幽霊船

つむぎ

文字の大きさ
上 下
2 / 5

誘い

しおりを挟む
だがその人手なしに、私はつい悩み事を打ち明けてしまっていた。母親が失くなってからというもの仕事に身が入らず原因不明の微熱や下痢が続き、私は鬱かもしれないという弱みを握られていた。

二人でいたところに、ナースの、士長がやってきた。

「やあね、お二人さん、またイチャイチャしていたの?」

事情を知らない士長は噂になっている私とドクターのことをこれ見よがしに嫌そうにからかった。士長の態度から私が嫌われているのは明らかで、それは医師とベタベタするなんてというやっかみなのか私が若いからゆえの嫉妬なのかはわからないが、とにかく嫌な態度であり私は胃を痛くした。士長には霊感がないのか知らないが病室をみると、そこは湿気たがらんどうの部屋に戻っていた。何も揺れていない。風と光とり窓のついたピンクの部屋で、淡いブルーの便器が設置されている。ピンクとブルーを混ぜればグリーンで、大自然のいろは精神に良いとされているのだ。この部屋に落ち度はない。

「まったく世間知らずの盛りのついた若い子はこれだから気持ち悪い。」

捨て台詞をはいて士長は去っていった。私とて、これ以上噂が独り歩きするのは嫌だった。みな、色眼鏡でみるからだ。それにもう一つ。密かに憧れている電気工事士の業者の男性にまで、ドクターとできているなんて思われていないか不安だった。

「気にしなさんな」

ドクターがいった。

「橘くん、煮詰まってるの?だったら僕と旅行しない?ほら来週休暇をもらってS島へ行くんだよね僕」

S島と言えば東京からの観光客や他府県からの移住者が年間500人を越えると人気の島で、清々しい山や海と隣人に親切で人懐こい住民、美味しい海の幸が揃った日本海の楽園だ。私は2つ返事ではいといった。是非とも行ってみたかった。

果てしなく広い海をみたいと思った。ちっぽけな人間関係に疲れて狭いここではなく大自然に包まれたいと思っていた。看護士をしているときつい人が多いなと思う。きめられたことをきっちり守る生活に辟易していたのだ。だが私には懸念があった。

「ドクターと二人きりですか?ちょっとまずいんじゃないかしら」

「大丈夫もう一人くるよ。馴染みの店のホステスさんさ」

それはそれで、どうかと思う。ホステス?なんだかやらしい響きである。それでも、S島に行きたい気持ちは、抑えられなかった。私は天気を入念に調べた。運良くというか当たり前というか、5月の晴れに重なって天気は上場。文句無しのスカイブルーだ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魂(たま)抜き地蔵

Hiroko
ホラー
遠い過去の記憶の中にある五体の地蔵。 暗く濡れた山の中、私はなぜ母親にそこに連れて行かれたのか。 このお話は私の考えたものですが、これは本当にある場所で、このお地蔵さまは実在します。写真はそのお地蔵さまです。あまりアップで見ない方がいいかもしれません。 短編ホラーです。 ああ、原稿用紙十枚くらいに収めるつもりだったのに……。 どんどん長くなってしまいました。

心霊捜査官の事件簿 依頼者と怪異たちの狂騒曲

幽刻ネオン
ホラー
心理心霊課、通称【サイキック・ファンタズマ】。 様々な心霊絡みの事件や出来事を解決してくれる特殊公務員。 主人公、黄昏リリカは、今日も依頼者の【怪談・怪異譚】を代償に捜査に明け暮れていた。 サポートしてくれる、ヴァンパイアロードの男、リベリオン・ファントム。 彼女のライバルでビジネス仲間である【影の心霊捜査官】と呼ばれる青年、白夜亨(ビャクヤ・リョウ)。 現在は、三人で仕事を引き受けている。 果たして依頼者たちの問題を無事に解決することができるのか? 「聞かせてほしいの、あなたの【怪談】を」

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

犠牲者の選択【読み手の選択によって結末が変わります】

宝者来価
ホラー
あなたが元の生活に戻る為には何者かを犠牲にしなければならない。

△〇の一部

ツヨシ
ホラー
△〇の一部が部屋にあった。

逢魔ヶ刻の迷い子2

naomikoryo
ホラー
——それは、封印された記憶を呼び覚ます夜の探索。 夏休みのある夜、中学二年生の六人は学校に伝わる七不思議の真相を確かめるため、旧校舎へと足を踏み入れた。 静まり返った廊下、誰もいないはずの音楽室から響くピアノの音、職員室の鏡に映る“もう一人の自分”——。 次々と彼らを襲う怪異は、単なる噂ではなかった。 そして、最後の七不思議**「深夜の花壇の少女」**が示す先には、**学校に隠された“ある真実”**が眠っていた——。 「恐怖」は、彼らを閉じ込めるために存在するのか。 それとも、何かを伝えるために存在しているのか。 七つの怪談が絡み合いながら、次第に明かされる“過去”と“真相”。 ただの怪談が、いつしか“真実”へと変わる時——。 あなたは、この夜を無事に終えることができるだろうか?

野花を憑かせて〜Reverse〜

野花マリオ
ホラー
怪談ミュージカル劇場の始まり。 主人公音野歌郎は愛する彼女に振り向かせるために野花を憑かせる……。 ※以前消した奴のリメイク作品です。

怪談実話 その4

紫苑
ホラー
今回は割とほのぼの系の怪談です(笑)

処理中です...