破滅不可避の悪役獣使いに転生したが肉塊になりたくないので聖獣娘、魔獣娘に媚びを売る〜嫌われないようにしていたらなぜか長たちになつかれている〜

マグローK

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第一章 魔王討伐編

第23話 本契約後:デレアーデ視点

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~デレアーデ視点~

 人に魔法を教えるのは初めてだったけど、ルカラくんは教えがいがあった。
 ルカラくんは驚くべきスピードで魔法を使えるようになっていくのだ。
 教える前から魔法壁だけはとんでもない厚さで、人間の魔法使いじゃ破れそうもなかった。
 でも、魔属性の魔法をぶつけてみないと人間じゃ発動できないと可能性を確認したくて、心を鬼にして殺すつもりで魔法を使った。
 それなのに、ルカラくんにはかすり傷程度の傷しかつかなかった。

 そのうえ、
「大丈夫です。ピンピンしてますよ。最初は誰だって痛いし、こんなものじゃないですか? ビシバシお願いします」
 なんて、言って笑っていた。

 おかしい。絶対におかしい。初めて普通の人がくらってたらそれ死んでるよ? 灰すら残らないよ?
 そのつもりで使った魔法だった。しかもまだ魔法の使い方も教えてないのに、無詠唱でブレイク・シールドまで出しちゃうし、本当に自分の目とルカラくんが人間かどうかを疑った。
 しかもルミリアさんの使ってた魔法まで、全て無詠唱で使ってしまった。
 本来使って見せないと使えないものなんだけど、これが才能ってやつなのかな。

 驚きつつもできてしまったから、あとは速さと工夫だった。普通なら使うまでが時間のかかる部分なんだけど、すぐにできた分時間をかけるべきところに時間をかけられる。
 でも、速さも工夫も上達まで時間はかからなかった。
 そして、十分に速くなったところで、あたしはルミリアさんが本契約をした本当の理由を理解した。

 ルカラくんはただ才能があるだけじゃない。
 人間でありながら、自分の得意分野、ルミリアさんなら剣術、あたしなら魔法で、もしかしたら自分を超えるかもしれない存在なのだ。
 いや、もう超えているかもしれない。
 こればっかりは、あたしも自分の力、ルカラくんの力、そして、魔獣のみんなのために、本契約を頼まないといけないと思った。

「はっ」
「痛い!」

 そう。無詠唱での発動スピードだけなら、本気を出さないと絶対に勝てないとわかっている。
 もう、あたしは負けている。
 でも、素直に直接頼めなくて、力を知りたくなっちゃって。

「魔法の早打ちであたしが勝ったらさ、言うことなんでも一つ聞いてくれない? 負けたらルカラくんの言うことなんでも聞くから」

 と言ってしまった。

 久しぶりの魔獣の姿。いつぶりかわからない神経が研ぎ澄まされる感覚。
 今までで最高の速度で魔法を使えたと思った。けど、ルカラくんも今までで一番速く魔法を使っていた。
 次の瞬間に気づいてしまった。これは負けたと。
 想像通り、あたしが先に後ろへ飛ばされていた。

 ルカラくんは男の子だし、あたしは人の見た目だし、何かされるかもしれないと気づかれない程度に身構えていた。
 でも、ルカラくんなら何をされてもいいと思っていた。あの時から。

「僕に聞かせたかったことを教えてくれませんか?」

 あの時から変わらず、カッコ良すぎるよー!

 どうにか必死に感情を抑えながらも、こうしてあたしもルカラくんと本契約できた。
 本契約してすぐに、力の高まりを感じる。今ならルカラくんにも勝てそう。いや、ルカラくんも強くなってるのか。じゃあ、聖獣、魔獣合計四体分の強さかな。
 敵う訳ないよ。そもそもあたし一人より多くのものを抱えてるんだもん。
 この先も、多くの生き物のために戦うことになる未来は変わらないみたいだし、やっぱり、人の域を超えてるんじゃないかな? こんなの普通できないよ。
 でも、何より、あたしを信じてくれてるのが嬉しい。そうじゃないと本契約はできないもの。

「ありがとう。願いを聞き入れてくれて」
「いえ」

 さらっと、感謝しろって感じがないのもかっこいいな。

 でも、これで追いつきましたからね。ルミリアさん!
 そっと見ると、ルミリアさんはルカラくんをじっと見てる。
 少し離れると今はルカラくんばっかりなんだもの、ちょっとからかってみようか。

「ルカラくん、ルカラくん」
「なんです?」
「ほら、ここ座って」
「え、いやぁ」

 あたしが近くの丸太に腰かけ、膝の上をポンポン叩くと、ルカラくんは困ったように頭をかいている。
 ルミリアさんは背丈が似ているから気にならないみたいだけど、あたしがくっつくとすぐ逃げちゃう。
 だからこうして理由をあげるのだ。

「ルカラくんが、あたしのご主人なんだから」
「少しだけですよ?」

 そう言ってちょこんと座る。
 本契約による反応があたしとそのすぐにルカラくんがいるのを伝えてくる。
 まだまだあたしより小さな体なのに、ものすごい力を秘めている。
 遠くで座るルミリアさんに自慢げに笑って見せると、何やら慌てた様子で立ち上がって走ってくる。

「あんまり押しつけるのもあれだけど、魔獣のこともルカラくんに任せていい?」
「それ、僕に任せて本当にいいんですか? 聖獣とかも」
「みんなもそれを望んでるから」
「僕がやっても、形だけになると思うんですけど」
「そんなことないよ。ルカラくんの影響はルカラくんが思ってるより、ずっと、ずーっと大きいんだから」
「そうですか? ありがとうございます。いい影響ならいいんですけど」
「いい影響に決まってるじゃん」

 あたしの長。ルカラくん。
 まさか、人間に長の座を譲るなんて考えたこともなかった。でも、あたしより先輩のルミリアさんもそうしてるし、何より、あたしと出会った時から、そのつもりだったんじゃないかな。
 控えめだけど、しっかりしてるしね。
 そもそもあたしは未来視の巫女として長をしていただけ、多くの場合、強いオスがメスをはべらせる。
 だから、ルカラくんならOKです!

「お、お主ら! なーにをくっついておるのじゃ! ルカラ殿も。余という妻がありながら!」
「いや、それはルミリアさんが言ってるだけで」
「ねー。ルカラくんはあたしがいいんだよね。奥さんとしても」
「デレアーデさん!?」
「お主ら……!」
「いや、それよりも」
「ルカラ殿まで、それよりとはなんじゃ!」
「ちょっと、落ち着いてくださいルミリアさん」
「おのれ……」
「いや、本当に」
「どうしたの?」
「少し気になることが」

 ルカラくんの表情が変わった。ルミリアさんもふざけてる訳じゃないと気づいたみたいだ。
 あたしも、浮かれてて気づくのが遅れた。

「ルカラくんほどじゃないけど、誰かが来てる……強い力が三つ」
「はい。すぐじゃないですけど、備えておきましょう」
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