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第一章 魔王討伐編

第18話 ルミリアさんと本契約

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「あ、あの。ルミリアさん……?」

「…………」

「き、機嫌直してくださいよ」

「……………………」

 まずい。ものすごくまずい。

 さっきからルミリアさんが黙っていて返事をしてくれない。
 どうしよう。このままだと破滅に直行じゃないか?
 オーラ・エンチャントを使えって言ったのはルミリアさんだし、先に全力を出したのもルミリアさんだから、俺も全力を出さないとと思って応戦したけど、そこで調子に乗ってしまった。
 ヤバイ! ヤバイヤバイヤバイヤバイ!

「る、ルミリアさん」
「一つ、勘違いしているようじゃが、余は別に不機嫌なのではないのじゃ」
「そうなんですか? なら、どうして返事してくれないんですか?」
「る、ルカラが、近かっただけじゃ」

 それって、俺が近かったから不機嫌だってことじゃないのか?

「と、とにかく! 余は負けたことに腹を立てておるのではないぞ! そこまで懐の狭い長ではないのじゃ」
「それはわかったんですけど、ならどうして黙っていたんですか?」
「少し、考えていたのじゃ」
「な、何をですか?」

 俺を裁くかどうかとか。俺をどう裁くかとか?

「余の力の限界を」
「え? いや、俺との戦いは模擬戦じゃないですか。それに、俺は一人じゃないですし。ルミリアさんも今回分身を使わなかったじゃないですか」
「そうじゃな。余の愛剣を使えば話は違ったかもしれぬし、初めから分身を使っていれば決着は違ったかもしれん」
「そうですよ! 一対一では俺よりルミリアさんの方が上ですって」

 こ、こんな時こそヨイショだ!

「ルミリアさんは俺を教えてくれているんです。今がルミリアさんの限界じゃないですよ」
「しかし、負けは負けじゃ。分身は必要ない。その判断をしたのが、全力と言いつつ全力を出していなかったのが、余の思い上がりじゃった」
「そんなことは」
「よい。ルカラの気持ちはありがたく受け取る。余を剣の師として気遣ってくれているのじゃろう? じゃが、これは師と言うより、一、強みを求める者として考えていたのじゃ。余の力を高める方法を」
「はい」

 何だろう、ルミリアさんが急に俺の方を見てきた。
 おどおどする俺の目をルミリアさんはまっすぐ見つめてくる。
 自然と背筋が伸びる。俺の首をはねて糧にするのか?

「ルカラ、余と本契約してくれ」
「へ?」
「え、えー!? ちょ、ルミリアさん? 何言ってるんですか?」

 黙って俺と言われ、硬直していたデレアーデさんがルミリアさんの肩に掴みかかった。

「自分が何を言ってるかわかってるんですか?」
「わかっておる。デレアーデ、余は本気じゃ」
「え、嘘。そんな……」

 デレアーデさんはいつになく取り乱している。
 俺もいまいち何を言われたのか理解できない。
 だって、師匠として剣を教えてくれていたとはいえ、ルミリアさんは聖獣の長だ。人間に心を許すような存在じゃない。
 ゲームでも、主人公がなんとか説得して本契約をする存在。

「い、嫌か? 契約を結べば余の力が高まるだけではなく、ルカラも力を高められる。悪くない話だと思うのじゃが」
「嫌なんかじゃないですよ」
「なら!」

 期待の眼差し。そして、デレアーデさんを振り解き俺の手を握ってくる。
 どうしてこんな本契約にノリノリなんだ?
 相手は俺、ルカラだぞ?
 確かに、俺にとって断る理由はない。むしろ媚びの最高の成果と言ってもいいくらいだけど、本当にそれでいいのか?
 ルミリアさんは感情に流されているだけじゃないのか?

「ルミリアさん、ちょっと落ち着いてください」
「本当はしたくないと?」
「そうじゃありません。俺はむしろしたいくらいです。でも、聖獣の長と言えど、モンスターは一生に一度しか本契約できないはずですよね? タロやジローとは話が違うはずです。俺なんかと」
「ルカラなんかではない!」

「え」
 俺の言葉をさえぎって、ルミリアさんは俺の手を強く握ってきた。

「ルカラは卑下するが、そんなことする必要は全くないぞ。ルカラの才能は素晴らしい。そのうえ、才能にあぐらをかかず、努力をしておる。そんなルカラだからこそ、余は本契約させてほしいのじゃ。余の力を高めるためだけではない。ひいては、聖獣という種、全体のためになると信じているからじゃ。じゃから、長としても本契約はするべきなのじゃ」
「ええーと」

 ここまで言われると思ってなかった。
 でも、ルミリアさん、聖獣の長との本契約ってクリア後に主人公が結ぶはず……。
 いいや、ここまで言われちゃ仕方ない。
 そもそも、ラスボスを倒すまでのストーリー中は主人公と長の本契約は必須のイベントじゃないし、大丈夫なはずだ。

「わかりました」
「本当か!」
「はい。俺の根負けです」
「やったのじゃ!」

 俺が本契約を受け入れると、ルミリアさんにしては珍しく、子どもっぽく跳ねて喜び出した。そして、なんだか一瞬勝ち誇ったよな笑顔を浮かべてデレアーデさんの方に振り返った。
 ルミリアさんでもこんな顔するのか、と俺もはにかみながら、一つ深呼吸した。

「喜んでいるところ悪いですが、早速始めてもいいですか?」
「頼むのじゃ」

 ルミリアさんに確認してから俺は本契約のための詠唱を始める。
 すでに二度も行ったことだが、長の相手は初めてだ。少し緊張する。
 それでも、やるのはいつもと同じこと。
 俺は一度も間違えることなく詠唱を終えた。

「ルミリア」

「応えよう」

 俺の呼びかけにルミリアさんは返事をくれた。
 これにて、聖獣の長ルミリアさんと本契約が成立した。

「ふう」

 なんだかいつもよりも一段と疲れた気がする。
 大きなことを成し遂げた気分だが、しかしこれで俺の破滅が完全になくなり、安全になったとは言えない。

 本契約は信頼あってこそ。
 才能を看破されてから、俺の人格が入るまでのルカラのように、一度獲得した信頼も裏切ればすぐになくなってしまう。
 そうなってはルミリアさんの方から本契約が破棄される可能性もある。嫌な命令をして破棄されれば、ゲームの展開に逆戻りだ。
 今のところは前進だろ。いや、常時監視になったと考えると、悪化か?

「これからよろしくお願いします」
「ああ。新たな長として、聖獣の繁栄に力を貸してくれ。ルカラ殿!」
「は?」

 ルミリアさんは今までの威厳をどこに置いてきたのか、甘えるような声を出し俺の腕に抱きつきながらそんなことを言ってきた。
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