上 下
17 / 121
異なる世界に行ってみよう

素晴らしき日々を過ごそう

しおりを挟む


 あれから数日が経過している。
 それは、俺にとって素晴らしい日々が繰り返されているとも言えるだろう。

 ただただずっと同じようなことを作業的にこなし、気が付けばもう寝る時間……実に最高だよな。

 ──ああ、関係ないだろうがここで龍に関する話のエピローグかな?

 実はあの後、レベリングのためにもう一度一人で訪れたのだが、そこに居たのは龍ではなくてゴブリン(キング)だった。

 龍によると、俺が従魔として龍を強奪した時点で、ダンジョン側が龍を召喚することができなくなったとのことだ。

 まあ、地下でヒ……ヒナギ君が大暴れだろうしな。
 ユウキへの“真理誘導”と敵討ちができた時点で、本当なら用済みだろう。

 もう、切り捨てられても仕方がないのだろうな──それにクラスメイトにいるスキルの持ち主が、新たに龍を従魔にできるのは困るのかもしれない。

「ふんふんふ~ん」

 そして俺はというと、そんな退屈で素晴らしい日々への讃歌を鼻歌で歌い、訓練場で弓による曲芸を行っている。

 ──矢の代わりに剣を、槍を、斧を放ち、的をちょくちょく壊していくだけだ。

 元素魔法で作った的なので、自由に破壊可能なので怒られる心配はない。
 やりたいように遊ぶ……嗚呼、実に素晴らしい時間ではないか!

「ふんふふふ~ん」

 七色の矢を同時に番え、それぞれ別の的へと当てていく。

 ある的は発火し、ある的は冷凍され、ある的は電気に包まれ、ある的はバラバラに刻まれていった。

「ふふんふ《主よ》……んあ? どうしたんだよ急に……って、もうそんな時間か」

 今度は身体強化をギリギリまで行った状態で、『天の矢』を放とうと思ったんだが……定時連絡が頭の中に響く。

「それで、地下に異世界人は居たか? ──『マチス』」

《いえ、全階層を捜索したのですが、残念ながら確認できませんでした。隠し部屋などは捜索できていませんので、そちらにいる可能性もあるのですが……》


 マチスとは、俺が与えた名前だ。
 魔の地龍ジェルスだから略してマチス。
 安直だが、その名を貰った側が納得しているんだから……特に問題はないだろう。

 マチスには、『王家の迷宮』の探索を行ってもらっていた。
 ヒ……ヒメル君に関する情報を探してほしかったので、頼んだのだ。

 まあ、居ないならいないで良いんだが。

「ああ、そうならたぶん脱出したんだろう。アイツはもともとダンジョン物の知識を掴んでいたんだろうしな。……で、何か特別な物は存在していたか?」

《隠し部屋の一つにすでに封印の解かれて散らかされた鎖と、最深層に何者かによって造られたと思われる住居が存在しました》

 鎖と人工の部屋。
 前者は多分ヒ……ヒナギ君のハーレムメンバーが封印されていて、後者は誰かが昔住んでいたんだろう。

 ヒ……ヒワリ君が造った物かは分からないが、誰であろうと居たことは事実だな。

「へえ、印は?」

《すでに用意してあります。いつでも主をお迎えできるように、準備は整えています》

「そっか。なら、そのうちそっちに行く。マチスはそこでレベリングを行ってくれ」

《ハッ!》

 頭の中に声が聞こえてくる感覚が消え、定時連絡は終わる。
 ああ、ちなみにだがマチスを俺は導いていないぞ。

 主の【停導士】では自分の成長が止まります、ですが自分はもっと主のために強くなりたい的なことを言っていたな。

 ……まあ、そこら辺は自由意思にお任せしておいた。
 うん、強い駒の方が欲しいからな。

「さて、続きだ続き」

 再び弓を構え、俺は矢を射っていく。
 無駄なことだと分かっていても、誰にも止められないこと……それこそが素晴らしい。

 ──ああ、実に最高な時間だ!



 ……俺を自由にしてくれよ。
 先ほどまでの解放感はどこかへ消え去り、今は憂鬱な気分が体中を支配している。

「ねぇ、イム。ちょっと聞いてるの?」

「……ああ、はいはい。聞いてますよ」

「絶対聞いてないじゃない。アンタ、今までこんな所に隠れていったい何をしてたの?」

 バレた、あっさりバレてしまう。
 龍を倒すのに貢献した和弓女子は、貰えた大量の経験値で一気に急成長Lvアップを果たした。

 その結果、誰かを導かなければ然程レベルが上がらない『停導士』によって発動していた催眠魔法は、成長した和弓女子を遮るだけの性能を失ったようだ。

 ──別の方法を試さないとな。

「……ハァ、誰にも見られないで練習をしたかったんですよ」

「どうして? みんなでやった方が教え合うことができるじゃない」

「いや、俺はそういうタイプじゃないんで」

 むしろ、一人で黙々とやりたいタイプだ。
 だからさっさと帰ってくれ……塩撒くぞ。

「今、変なことを考えなかったかしら?」

「どうしてそう思ったので?」

「女の勘よ」

 たぶん、それは勘じゃない。
 それはきっと、自意識過剰と言うんだ。

 そう言うと絶対に怒られて面倒なことに発展するので、そっと腹の奥に流し込む。

「さっ、一緒に練習しましょ。イムの腕前を見せてほしいのよ」

「俺、人前だと性能が落ちるタイプだから」

「前に見せてくれたじゃないの。それとも、あのときよりももっと凄いのかしら? ならなおさら見たいわね」

 ……チッ、すっかり忘れてた。
 そういや見せちまった時があったな。

「……どうして、そこまでして俺に関わろうとするんですか? 学校でまったく絡んだことがないじゃないですか」

「別に、ただイムの弓の腕前が気になっただけよ。ダンジョンで見たとき、それは格段に向上していたわ。だってイムの狙った所に百発百中だったじゃない」

「まあ、練習しましたから」

 うん、コピーしまくったからな。
 和弓女子のスキルでもある必中スキルもコピーしてある。

 ──完全に遠距離系のチートだよな。

「それじゃあ、これからも俺は一人で練習したいんで、それじゃあ」

「まっ、待ちなさいよ!」

 それで待つのは、忠実なヤツかバカなヤツだけだろ。
 前者はマチス、後者は和弓女子だな。

 ……ハァ、勇者のパーティーメンバーに絡まれるなんて面倒だな。
 どうせユウキにホの字なんだし、さっさとアイツの所に行けば良いのに。

 そんなことを思いながら、追いかけて来る和弓女子からスキルを駆使して逃げ出した。

 ──嗚呼、本当に面倒だな~。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

赤ん坊なのに【試練】がいっぱい! 僕は【試練】で大きくなれました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はジーニアス 優しい両親のもとで生まれた僕は小さな村で暮らすこととなりました お父さんは村の村長みたいな立場みたい お母さんは病弱で家から出れないほど 二人を助けるとともに僕は異世界を楽しんでいきます ーーーーー この作品は大変楽しく書けていましたが 49話で終わりとすることにいたしました 完結はさせようと思いましたが次をすぐに書きたい そんな欲求に屈してしまいましたすみません

性転換マッサージ2

廣瀬純一
ファンタジー
性転換マッサージに通う夫婦の話

異世界サバイバルセットでダンジョン無双。精霊樹復活に貢献します。

karashima_s
ファンタジー
 地球にダンジョンが出来て10年。 その当時は、世界中が混乱したけれど、今ではすでに日常となっていたりする。  ダンジョンに巣くう魔物は、ダンジョン外にでる事はなく、浅い階層であれば、魔物を倒すと、魔石を手に入れる事が出来、その魔石は再生可能エネルギーとして利用できる事が解ると、各国は、こぞってダンジョン探索を行うようになった。 ダンジョンでは魔石だけでなく、傷や病気を癒す貴重なアイテム等をドロップしたり、また、稀に宝箱と呼ばれる箱から、後発的に付与できる様々な魔法やスキルを覚える事が出来る魔法書やスキルオーブと呼ばれる物等も手に入ったりする。  当時は、危険だとして制限されていたダンジョン探索も、今では門戸も広がり、適正があると判断された者は、ある程度の教習を受けた後、試験に合格すると認定を与えられ、探索者(シーカー)として認められるようになっていた。  運転免許のように、学校や教習所ができ、人気の職業の一つになっていたりするのだ。  新田 蓮(あらた れん)もその一人である。  高校を出て、別にやりたい事もなく、他人との関わりが嫌いだった事で会社勤めもきつそうだと判断、高校在学中からシーカー免許教習所に通い、卒業と同時にシーカーデビューをする。そして、浅い階層で、低級モンスターを狩って、安全第一で日々の糧を細々得ては、その収入で気楽に生きる生活を送っていた。 そんなある日、ダンジョン内でスキルオーブをゲットする。手に入れたオーブは『XXXサバイバルセット』。 ほんの0.00001パーセントの確実でユニークスキルがドロップする事がある。今回、それだったら、数億の価値だ。それを売り払えば、悠々自適に生きて行けるんじゃねぇー?と大喜びした蓮だったが、なんと難儀な連中に見られて絡まれてしまった。 必死で逃げる算段を考えていた時、爆音と共に、大きな揺れが襲ってきて、足元が崩れて。 落ちた。 落ちる!と思ったとたん、思わず、持っていたオーブを強く握ってしまったのだ。 落ちながら、蓮の頭の中に声が響く。 「XXXサバイバルセットが使用されました…。」 そして落ちた所が…。

剣と魔法の世界で俺だけロボット

神無月 紅
ファンタジー
東北の田舎町に住んでいたロボット好きの宮本荒人は、交通事故に巻き込まれたことにより異世界に転生する。 転生した先は、古代魔法文明の遺跡を探索する探索者の集団……クランに所属する夫婦の子供、アラン。 ただし、アランには武器や魔法の才能はほとんどなく、努力に努力を重ねてもどうにか平均に届くかどうかといった程度でしかなかった。 だがそんな中、古代魔法文明の遺跡に潜った時に強制的に転移させられた先にあったのは、心核。 使用者の根源とも言うべきものをその身に纏うマジックアイテム。 この世界においては稀少で、同時に極めて強力な武器の一つとして知られているそれを、アランは生き延びるために使う。……だが、何故か身に纏ったのはファンタジー世界なのにロボット!? 剣と魔法のファンタジー世界において、何故か全高十八メートルもある人型機動兵器を手に入れた主人公。 当然そのような特別な存在が放っておかれるはずもなく……? 小説家になろう、カクヨムでも公開しています。

処理中です...