけどな」
「茜ちゃんによればバックアップは取れてるみたいだから大丈夫だと思うよ」
「いや、楓のためなら、私の作ったものくらいいくらでも壊しちゃっていいから」
何故か慌てた様子で向日葵が言った。
「さすがにそこまではやらないよ」
楓は苦笑いで向日葵の反応を見た。
最初は二人して不機嫌そうに毒づいていたが、いつの間にかそんな様子はなくなっていた。
一刻も早く外に出るためかもしれないが、それでも、今までにない状況に楓は思わず笑みがこぼれた。
何より自分の作ったものを楽しんでもらえることが、楓にとっては嬉しかった。
「それで、最後の謎は?」
相変わらず紙で用意されたお題には「道をつなげよ」と書かれている。
「今までで一番わからないんだけど」
最後まで楓を見ることをやめなかった向日葵に、楓は思わず口を開いた。
「この部屋では道がつながってないんだよ」
「まあ、そういうことなんだろうけど、道がつながってないって?」
部屋は至ってシンプル。
紙を乗せていたテーブルが一つ。部屋の真ん中に柱があるだけだった。
「道がつながっていない……?」
咲夜も不思議そうにしながら、部屋を歩き始めた。
特に柱を見ながら、奥へ奥へと歩いて行った。
すると、途中で足を止め、入口と奥を見比べ出した。
「出口がない」
「えっ!?」
向日葵も慌てた様子で咲夜の後を追った。
そして、驚いたように入口と奥を見比べていた。
「本当だ。ただの柱かと思ったけど、奥まで続いててドアがない。これじゃ壁じゃん」
現実を把握し絶句した二人は、しばらくその場から動かなくなった。
「どうしようもないじゃん。最初から閉じ込める方が目的だったってことはないよね?」
少しためらいがちに向日葵に聞かれ、楓は首を横に振った。
「ないよ。僕が出られるならまだしも、出られないなら意味ないじゃん。それに、よく考えればこの部屋の謎も、ここからの脱出方法も見えてくるはずだよ」
最終層となっても、能力の制限が取れることはなかったらしく、二人はじっと考え出した。
楓としてはヒントが少なくとも、解けるように配慮をしてきたつもりだった。
今回の謎も、仕掛けに気づいてしまえば、やることはわかる内容にできたつもりだった。
その代わり、動かなければ気づくことは相当に難しいだろう。
そんな楓の考えを読んだように、向日葵は早速目の前の柱、もとい壁に近づき出した。
「今更だけど、ここにあるものって動かしたり、触ったりするのはルール違反じゃないよね?」
「全然問題ないよ。それなら最初から動かせないようになってるからさ」
「それはそうだよね。思えばマネキンから簡単に動かせたわけだし」
うんうんと唸っている咲夜をよそに、向日葵は壁に手を伸ばした。
そして、表面を撫でるように横に移動すると、自らの手を何度もグーパーし始めた。
「何かに気づいた?」
「なんだかサラサラしてる? 見た目から大理石みたいな印象を受けたけど、ツルツルというよりも、なんだか別の感触のような」
両手でこすったり、手を払ったり、と何度も繰り返しながら、向日葵は壁の材質を確かめているようだった。
「今までのどれよりも、なんだか捉えどころがない? 道どうこうはこれが関わってるはずなのに」
「あれ、そもそも足元ってそんなになってたっけ?」
向日葵は咲夜に言われ、目線を下げた。
向日葵の足元には、手についた量よりも明らかに多いチリが落ちていた。
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