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大きな戦いに挑もう

因果を知ろう

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 四天王とも上手く仲が良くなれた……とは言えないものの、最低限言葉を交わせる程度まで、信じてもらえるようになった。

 催眠でアイツらの潜在能力、その一割を引きだしたお蔭であろう。

「というか、四天王の最弱ってそういう部分が解放されてない内に死ぬから、最弱として扱われるんだろうな」

 どいつもこいつも凡人たる異世界人よりも強かったのだが、その中でも一抜けて凄まじい力を秘めていたチキンなオーガが、特にそのパターンに該当していた。

 何でも、魔力の扱いに長けた特殊な種族らしいのだが、いわゆる先祖返り……いや、始祖返りというヤツだったのだ。

 今まではその魔力とアンデッド使役能力しか無かったのだが──それが目覚めた。

 お蔭で俺としても便利なスキルを得ることができた……それこそメィシィのときに持っていなかったのが惜しいと思えるほどに。

「──それで、こんな感じでどうだ?」

「いやいや、さすがイムだね。これで戦力強化もできた……やっぱり持つべきものは、異世界人の友だね」

「まあ、魔王軍がしっかりとやっていてくれれば、俺の生活も安泰だからな。これからも人族相手に、永遠の牽制を繰り返してくれ」

「……イムって、向こうの世界で嫌われてなかった?」

 嫌われてはいなかったな……ただ、面倒臭いヤツだと思われていただけだ。
 関わるだけ損、そう思わせるのにどれだけ苦労したことやら。

 その苦労が功を奏し、見事に安寧のグータライフ(造語)を得ることができたというのに、その苦労分を一パーセントも取り戻していない間に異世界召喚……嗚呼、俺ってヤツは本当に不幸だよ。

「それはそれとして──」

「ねえ、なんで無視するの? あっ、もしかして図星なんでしょ?」

「……どれぐらい持つんだ? 少しずつ雇用者が面倒事を俺に処理させているが、暴力的な解決法は取れていない」

「図星なんだ。それに関しては、ちょうど強くなった四天王が居るからね、一人を派遣してどうにかさせればいいよ。もちろん、負けフラグだけは回避して、撤退成功フラグを立てられるように立ち回りを気にしてね」

 悪魔の知識なんだろうが、さすがに違和感が半端ないこの世界の……しかも魔王による『フラグ』という発言。

 だがまあ、言っていることには肯定しかできないので、とりあえず頷いておく。

「まあ、『我ら四天王の中でも最弱』は絶対に言ってほしいポイントだな。最近は、いきなり最強を出してそのギャップを狙う場合もあるらしいんだが……王道が一番だ」

「邪道っていうか、外道のイムがそれを言うのもちょっとおかしい気がするけど。まあ、そこは無難にやってみよう」

 なんて会話をしていると、すでに食材が尽きたのかバーベキューもお開きというムードになってきた。

 最後に皿に載せていた肉を頬張ってから、改めて魔王の方を向く。

「疑問だったんだが、【勇者】が【魔王】を倒せる理由って何なんだ? たしかに成長すれば最強にはなるけど、最凶が相手なんだから普通は死ぬだろ」

「えっと、こういうときはなんて言うんだったっけ? …………そう、『ご都合主義』ってヤツ。【魔王】は【勇者】に心臓を貫かれたら、全防御を無視して確実に死ぬ。だから歴代の魔王の大半は、それが理由で死亡だ」

「ある意味負け確定イベントってことか。けどそうか、そうでもしないと勝てる見込みはほぼゼロになるのか」

「同じタイミングで呼ばれた【勇者】の仲間とは思えない台詞セリフだよね」

 澄ました笑みでそう語る魔王。
 しかし、ずいぶんとまあ理不尽なシステムだな……たしかに有りと言えば有りだ、そういう絶体絶命の危機に一発逆転の手段で勝つというのも。

 だが、さすがにやり過ぎだ。
 レベル1の雑魚でもクリアできそうな条件にしてしまえば、最初からスタート地点を魔王城にしてもできてしまうではないか。

「とは言っても、【勇者】が専用の固有能力に覚醒しないとソレは起きない……イムでも真似っこできない力でね」

「……そうかよ。なら【魔王】が死ぬのも同じ仕組みなのか? そういうスキルを持っているとか」

「──【魔王】そのものが目印マーカーなんだ」

「…………えげつないな、本当に」

 力を持つ者には責任が伴うという、これまた面倒にもほどがある言葉がある。
 これに当て嵌めて言うなら、【魔王】はその力があるんだから責任持って死ねよ、ということだ。

「仕方ない、この魔王は誉れ高き勇者様たちが来るまでのストックにするか……ちなみにだが、次のヤツって決まってるのか?」

「【勇者】に殺された場合、次は数十年後ぐらいになる。それ以外の相手に殺されたら、その相手によってはすぐ【魔王】が決まる」

「俺は嫌だぞ」

「異世界人が【魔王】になったケースはあるよ。ちょうど闇魔法の使い手で……おっと、ピッタリここに暗黒魔法スキルを持っている異世界人が居るよ」

 ほんの少しだけれども、控えていた笑みが全面的な笑いへと移行する。
 つまり分かっていてスキルをコピーさせたと……そうだったのか。

「まあ、別にそれならそれでいい。もしそうなったら、お前の力も使えるんだろう?」

「継承できたなら」

「悪魔を扱き使って、グータライフ。嗚呼、実にいい考えだ。他に方法がなかったらそのときは……先に【勇者】をどうにかして、それから【魔王】を得ることにするか」

「……イムは本当に、この世界の誰も考え付かないようなことを思い付くね」

 創作物を読み漁ったヤツならば、確実に閃くであろう解決策だ。
 敵対する存在をすべて屠っておけば、世の中には平和が訪れるのが世の常なのだから。

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