103 / 121
大きな戦いに挑もう
因果を知ろう
しおりを挟む四天王とも上手く仲が良くなれた……とは言えないものの、最低限言葉を交わせる程度まで、信じてもらえるようになった。
催眠でアイツらの潜在能力、その一割を引きだしたお蔭であろう。
「というか、四天王の最弱ってそういう部分が解放されてない内に死ぬから、最弱として扱われるんだろうな」
どいつもこいつも凡人たる異世界人よりも強かったのだが、その中でも一抜けて凄まじい力を秘めていたチキンなオーガが、特にそのパターンに該当していた。
何でも、魔力の扱いに長けた特殊な種族らしいのだが、いわゆる先祖返り……いや、始祖返りというヤツだったのだ。
今まではその魔力とアンデッド使役能力しか無かったのだが──それが目覚めた。
お蔭で俺としても便利なスキルを得ることができた……それこそメィシィのときに持っていなかったのが惜しいと思えるほどに。
「──それで、こんな感じでどうだ?」
「いやいや、さすがイムだね。これで戦力強化もできた……やっぱり持つべきものは、異世界人の友だね」
「まあ、魔王軍がしっかりとやっていてくれれば、俺の生活も安泰だからな。これからも人族相手に、永遠の牽制を繰り返してくれ」
「……イムって、向こうの世界で嫌われてなかった?」
嫌われてはいなかったな……ただ、面倒臭いヤツだと思われていただけだ。
関わるだけ損、そう思わせるのにどれだけ苦労したことやら。
その苦労が功を奏し、見事に安寧のグータライフ(造語)を得ることができたというのに、その苦労分を一パーセントも取り戻していない間に異世界召喚……嗚呼、俺ってヤツは本当に不幸だよ。
「それはそれとして──」
「ねえ、なんで無視するの? あっ、もしかして図星なんでしょ?」
「……どれぐらい持つんだ? 少しずつ雇用者が面倒事を俺に処理させているが、暴力的な解決法は取れていない」
「図星なんだ。それに関しては、ちょうど強くなった四天王が居るからね、一人を派遣してどうにかさせればいいよ。もちろん、負けフラグだけは回避して、撤退成功フラグを立てられるように立ち回りを気にしてね」
悪魔の知識なんだろうが、さすがに違和感が半端ないこの世界の……しかも魔王による『フラグ』という発言。
だがまあ、言っていることには肯定しかできないので、とりあえず頷いておく。
「まあ、『我ら四天王の中でも最弱』は絶対に言ってほしいポイントだな。最近は、いきなり最強を出してそのギャップを狙う場合もあるらしいんだが……王道が一番だ」
「邪道っていうか、外道のイムがそれを言うのもちょっとおかしい気がするけど。まあ、そこは無難にやってみよう」
なんて会話をしていると、すでに食材が尽きたのかバーベキューもお開きというムードになってきた。
最後に皿に載せていた肉を頬張ってから、改めて魔王の方を向く。
「疑問だったんだが、【勇者】が【魔王】を倒せる理由って何なんだ? たしかに成長すれば最強にはなるけど、最凶が相手なんだから普通は死ぬだろ」
「えっと、こういうときはなんて言うんだったっけ? …………そう、『ご都合主義』ってヤツ。【魔王】は【勇者】に心臓を貫かれたら、全防御を無視して確実に死ぬ。だから歴代の魔王の大半は、それが理由で死亡だ」
「ある意味負け確定イベントってことか。けどそうか、そうでもしないと勝てる見込みはほぼゼロになるのか」
「同じタイミングで呼ばれた【勇者】の仲間とは思えない台詞だよね」
澄ました笑みでそう語る魔王。
しかし、ずいぶんとまあ理不尽なシステムだな……たしかに有りと言えば有りだ、そういう絶体絶命の危機に一発逆転の手段で勝つというのも。
だが、さすがにやり過ぎだ。
レベル1の雑魚でもクリアできそうな条件にしてしまえば、最初からスタート地点を魔王城にしてもできてしまうではないか。
「とは言っても、【勇者】が専用の固有能力に覚醒しないとソレは起きない……イムでも真似っこできない力でね」
「……そうかよ。なら【魔王】が死ぬのも同じ仕組みなのか? そういうスキルを持っているとか」
「──【魔王】そのものが目印なんだ」
「…………えげつないな、本当に」
力を持つ者には責任が伴うという、これまた面倒にもほどがある言葉がある。
これに当て嵌めて言うなら、【魔王】はその力があるんだから責任持って死ねよ、ということだ。
「仕方ない、この魔王は誉れ高き勇者様たちが来るまでのストックにするか……ちなみにだが、次のヤツって決まってるのか?」
「【勇者】に殺された場合、次は数十年後ぐらいになる。それ以外の相手に殺されたら、その相手によってはすぐ【魔王】が決まる」
「俺は嫌だぞ」
「異世界人が【魔王】になったケースはあるよ。ちょうど闇魔法の使い手で……おっと、ピッタリここに暗黒魔法スキルを持っている異世界人が居るよ」
ほんの少しだけれども、控えていた笑みが全面的な笑いへと移行する。
つまり分かっていてスキルをコピーさせたと……そうだったのか。
「まあ、別にそれならそれでいい。もしそうなったら、お前の力も使えるんだろう?」
「継承できたなら」
「悪魔を扱き使って、グータライフ。嗚呼、実にいい考えだ。他に方法がなかったらそのときは……先に【勇者】をどうにかして、それから【魔王】を得ることにするか」
「……イムは本当に、この世界の誰も考え付かないようなことを思い付くね」
創作物を読み漁ったヤツならば、確実に閃くであろう解決策だ。
敵対する存在をすべて屠っておけば、世の中には平和が訪れるのが世の常なのだから。
0
お気に入りに追加
152
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?
みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。
なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。
身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。
一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。
……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ?
※他サイトでも掲載しています。
※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。
【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる