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大きな戦いに挑もう
譲ってもらおう
しおりを挟む「くっ、卑怯な!」
「勝てば官軍だろう? それに、独りで闘うだけでも充分な配慮じゃないか」
「ええい、問答無用──疾ッ!」
「無駄だよ──“物理流動”」
クラスメイトの一人が隷属させていた奴が持っていたスキルだが、タイミングを合わせられれば無類の強さを誇る。
振り下ろされる刃を並速思考で捉え、肌に触れる寸前でそれを発動。
すると刀はツルッと俺の肌を滑り、そのまま何も斬らずに通過する。
「魔力を籠められるなら、まだ勝負になったかもしれないが……諦めろ。それとも、いい加減本気を出すか?」
「ッ……!?」
「どうせあれだろ、邪道とか自分には合わないとか言って使ってないだけ。あーあ、選んだ神もがっかりだろうよ」
「……そこまで申すか。良いだろう、ならば受けるがいい──呪われし力を!」
視ていたので、当然知っていた。
彼の持つ刀は妖刀で、これまではその力を抑制していただけ。
それを解放することで刀自体が魔力を纏うため、あらゆる概念に干渉できる……とかそういう仕組みらしい。
「呪え[刃邪]──“千呪慕殺”!」
刀が禍々しい靄を放ち始めると、周囲にそのオーラ的なモノを散布し出す。
状態異常には罹らないものの、このままでは周りに俺たちが居ることがバレてしまう。
「──“神聖空間”」
刀そのものには呪いが強過ぎて通用しないが、辺りに撒かれている呪いの力であれば浄化することができた。
なので刀には影響はない……が、その担い手には影響が及ぶ。
呪いの刀なんて使っていたのだ、破邪の効果もある領域なんて苦しいに決まっている。
「ぐっ……決着を、付けるぞ!」
「ん? ああ、はいはい。よろしくお願いしまーす」
「受けてみよ──“居合”、“神速抜刀”、“紫電ノ煌”!」
「えー……嫌だけど? ──“魔力透過”、“物理流動”」
先ほどの(物理流動)と同じく、奴隷が所持していた希少なスキル(魔力透過)。
魔力による干渉を無効化するスキルに加えて、物理攻撃を受け流すスキル。
呪いの力は破邪で抑えているため、刀はただ魔力に干渉できているだけ。
なので結果は見えている──俺が刀を捌ければ、それだけで勝つことができる。
(……“並速思考”、『予測』)
脳内で発動させた能力、一つは思考能力を高めるもの。
もう一つはその高めた思考を用いて、攻撃予測を行うというもの。
二つを同時に使えば、限りなく正確な未来が視えるわけだ。
そしてゆっくりと映る刀を眺め……攻撃を受け流す。
「──チェックメイト。別に報酬が欲しいわけじゃないから、見逃がしてやるよ」
「くっ、殺せ!」
「男に言われてもな……じゃあ、何か俺にあげられそうな物はないか? ああ、その刀は要らないからな。呪われそうだし」
「……では、これでどうであるか?」
そう言って取りだしたのは、真っ白な鞘で拵えられた短刀だった。
それを渡してくるので、受け取っておく。
「これは『氷神之白染護刀』。某もまだ使ってはおらぬ、この世界で得た物である」
「……凄いのか?」
「【氷ノ勇者】なる者の首を落としたとき、これが某の下へ現れたのだ。だが、某の刀はこれ一本。あいにく浮気はせぬゆえ」
「まあ……要らないなら貰っておくよ。これで、生かしておくのはチャラってことで」
調べようと思ったのだが、全然情報が分からなかった。
俺の持つ(解晰夢)は、かなり調べることができるスキルのはずなんだけどな。
「俺はこれで帰る……回復するか?」
「……これ以上の情けは不要。疾くと行け」
「はいはい、じゃあな」
刀は懐に仕舞い、風魔法で移動する。
その時点で意識を元に戻し……お土産が届くのを、期待するだけだ。
◆ □ ◆ □ ◆
瞼を開けば……って、このくだりはもう面倒だから省こうか。
切り替わりに成功したため、再び本体に意識が戻っただけだ。
「……それで、どれくらい進んだんだ?」
「み、見てくださいよイムさん!」
「んー……ああ、できているみたいだな」
傀儡君こと【爆脚勇者】、彼は今もなお健在だった……意識は無いけど。
それはこれまで彼を壊してきた張本人──サリスの腕が、着々と上達しているからだ。
「こ、これでいいんですか?」
「まあ……及第点ってところか。これ以上は寝て時間を待たなくても、充分にやっていけるだろうな」
「や、やったー!」
そこまで喜ぶことだろうか? と思うが、そこは彼女にしか分からないところだ。
俺もたまにやり切ったと思うことがあっても、妹に一蹴されていたのでよく分かる。
「じゃあ、面倒だからこれで最後。こういうレベルの奴らと同じぐらいの抵抗を持った人形相手に、全部異なる行動が取れるぐらいの操縦をやる──はい、スタート」
「……なんだか、もう慣れました」
「そりゃあ嬉しいこった。ちゃんとこれが終わったらご褒美もやるよ……そうだな、これいるか?」
要らない短刀……を出すのはもったいない気がしたので、さまざまな武器をこの場に並べておく。
壊れる前提で作ってみた装備なので、スキルが作動するかどうかの試運転ようでしかない……サリスならば、もっとよい使い方ができるだろうが。
「武器も道具の一種、使えるよな?」
「は、はい。ですが、使い方がなんとなく分かるだけですよ?」
「それで充分。この武器もついでに人形が使えるようにする……この指輪を付けておけば補助してくれるから、どうにかやってみろ」
「やってみます!」
ちなみに効果は思考をスッキリさせるというもの、あとは疲れにくくする。
正直俺はできないと思うが……できないことは、他人にやらせるのが一番だしな。
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