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第一章 魔王討伐編
第19話 本契約後:ルミリア視点
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~ルミリア視点~
「ルカラ殿ー」
「なんですか?」
「んふふー。ここがいいのじゃー」
ルカラ殿の腕はあったかいな。
長として、あまりベタベタしてはいかんと気をつけておったが、今はもう長ではない。ただのルミリアじゃ。
聖獣の新たな長であり、余の主人であるルカラ殿にどれだけ甘えても問題ないじゃろう。
それに、これからルカラ殿の暮らすヤシキとやらに行くのじゃ。そこにはルカラ殿以外の人もいると聞く。そうなれば、余とルカラ殿の関係をしっかりと見せつけなくてはいけないからな。
「あの。ルミリアさん。近くないですか?」
「それは長と、その……妻。じゃからな」
「……なんかつがい扱いになった……」
口に出すと恥ずかしいが、そういうものじゃ。
余は今日までこの日を待っておったのじゃ。
一年、ルカラ殿に剣を教えてわかったが、ルカラ殿は信頼できる。
そして、何より強い。教えるたびみるみる強くなっていく様は、強さの高みを求める者として心惹かれるものがあった。
そもそも、余に長は荷が重すぎた。
ただ、力が他の者よりも強かっただけで長になってしまった。
これでは余を負かすほどの力を持つ者を待たねばならぬが、あと数百年しても聖獣からは現れなかったかもしれぬ。
後を任せるにも力は重要。それはわかる。長の力は聖獣という種としての強さを決定するものじゃからな。
じゃが、それならばとルカラ殿に負け考えたのじゃ。
余、ルカラ殿、そして聖獣という種にとって最善の方法を。
それが、余がルカラ殿と本契約し、ルカラ殿に長の座を譲ることじゃった。
予想通り、余の力は本契約する以前とはまるで比べ物にならぬほど強くなっておる。
それだけじゃない。ルカラ殿の力も高まり、ルカラ殿が長となったことでタロの力や森に住む聖獣たちの力も高まったのじゃ。
これで、もしルカラ殿が寿命を迎えたとしても余よりも力の強い者が現れてくれることじゃろう。
「ルカラ殿。タロによくやるというものを余にもやってくれぬか?」
「タロによくやるものですか? えーと……」
ふむ。色々あるのか?
「あれじゃ。頭に手を乗せて動かしているやつじゃ」
「あ、ああー。あれですか……。いいですけど、嫌がらないでくださいよ?」
「頼んで嫌がる者があるか」
「一応ですよ」
なんだかやけに予防線を張っておるが、どういうことじゃ。
それに、やたらと準備をしておる。まさか、魔力をコントロールせねばいかぬのか?
思ったよりも集中力の必要なものを頼んでしまったようじゃ。
「いきますよ」
「お願いするのじゃ」
「はい。よしよし」
「ふあー」
どういうことじゃろう。別に魔力は感じぬ。
感じぬのじゃが、とても心地よい。
ずっとこうしてほしいと思うほど、全身がふわふわする。
「これでいいですか?」
「うむ。ひとまず満足じゃ」
タロの言っておった通り、撫でられるというのは気持ちがいい。
これまでタロがこんな気分じゃったのか。うらやまし、じゃない。
余も時折頼めばいいのじゃからな。
ルカラ殿と腕も組めて気分は上々。
しかし、普段余やデレアーデ、ユイシャやタロ、ジローにまで囲まれ、いつだかはユイシャの腰に手を回し、タロから見てもつがいのようじゃと言われておったから、ルカラ殿は女慣れしているのかと思っておったが、案外そうではないようじゃ。
余が抱きついてからというもの、ルカラ殿は緊張したように体を硬くしておる。
戦う時は気にしていないのじゃが、面白い。こういうところは人間の子どもなのじゃなと思えてかわいらしい。
本契約することで色々とわかってくることもあるのじゃな。
いずれにせよ、ルカラ殿が余と本契約してくれたことで、聖獣の平穏は約束されたと言っても過言じゃない。
具体的な統治は余の側近に任せておるし、ここしばらくは聖獣の中で問題も起きておらぬ。
安泰じゃな。
デレアーデからは抜け駆けだと言われそうじゃが、師匠の権限として無理矢理本契約させたのではないし余の作戦勝ちじゃ。
ヤシキとやらに入った。
確かに人が多い。
早速、見知らぬ者と出くわした。
「ルカラ殿。この者は?」
「ルカラ様、このお方は?」
「あ、えーと……」
誰なのかはよくわからぬが、住まわせてもらう以上は理解しておかねばじゃな。
「『ハビット・ジェイル』」
「んー!」
急に動きを封じられたのじゃが。
「まあ! 姫様のように抱きかかえられるんですね」
「ははは。すみません。落ち着いたら説明しますので」
「んー!」
姫!?
「わかりました。ルカラ様のお連れ様なら大丈夫でしょう」
「僕は部屋に戻ります」
「まあ! わかりました。使用人たちには邪魔させぬようにしておきますから」
「はい? ……何かを盛大に勘違いされてる気がする……」
なんだかずっとかかえられておるのじゃが、余が聖獣の長であるこの余が、人間に軽く持ち上げられておる!
やはり、ルカラ殿はすごいのじゃぁ。
動けぬ。
どこかへ運ばれておるようじゃが、どこへ向かっておるのか。
しかし、先ほどもそうじゃが、ルカラ殿は出会ってから人間にして一度もやましいオーラを発しておらぬ。
本契約を急いだ理由の一つに、このルカラ殿の特性もある。人がよすぎてよからぬことに巻き込まれるやもしれぬからな。
本契約をすることで、余はルカラ殿の、ルカラ殿は余の居場所がいつでもわかる。
そもそもルカラ殿ほどの力を持っていては、魔王から狙われるかもしれんしな。
別に、心配してる訳じゃないぞ? 弟子に不幸があるのが嫌なだけじゃ。
「長っ! 長っ!」
「なんじゃ。タロ。もう余は長ではない。長はルカラ殿じゃ。余はただのルミリアじゃぞ」
「る、ルミリア様」
「まあ、よい。なんじゃ」
「森を離れてよかったので?」
「もちろんじゃ。統治は任せておる。タロも気づいておろう。森に住む聖獣たちの力が高まっていることを」
「はい。ご主人と契約した時とは比べ物にならない力を感じます。タロでは影響を与えることはできませんでしたが、ルミリア様が本契約なさったことで、聖獣全体の力だけでなく、ご主人の力もすさまじいです」
「そうじゃろうそうじゃろう? ……それに、オーラ・エンチャント。あの力は素晴らしかった。余の力を込めた武器はどれほどの力を発揮するのか、タロであれだ。余も協力すれば……ふふふ」
気づけばルカラのにおいで満ちている。
「ここはなんじゃ?」
「僕の部屋です」
ルカラの部屋じゃ!
「はあ。ルミリアさん。タロと何話してたんですか? 僕、聖獣語わからないんですけど」
「秘密じゃ」
「そうですか。それで、本当にここに住むんですか?」
「もちろんじゃ。タロもジローもそうしているのじゃろう?」
「さすがにご飯はもらえても、部屋は厳しいみたいですよ?」
「別にここでよいぞ? タロもジローもそうしておろう」
「え、いや、それは僕が困りますよ」
「い、嫌なのか?」
本契約はしてくれたが、別に余のことを好いてくれている訳ではなかったのか。
一方的に長の地位を押しつけたせいで、嫌われてしまったのか。
しまったのじゃ。それは困るのじゃ。
「嫌ではないですけど」
「ならよかろう!」
決まりじゃな!
「ルカラ殿ー」
「なんですか?」
「んふふー。ここがいいのじゃー」
ルカラ殿の腕はあったかいな。
長として、あまりベタベタしてはいかんと気をつけておったが、今はもう長ではない。ただのルミリアじゃ。
聖獣の新たな長であり、余の主人であるルカラ殿にどれだけ甘えても問題ないじゃろう。
それに、これからルカラ殿の暮らすヤシキとやらに行くのじゃ。そこにはルカラ殿以外の人もいると聞く。そうなれば、余とルカラ殿の関係をしっかりと見せつけなくてはいけないからな。
「あの。ルミリアさん。近くないですか?」
「それは長と、その……妻。じゃからな」
「……なんかつがい扱いになった……」
口に出すと恥ずかしいが、そういうものじゃ。
余は今日までこの日を待っておったのじゃ。
一年、ルカラ殿に剣を教えてわかったが、ルカラ殿は信頼できる。
そして、何より強い。教えるたびみるみる強くなっていく様は、強さの高みを求める者として心惹かれるものがあった。
そもそも、余に長は荷が重すぎた。
ただ、力が他の者よりも強かっただけで長になってしまった。
これでは余を負かすほどの力を持つ者を待たねばならぬが、あと数百年しても聖獣からは現れなかったかもしれぬ。
後を任せるにも力は重要。それはわかる。長の力は聖獣という種としての強さを決定するものじゃからな。
じゃが、それならばとルカラ殿に負け考えたのじゃ。
余、ルカラ殿、そして聖獣という種にとって最善の方法を。
それが、余がルカラ殿と本契約し、ルカラ殿に長の座を譲ることじゃった。
予想通り、余の力は本契約する以前とはまるで比べ物にならぬほど強くなっておる。
それだけじゃない。ルカラ殿の力も高まり、ルカラ殿が長となったことでタロの力や森に住む聖獣たちの力も高まったのじゃ。
これで、もしルカラ殿が寿命を迎えたとしても余よりも力の強い者が現れてくれることじゃろう。
「ルカラ殿。タロによくやるというものを余にもやってくれぬか?」
「タロによくやるものですか? えーと……」
ふむ。色々あるのか?
「あれじゃ。頭に手を乗せて動かしているやつじゃ」
「あ、ああー。あれですか……。いいですけど、嫌がらないでくださいよ?」
「頼んで嫌がる者があるか」
「一応ですよ」
なんだかやけに予防線を張っておるが、どういうことじゃ。
それに、やたらと準備をしておる。まさか、魔力をコントロールせねばいかぬのか?
思ったよりも集中力の必要なものを頼んでしまったようじゃ。
「いきますよ」
「お願いするのじゃ」
「はい。よしよし」
「ふあー」
どういうことじゃろう。別に魔力は感じぬ。
感じぬのじゃが、とても心地よい。
ずっとこうしてほしいと思うほど、全身がふわふわする。
「これでいいですか?」
「うむ。ひとまず満足じゃ」
タロの言っておった通り、撫でられるというのは気持ちがいい。
これまでタロがこんな気分じゃったのか。うらやまし、じゃない。
余も時折頼めばいいのじゃからな。
ルカラ殿と腕も組めて気分は上々。
しかし、普段余やデレアーデ、ユイシャやタロ、ジローにまで囲まれ、いつだかはユイシャの腰に手を回し、タロから見てもつがいのようじゃと言われておったから、ルカラ殿は女慣れしているのかと思っておったが、案外そうではないようじゃ。
余が抱きついてからというもの、ルカラ殿は緊張したように体を硬くしておる。
戦う時は気にしていないのじゃが、面白い。こういうところは人間の子どもなのじゃなと思えてかわいらしい。
本契約することで色々とわかってくることもあるのじゃな。
いずれにせよ、ルカラ殿が余と本契約してくれたことで、聖獣の平穏は約束されたと言っても過言じゃない。
具体的な統治は余の側近に任せておるし、ここしばらくは聖獣の中で問題も起きておらぬ。
安泰じゃな。
デレアーデからは抜け駆けだと言われそうじゃが、師匠の権限として無理矢理本契約させたのではないし余の作戦勝ちじゃ。
ヤシキとやらに入った。
確かに人が多い。
早速、見知らぬ者と出くわした。
「ルカラ殿。この者は?」
「ルカラ様、このお方は?」
「あ、えーと……」
誰なのかはよくわからぬが、住まわせてもらう以上は理解しておかねばじゃな。
「『ハビット・ジェイル』」
「んー!」
急に動きを封じられたのじゃが。
「まあ! 姫様のように抱きかかえられるんですね」
「ははは。すみません。落ち着いたら説明しますので」
「んー!」
姫!?
「わかりました。ルカラ様のお連れ様なら大丈夫でしょう」
「僕は部屋に戻ります」
「まあ! わかりました。使用人たちには邪魔させぬようにしておきますから」
「はい? ……何かを盛大に勘違いされてる気がする……」
なんだかずっとかかえられておるのじゃが、余が聖獣の長であるこの余が、人間に軽く持ち上げられておる!
やはり、ルカラ殿はすごいのじゃぁ。
動けぬ。
どこかへ運ばれておるようじゃが、どこへ向かっておるのか。
しかし、先ほどもそうじゃが、ルカラ殿は出会ってから人間にして一度もやましいオーラを発しておらぬ。
本契約を急いだ理由の一つに、このルカラ殿の特性もある。人がよすぎてよからぬことに巻き込まれるやもしれぬからな。
本契約をすることで、余はルカラ殿の、ルカラ殿は余の居場所がいつでもわかる。
そもそもルカラ殿ほどの力を持っていては、魔王から狙われるかもしれんしな。
別に、心配してる訳じゃないぞ? 弟子に不幸があるのが嫌なだけじゃ。
「長っ! 長っ!」
「なんじゃ。タロ。もう余は長ではない。長はルカラ殿じゃ。余はただのルミリアじゃぞ」
「る、ルミリア様」
「まあ、よい。なんじゃ」
「森を離れてよかったので?」
「もちろんじゃ。統治は任せておる。タロも気づいておろう。森に住む聖獣たちの力が高まっていることを」
「はい。ご主人と契約した時とは比べ物にならない力を感じます。タロでは影響を与えることはできませんでしたが、ルミリア様が本契約なさったことで、聖獣全体の力だけでなく、ご主人の力もすさまじいです」
「そうじゃろうそうじゃろう? ……それに、オーラ・エンチャント。あの力は素晴らしかった。余の力を込めた武器はどれほどの力を発揮するのか、タロであれだ。余も協力すれば……ふふふ」
気づけばルカラのにおいで満ちている。
「ここはなんじゃ?」
「僕の部屋です」
ルカラの部屋じゃ!
「はあ。ルミリアさん。タロと何話してたんですか? 僕、聖獣語わからないんですけど」
「秘密じゃ」
「そうですか。それで、本当にここに住むんですか?」
「もちろんじゃ。タロもジローもそうしているのじゃろう?」
「さすがにご飯はもらえても、部屋は厳しいみたいですよ?」
「別にここでよいぞ? タロもジローもそうしておろう」
「え、いや、それは僕が困りますよ」
「い、嫌なのか?」
本契約はしてくれたが、別に余のことを好いてくれている訳ではなかったのか。
一方的に長の地位を押しつけたせいで、嫌われてしまったのか。
しまったのじゃ。それは困るのじゃ。
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