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大きな戦いに挑もう

外で焼こう

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「……えっ、なんだって?」

『魔王様がお呼びですよ』

「…………眠い、パスする」

 高速思考と並列思考、二つの修練をやっていると体ではなく頭や心が疲労する。
 精神を回復させる魔法もあるにはあるが、それで治せないのがスキルの過負荷だ。

 何度も失敗し、強制的に思考を停止させ続けた結果……ガチの疲労困憊である。
 なので今日の俺は普段の面倒だから動かない、のではなく動けないから動かないのだ。

『そういうわけにはいきません』

「いや、動けないんだって」

『……分かりました。そういうことなのであれば、魔王様より受けていた指示通りに行わせていただきます』

「……へっ?」

 ガタッと揺れる俺のベッド。
 先ほどより天井が近づいたかと思えば、シミの位置がズレる……というより、ベッドが動いていた。

『直接運びます。申し訳ありませんが、少しの揺れは我慢してください』

「…………あー、うん。好きにしてくれ」

 残念だが、俺に抵抗する術は無い。
 もう少し休めば、安定するのだが……まだ思考は正常ではないのだ。

  ◆   □   ◆   □   ◆

「わーおー。いつかそうなるんだろうと思って伝えておいたけど、まさか本当にそういう会い方をするなんてねー」

「……来てたのかよ」

「いやいや、そんなわけないよ。連絡を受けて転移してきたんだよ」

「へー、そうなのか」

 さすがに魔王城まで輸送するなんてことはなく、運ばれたのは談話室。
 そこでうちの幽霊にもてなされ、茶を啜る魔王に声を掛ける……ベットの上から。

「このままでいいか? 悪いが、最近寝不足でな。体を動かすのも面倒臭い」

「……ふーん。ここは結界のせいで見れないから何も言えないけど、頑張り過ぎは体に毒だよ。よければ一発楽にしとくかい?」

「要らん要らん。そうだな、優しくしてくれるなら一つ願いがあるんだが──」

「帰ってくれ、という話以外なら少しは聞いてあげるけど?」

 思いっきりバレていたが、ゆっくり考えればそれなりに思考を回せられる。

 二つの思考能力を磨いた結果、スキルを起動させずとも元の思考能力を上げることに成功したからだ。

「なら、旨い物が食べたいな。魔物って、強ければ強いほど旨いんだろ?」

「うん、それなら問題ないよ。ただ、相応の料理人が必要になるから城に来てもらうことになるけど……」

「いや、連れてきてくれよ。どうせなら、四天王もセットで連れてきて、バーベキューでパーティーでもするか?」

「ばーべーきゅー……たしか、親しい間柄の者たちが集まって、外で食べ物を焼く行為を楽しむことだっけ?」

 そういうものだったか?
 改めて定義を問われると、正直どんなものだったのか分からない。

 覚えている覚えていないの問題ではなく、知っているかどうかの問題だ。

「あのさ、送迎はこっちでやるからやっぱりお城でやらない? ほら、ここだと他の人に目を付けられることになるよ?」

「それぐらい、悪魔がなんとかできるだろ」

「言ってくれるね。けど、その期待には応えられないから考慮して」

「……旨い物、出るんだろうな」

 もちろん、と答えた魔王に結論が定まる。
 この後俺は身支度をして、異形の存在に連れられて魔王城へ乗り込んだ。

  ◆   □   ◆   □   ◆

「あれ、避けられてる?」

 魔王指揮の下、バーベキューが始まった。
 青い空、白い雲、温かな日差しがなかなかに優雅な時間を作り上げ……まあ、魔王が天候を操作し、強引にそうしたのだけれども。

 そんな中、誘っておいた四天王が集まっていたのだが……全員が俺から距離を取り、すぐに魔王と合流できる場所に居る。

「ああ、うん。やっちまったからな……あの時の俺は、いろいろとダメだった」

 自身の精神を調整し、熱血モノ並みのテンションでボコっていたな。
 まあ、それを観戦していた魔族には満足してもらったのだからそれで充分だろう。

「……まあ、どうでもいいか」

 これが主人公とかだったら、接点を持ってわざわざ仲良くなりに行く展開なんだろうけど、そうする理由も必要もないので放置だ。

 ちょうど持ってきてくれた肉串を、魔王城付きの侍従から受け取り頬張る。
 中から溢れ出す肉汁が……なんて食レポは割愛、感想はシンプルに一言。

「旨いな……」

「そう言ってもらえて何よりだよ」

「魔王か」

「その肉は……なんて細かいことは求めてなさそうだね、いちおう言っておくと魔竜の肉なんだよ。普通の竜と違って、狂っているから殺しても文句は言われない」

 竜の肉は旨いとされるが、正常な個体を殺すとどこかにあるとされる竜の国と揉めるんだとか。

 だが、魔竜は最初から竜ではあるが竜では無い存在として扱われるらしい。
 ……言葉の意味は分からんが、わざわざそれを言う意味ならば分かる。

「で、それを狩れと?」

「さぁて、どうだろうね」

「……まあ、うちにはワイバーンが居るから竜の肉には困らないんだけどな。再生できるものなんだから、ステーキも時間さえあれば喰い放題だ」

「そ、それはちょっと……可哀想だね」

 可哀想、とは言っているが悪いとは一言も言っていないこの魔王。

 もし食料難とかそういう状況に至ったら、間違いなくそういう部位を切って再生させるとか、そういう手段に出るんだろうな。

「けど、そっか……そういう手も……」

 ──だって、思案しているのだもの。

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