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第29話 スライム討伐へ
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「デューチャの情報をもとに訓練の内容を調整する」
デューチャが調査から無事帰ってきて、素人へ向けての懇切丁寧な超密着指導がやっと終わった。
と思えばもう最終ゴールに向けて走り出すみたいだ。
まあ、時間は限られているしな。
しかし、多少は動けるようになった自覚はあるが、さすがは地上最強、次へ行くのが早いな。
「それで、何をするんだ? 俺と河原での試合とかか?」
「けどそれだと形にはなるかもしれないけど、体格的に溝口が有利じゃない?」
「だよな。それに、フェイラとだと身体能力で圧倒的にフェイラが上だし」
「わたしはリュウヤに勝てないよ」
「本当か?」
俺を一番だと思わせてくれるのは嬉しいが、河原とも実力だけで言えばほとんどトントンなんだよな。
訓練期間は同じわけだし。
「……だって、リュウヤと触れ合うなんて、もうっ!」
なんだかくねくねと一人で楽しそうな雰囲気になっている女神様だが、放っておこう。
だからといって、エルディーと戦えば死にかねない。いや、全力を出さないでもらえればいいかもしれないが、教えてもらったからこそ余計にわかる。
あれは、人の形をした何か別のものだ。
教えられただけだが、戦闘に関しては右に出る者がいないというのをまざまざと体に刻み込まれた。
さて、どうやらエルディーは思考の整理が終わったらしい、
「リュウヤたちの言う通り、私としても練習から実戦に移るつもりだ。だが、確かに実力がバラバラで開きがあるのも事実。そこで、リュウヤたちにはこの山の魔物と戦ってもらう」
「なるほどな。模擬戦ではなく実際に戦闘をこなすわけか……は?」
いや、待て。論理的に納得できたからフツーに相槌を打ってしまったが、エルディー、なんて言った?
普通に生活できているから少し忘れがちになるが、ここは死の山だ。
常人なら死ぬような山で素人に毛が生えた程度の俺たちを実戦に出すって?
「エルディー、何か考えがあるのか?」
「もちろんだ。ここで戦うということは相手によっては死もあり得る。だが、死の山で余裕を持って生き残れるようにならなくては、魔王を前にエディカを助けることなど不可能だ。そこで、まずは私の弱らせた魔物と戦ってもらう」
「そういえば、バシィやティシュラさんたちは魔族なんだよね? 何が違うの?」
「ユキ、いい質問ですわね。ここで、一つ整理しておきましょうか。魔物とは一代限りで湧いては死ぬまで戦い続ける存在。対して魔族とは、その魔物が意思を持ち、子を残し群れとなったものですわ。そのため、魔物の方が意思もなく動きも単純でユキたちでも戦いやすいはずです」
「そういうことだったんだ。ありがとうデューチャさん」
「デューチャでいいですわ。まあ、これは一般的にはあまり理解されていないことでもありますから。ですが、ほとんど区別なく使われているという部分でもあるので、そういう考え方もあるという程度で十分です」
「リュウヤを襲ったゴブリンも魔物だったのだろうな」
「なるほどな」
これはかなりいいことを聞いた。
少し、溺愛の権能に関する謎が解けた気がする。
人やバシィたちみたく意思ある相手にはこの溺愛の権能はよく効くが、逆に意思がない相手には効きが悪い、もしくは効かないってことか。
俺もまだ使いこなせていないだろうし、今後はわからないが、当分はこの認識でいいだろう。
つまり、今回の訓練ではあまり役に立たないってことか。
「それでは、少し賢くなったところで行こうか」
山中。バシィたちの結界の外に出た俺たちは山の地面に擬態するようなミリタリーな感じの迷彩柄スライムと遭遇した。
ここまでバッタバッタとエルディーが切り伏せていたが、一度止まり周囲の様子をうかがっている。
「うむ。あいつはリュウヤなら勝てる相手だ。さあ」
「さあ、って。え? 弱らせてからって話は?」
「今のリュウヤならあいつに対しては必要ない。大丈夫だ」
エルディーに背中を押されスライムと真正面に向かい合う。
エルディーのお墨付きだ。大丈夫。
俺が剣を構えるとスライムも沈み込み攻撃姿勢をとった。
バシィたちのように頭を下げているようにも見えるが、目っぽい部分がちょっと吊り上がっている。
つまり、なついた様子は見られない。
俺は、警戒しながら少しずつ距離を詰め、相手の様子をうかがった。
「ぷよん!」
と、音を鳴らしながらのスライムの飛びかかり攻撃。
俺が間合いに入ったのかスライムが跳ねた。
だが、かなりゆっくりの弾道。シャボン玉が飛んでくるような軌道のわかる動き。
俺は正確に距離を測って剣で横に薙ぎ払い、スライムを吹き飛ばした。
「ぽよん!」
と鳴いてスライムは飛んでいく。
怯んだ様子でコロコロと地面を転がってから動かない。
スキを見て上から一閃。内部の固いものを砕くような感覚。
パキッ! と割れるような音が聞こえてくるとスライムの姿が山に溶けた。
これが実戦……なんだかあっけなく終わったが、少しだけ力がついた感覚がある。
「実戦で得られるものは練習とは違うだろ?」
「ああ」
スライムを倒した後の感覚、まるでレベルが上がったような気分だ。
剣は触れるとわかったが、溺愛の権能も戦闘に積極的に応用できるといいのだが……。
「……しかし、リュウヤと会ってから遭遇する魔物はどれも凶暴性が薄い。なぜだ……?」
「どうかしたか?」
「いや、なんでもない。次へ行くぞ」
「おう」
エルディーが何か言っていた気がしたが気のせいだろうか。
デューチャが調査から無事帰ってきて、素人へ向けての懇切丁寧な超密着指導がやっと終わった。
と思えばもう最終ゴールに向けて走り出すみたいだ。
まあ、時間は限られているしな。
しかし、多少は動けるようになった自覚はあるが、さすがは地上最強、次へ行くのが早いな。
「それで、何をするんだ? 俺と河原での試合とかか?」
「けどそれだと形にはなるかもしれないけど、体格的に溝口が有利じゃない?」
「だよな。それに、フェイラとだと身体能力で圧倒的にフェイラが上だし」
「わたしはリュウヤに勝てないよ」
「本当か?」
俺を一番だと思わせてくれるのは嬉しいが、河原とも実力だけで言えばほとんどトントンなんだよな。
訓練期間は同じわけだし。
「……だって、リュウヤと触れ合うなんて、もうっ!」
なんだかくねくねと一人で楽しそうな雰囲気になっている女神様だが、放っておこう。
だからといって、エルディーと戦えば死にかねない。いや、全力を出さないでもらえればいいかもしれないが、教えてもらったからこそ余計にわかる。
あれは、人の形をした何か別のものだ。
教えられただけだが、戦闘に関しては右に出る者がいないというのをまざまざと体に刻み込まれた。
さて、どうやらエルディーは思考の整理が終わったらしい、
「リュウヤたちの言う通り、私としても練習から実戦に移るつもりだ。だが、確かに実力がバラバラで開きがあるのも事実。そこで、リュウヤたちにはこの山の魔物と戦ってもらう」
「なるほどな。模擬戦ではなく実際に戦闘をこなすわけか……は?」
いや、待て。論理的に納得できたからフツーに相槌を打ってしまったが、エルディー、なんて言った?
普通に生活できているから少し忘れがちになるが、ここは死の山だ。
常人なら死ぬような山で素人に毛が生えた程度の俺たちを実戦に出すって?
「エルディー、何か考えがあるのか?」
「もちろんだ。ここで戦うということは相手によっては死もあり得る。だが、死の山で余裕を持って生き残れるようにならなくては、魔王を前にエディカを助けることなど不可能だ。そこで、まずは私の弱らせた魔物と戦ってもらう」
「そういえば、バシィやティシュラさんたちは魔族なんだよね? 何が違うの?」
「ユキ、いい質問ですわね。ここで、一つ整理しておきましょうか。魔物とは一代限りで湧いては死ぬまで戦い続ける存在。対して魔族とは、その魔物が意思を持ち、子を残し群れとなったものですわ。そのため、魔物の方が意思もなく動きも単純でユキたちでも戦いやすいはずです」
「そういうことだったんだ。ありがとうデューチャさん」
「デューチャでいいですわ。まあ、これは一般的にはあまり理解されていないことでもありますから。ですが、ほとんど区別なく使われているという部分でもあるので、そういう考え方もあるという程度で十分です」
「リュウヤを襲ったゴブリンも魔物だったのだろうな」
「なるほどな」
これはかなりいいことを聞いた。
少し、溺愛の権能に関する謎が解けた気がする。
人やバシィたちみたく意思ある相手にはこの溺愛の権能はよく効くが、逆に意思がない相手には効きが悪い、もしくは効かないってことか。
俺もまだ使いこなせていないだろうし、今後はわからないが、当分はこの認識でいいだろう。
つまり、今回の訓練ではあまり役に立たないってことか。
「それでは、少し賢くなったところで行こうか」
山中。バシィたちの結界の外に出た俺たちは山の地面に擬態するようなミリタリーな感じの迷彩柄スライムと遭遇した。
ここまでバッタバッタとエルディーが切り伏せていたが、一度止まり周囲の様子をうかがっている。
「うむ。あいつはリュウヤなら勝てる相手だ。さあ」
「さあ、って。え? 弱らせてからって話は?」
「今のリュウヤならあいつに対しては必要ない。大丈夫だ」
エルディーに背中を押されスライムと真正面に向かい合う。
エルディーのお墨付きだ。大丈夫。
俺が剣を構えるとスライムも沈み込み攻撃姿勢をとった。
バシィたちのように頭を下げているようにも見えるが、目っぽい部分がちょっと吊り上がっている。
つまり、なついた様子は見られない。
俺は、警戒しながら少しずつ距離を詰め、相手の様子をうかがった。
「ぷよん!」
と、音を鳴らしながらのスライムの飛びかかり攻撃。
俺が間合いに入ったのかスライムが跳ねた。
だが、かなりゆっくりの弾道。シャボン玉が飛んでくるような軌道のわかる動き。
俺は正確に距離を測って剣で横に薙ぎ払い、スライムを吹き飛ばした。
「ぽよん!」
と鳴いてスライムは飛んでいく。
怯んだ様子でコロコロと地面を転がってから動かない。
スキを見て上から一閃。内部の固いものを砕くような感覚。
パキッ! と割れるような音が聞こえてくるとスライムの姿が山に溶けた。
これが実戦……なんだかあっけなく終わったが、少しだけ力がついた感覚がある。
「実戦で得られるものは練習とは違うだろ?」
「ああ」
スライムを倒した後の感覚、まるでレベルが上がったような気分だ。
剣は触れるとわかったが、溺愛の権能も戦闘に積極的に応用できるといいのだが……。
「……しかし、リュウヤと会ってから遭遇する魔物はどれも凶暴性が薄い。なぜだ……?」
「どうかしたか?」
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