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第12話 二人きりにされ……

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「……」
「…………」

 変なこと言われたからか急に二人にされて気まずくなってしまった。
 相当面倒な相手なのか、バシィたちも総出で行ってしまったし、河原と完全に二人きりだ。
 わざわざ二人になろうとしてなった前回とは別で、他人に二人にされるとは……。

「「あの」」

 声が被り、目を泳がす。
 またしても気まずい。

「先にいいぞ」
「えっと、ありがとう。その、溝口のご趣味は」
「え?」
「い、いや、その。これはあれ。お互いのことを何も知らないから、知っておいた方がいいと思って。それに、あたしだけ知られてるのも不公平だし」
「そうだな」

 にしてもご趣味は、って動揺しすぎだろう。
 いや、俺もお見合いのスタートみたいでビビったが、そうだな。趣味。趣味か。

「まさか、ないとか言って誤魔化さないよね? あたしも溝口に見られて結構恥ずかしかったんだからね?」
「いや、そうじゃないが」

 先手を打たれた。まあ、ないってのは、話したくないって風に取られるだろうからよくない。
 珍しく向こうから歩み寄ってきてくれたんだ。たとえ権能のおかげであっても、このチャンスを逃すのはこの異世界で生活を継続していく上で最悪の一手。
 しかし、どうしたものか。正直、人様に話すような趣味はあいにくだが持ち合わせていない。
 新学年になって自己紹介カードみたいなものを書くタイミングがあれば、特になしかゲームだの読書だの映画鑑賞だの、当たり障りのないことしか書いてこなかった。
 話すことがなく、ただ思ったことを言うから除け者にされてきたんだろうし、山垣にもそんなことを言われた気がする。
 考えろ。考えろ。

「あっ、強いて言えば、筋トレだろうな」
「え、溝口筋トレとかするの?」
「一応な。鍛えるって言えるほどじゃないけど、他にないからな。でも、部活は山垣のせいでできないから、一人で軽く体を動かしてるだけだぞ」
「もしかして腹筋割れてたりする?」
「割れてない割れてない。そこまでやってないから。フェイラに言われた通り、俺は他のものを愛していないし、俺自身のことだって大したことないと思ってる。だからそんなに何かに打ち込んでも普通程度だと思ってる。これもあくまで趣味だし、強いて言えばって程度だからな。ちょ、なんだ?」
「へー。ほー」

 なんだか息を吐きながら俺の体を無造作に勝手にペタペタと服の上から触ってくる河原。

「え、思ってたより固い。この間も意外とがっしりしてると思ったけど、そっか、鍛えてたんだ」
「だからそこまでじゃないって」
「ねぇ、直で触らせてくれな?」
「は?」

 河原はなぜか食いついてきて見上げながらに行ってくる。
 なんでこんなに積極的なんだ?
 と言うか、俺の体触っても何もないと思うんだが。
 これ、ダメだって言ってもひっついたままなんだろうな。
 まあ、謎に裸になる瞬間に触られたり、寝てる間に触られたりするよりいいか。これもコミュニケーション。か?

「フェイラたち帰ってくるまで暇だしいいぞ」
「本当?」
「ああ」

 なんだか気恥ずかしさを感じつつ、上だけ脱いでみせる。

「おおー。意外としっかりしてるんだね」
「言うほどじゃないだろ。普通だろ」
「男の子ってこんな感じなんだ。すごい。ぷよぷよじゃない」
「ほどほどにやってたらこれくらいにはなると思うけどな。そもそも部活やってたらもっと引き締まった体になるんじゃないか?」
「部活でやらされるんじゃなくて一人で鍛えるなんてなかなかできることじゃないよ。へー。カチカチじゃん」
「おい。なんだかくすぐったいんだが」
「照れてるの? ふーん。こうやって触られるのがいいんだ」
「いや、目的変わってきてるだろ。そもそも河原そんなキャラだったか?」

 やたら楽しげに触ってくるが、男の裸を見てもそんなにいいものでもないだろう。
 まあ、珍しい動物を見たような気分なのかもしれないが。

「痛いっ!」

 誰かの悲鳴。
 何かが立ち止まる音。

「二人ともー? なーにしてるのかなー?」

 フェイラの声。どうやら戻ってきていたらしい。
 そんなに長いことやってた記憶はないのだが。

「リュウヤ。服脱いで何してたの?」
「俺の趣味の話だよ」
「リュウヤは女の子に裸を見せるのが趣味なの?」
「違う! そうじゃない。俺を変態みたいに言うのはやめてくれ。運動が趣味なんだよ。それで、河原が触りたいって」
「ユキちゃんが?」
「あ、えっと。あたし、へっ?」
「さっきまでノリノリだったのにな。人が来て恥ずかしくなったのか?」
「いや、これはその……」
「もう仕方ないし、フェイラも触るか? 減るもんじゃないし」

 この際やけだ。
 なんだかフェイラの表情が変な気がするし、話し方にも違和感がある。
 元の持ち主の神様にまで効果があるってことなのだろうか。

「いいの!? 触る触る! すごい! リュウヤの体だー。あったかいよー」
「いや、抱きついてる。まあ、いいけど」
「全身でリュウヤを感じる。ドクンドクンいってる」
「それは心臓だな」
「しっかりしてるね。リュウヤの体。ね、このまま寝ていい?」
「いや、その前にそっちの人の説明を受けたいんだが」
「ああ!」

 ああ! って完全に忘れていたみたいだ。
 フェイラの後ろの方では、バシィたちが歩かせながら、数人の人が俺たちの方へときていた。おそらく先ほど悲鳴をあげた人たちだろう。
 見ると、どこから仕入れてきたのかつたでぐるぐるまきにされている。
 そんな彼女たちは俺に期待の眼差しを向けてきていた。

「この人たちは?」
「助けてくれ! いや、助けてください。アンタなら話がわかるはずだ。なんでもする。アタイたちにできることならなんでもするから。どうか、命だけは、命だけは助けてくれないか?」

 連れてこられた人たちのリーダーらしき女の人がそんなことを言ってくる。

「なんでもする、ね……」
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