上 下
41 / 48

第41話 山垣と大槻の関係は……

しおりを挟む
「山垣……」

 王の間から続く通路にぼーっと座っていたのはクラスでも実力者と言われていた山垣。

「生きてたのか溝口。河原も」

 山垣は俺たちに気づくと立ち上がってにらみつけてきた。

 正直、いい暮らしをしていたはずなのに、こいつらは一体何を考えてこんなことをしているのだろうという思いだ。
 よりいい生活でも求めているのか、実は苦しい生活でもさせられてたのか。
 考えても仕方ない。

「お前らが来てるってことは、俺たちの前任が裏切ったっていう枝口の話はホントだったのか」
「でも、通してるってことは、枝口くんは捨て駒にもならなかったみたいね」

 山垣の隣に立つ大槻が冷ややかに言った。

 最近は、少し前よりも愛以外の感情も理解できるようになってきた気がする。
 だからこそわかる。俺は山垣と大槻が不快なのだと。
 だからこそ、眉を寄せてしまうのだと。

「大槻さん!」
「雪、元気かしら?」
「この国の王様が何をしているかわかって協力してるの?」
「そんなの知ったことじゃないわよ。そもそもあんたなんてね、外野としていただけなんだからアタシのことにどうこう言うんじゃないわよ」
「外野って」
「気づいてなかったの? まあそうかもね。自覚がなかったから自分は違うみたいな顔してたのね。アタシはそんなあんたに腹が立ってたのよ。今ここでアタシの新しい力で潰してあげる。死んだと思ってたけど生きてたし。直接にね」

 河原の方は方で色々あるみたいだ。楽しげに話していたクラスの時とは変わり、こっちにきてからどうも仲が悪いからな。

 そんな時、つんつんと河原が俺を突いてきた。

「溝口、あの二人を正直にさせられる?」
「やってみるか」

 どういう意図があるかはわからないが、何か考えがあるのだろう。
 俺は河原を信じて二人を素直にさせようと意識を集中させた。

 枝口の反応からすると、俺への好意がもろに溺愛の権能の効きやすさに影響しているみたいだが、

「……っ!」

 二人に向けて同時に流し込むように力を放つ。
 以前に嫌われていると効果が悪いようだが、効かないわけではない。

 そうでなければ、助けると言っただけで枝口の好意が変わるわけがない。

「ん? 何かしてるのか?」
「準備じゃない?」
「そうだな。枝口を倒したくらいだし何かあるんだろう。が、俺様たちに効くようなものがあるとは思えん。好きにすればいいさ」

 完全に油断してくれている二人を前に、俺はじわじわと二人の意識を流し込む。
 時間があるならきっと大丈夫。

 少しずつ二人は俺たちへの罵声が増え、やがて二人は俺たちを睨むのをやめ、お互いに向き合った。

「みりあ、こんなタイミングだから言いたいことがある」
「あら奇遇ね。アタシも山垣くんに言いたいことがあるの」
「本当か!?」

 何やら勝手に話が進んでいるようだ。俺は素直になるようにしただけなのだが。

「これでいいか?」
「十分! あとは見てればいいから」
「そうなのか?」

 河原の中ではどうやら思ったような展開が進んでいるらしい。
 やはり、少しはわかるようになったと思ったが、そうでもなかったみたいだ。

「みりあ、俺様はみりあのことが好きだ! もしかして、みりあも?」
「ええ」

 不敵に笑う大槻。

 え?

 これは、俺は何を見せられているんだろう。
 興奮した様子の山垣と笑顔の大槻。なんでこんなのを見せられているんだ?

「河原」
「待って、今いいところだから」

「アタシ、山垣くんのこと、ずっと嫌いだったの」
「よっ……え?」

「え?」

 河原は思った通りというような顔をしているが、全くもって予想の逆だった。

「ちょ、ちょっと待ってくれ、みりあ。一体どういうことかな?」
「力が強くて能力があってイケメンで結果も残してるけど、山垣くんはそれをひけらかしすぎだし、簡単に怒ってて頭悪そうだし、ずっと余裕がなさそうだし、挙げればキリがないわ。マイナスが多すぎなのよ。何故か一番ってことになっていたから隣にいたんだけど、正直ずっと、もっといい人が早く現れてくれないかなって思ってたの。だから、ごめんなさい。山垣くんのことはそういうふうには見れないわ」
「……そ、そんな。嘘、だよな?」
「嘘じゃないわよ。そもそも山垣くんってなんだか臭いし」
「臭い……そう、だったのか……」

 山垣はいつもの自慢たっぷりな笑顔を消し、光の失った瞳で地面を見つめている。
 相当ショックだったのか、手に持っていた剣も落とし、その場にへたり込んでしまった。

「は、はは。ははは」

 山垣の口からは乾いた笑い声だけが聞こえてくる。
 俺たちがいる場所からではその表情まではうかがえない。

「知らなかった」
「女子の間では有名だったけどね」
「うわー」

 何か攻撃をしたわけではないが山垣は戦闘不能といった様子だ。
 だが、面と向かって対うより、よっぽどいい結果だろう。

「ちょっと山垣くん。さすがにアタシ一人だと負担が大きいんだけど。なに座ってるのよ」
「……はは、ははは」

 大槻に揺らされても放心したように山垣は笑い声を出すだけだ。

「アタシ、何かおかしなこと言ったかしら」

 大元は大槻のせいだと思うが、大槻に自覚はないようだ。

 これであとは大槻だけか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

俺が異世界帰りだと会社の後輩にバレた後の話

猫野 ジム
ファンタジー
会社員(25歳・男)は異世界帰り。現代に帰って来ても魔法が使えるままだった。 バレないようにこっそり使っていたけど、後輩の女性社員にバレてしまった。なぜなら彼女も異世界から帰って来ていて、魔法が使われたことを察知できるから。 『異世界帰り』という共通点があることが分かった二人は後輩からの誘いで仕事終わりに食事をすることに。職場以外で会うのは初めてだった。果たしてどうなるのか? ※ダンジョンやバトルは無く、現代ラブコメに少しだけファンタジー要素が入った作品です ※カクヨム・小説家になろうでも公開しています

処理中です...