99 / 121
大きな戦いに挑もう
いろいろ考えよう
しおりを挟む魔王領 大使館
前回──第二王女襲来の反省を生かし、今回は魔王領で優雅な一日を送ることに。
館の中には住人がいっぱい居るものの、そこに『※生者限定』と絞り検索を掛けてしまえば解答は1としか出ないこの建物。
──いわゆる幽霊屋敷である。
そんな幽霊たちを大量ゲットし、労働力として活用する俺……生きてないから労働基準法とかには反していないとこじ付けておく。
『おはようございます、ご主人様』
「……誰?」
『フェールです。この通り、名札も付けていますのでお見知りおきを』
「分かった……幽霊メイドでいいか?」
そう告げると名札を目の前に押し付けてくるので、仕方なく覚えたと伝える。
名札が剥がせないからといって体ごと迫るのはいいが、幽霊だから内側まで透けてしまうことを忘れないでもらいたい。
『ご主人様、幽霊の体がお好みなので?』
「いや、別に性欲とか湧かないからな。顔は世間一般から見て美人だと思うが、俺自身からすると綺麗という感想しかない」
『そ、そうですか……嬉しいです』
「嬉しいのは別に構わないんだが、あんまり感情を発露させるなよ──消えてるぞ」
幽霊なので、なぜか今のやり取りで成仏しかかっている。
俺が魔力を注げば強制的に維持させることも可能だが、今回はそんなにヤバくはないので本人が感情を制御すれば元に戻るだろう。
『もも、申し訳ありません!』
「貴重な人材なんだ、残ると決めたからには自分で定めた使命のために残り続けろ。俺がやらなくてはいけないことが増えてしまうではないか──さて、そろそろ起きるか」
『は、はい! すぐに準備をしてまいりますので!』
ペコリとお辞儀をすると、どこかへ一瞬で消える……たしかフェール。
幽霊だからなのか、この屋敷内に限り転移が可能なんだとか……しかも全員。
「それだけ怨念で強化されていたってことなのかな? まあ、そんなに忙しなく動きたくないから構わないけど。俺もついでに運べたらよかったのに」
幽霊専用の能力なようで、生きている者をセットで運ぶことはできない。
なので俺が霊化すれば、その部分だけなら運んでもらえる……行き先が食堂なら、肉体部分がそれにあやかれないので却下である。
◆ □ ◆ □ ◆
こちらに来ても、朝の特訓は忘れない。
幽霊たちにも強要してあるので、しっかりと鍛錬を行っている。
『さて、今回は何をするか……』
魔王が自慢するようにわざとコピーさせてきた暗黒魔法、それはある程度モノにした。
ちなみにこれ、犬騒動のあとに直接交渉して頂いた魔法だ……『これで君も魔王だ!』とか言われた時は少々イラッとしたが。
使えば闇魔法に付与することも瞬時にできるし、複数展開した闇魔法の中に一つだけ混ぜる……なんてことも今ではできる。
優秀な人材か抹殺対象の前でしか使えないだろうが、それでも鍛えてはいた。
「別のことをやるとしよう──(並速思考)起動っと」
ケルベロスにも魔王と似た感じで転写させてもらったのだが、非常に頭が痛くなる。
催眠で忘れようとしても、頭以外のどこかが悲鳴を上げているようであまり使わずに放置していた。
けどまあ、便利には違いないのでどうにか会得しておきたい。
これがあれば、並列的な思考を行ったうえでそれを加速させることができるからな。
「段階的に、並列思考からやっていこう。たぶん一気にやるから限界を超えるんだろう」
すでに視界が真っ赤になっている。
一秒で十秒分加速させただけでも、二つに増やした思考に耐えられないのが現状だ。
そして解除した途端、物凄く糖分を頭が欲している気がしてきた。
「疲れた脳には甘い物ってこういうことだったのか……妹、そんなに疲れてたのか?」
口癖のように頭の使いすぎと言って俺をパシらせていた……もちろん、口癖なのはパシラせる方であって、頭云々ではないぞ。
けどまあ、たしかに甘いものを食べているときの妹は満足そうではあったが。
「とりあえず補給しようか……これかな?」
前に暇潰しで料理スキルの練習として作っていたお菓子……これも妹のお蔭だな。
その余りを仕舞ったままだったので、取りだして口に含んでおく。
「だいぶよくなってきた……ブドウ糖云々を考えて作ったのがよかったのかもしれない」
こんな物を作れと、レシピを見せてきたことがあった妹。
それを記憶から引っ張り出して作ってみたのだが、奴隷たちに絶賛だった。
「よし、そろそろ始めようか」
意識を切り替え再び並速思考スキルを使ったうえで、並列のみに意識を傾ける。
すると速度はそのまま、思考だけが丸々二つ分となって異なる思考が行えるように。
(1+1=2、1+2=3、2+3=5……いや、面倒臭いな)
(7×1=7、7×2=14、7×3=21……いや、面倒臭いな)
どちらも同じ結論には至ったものの、しっかりと異なる計算を果たせている。
ついでに、計算二つ分の余りの要領で筋トレができるのでやっていることは三つだ。
「まずは並列を極めよう。それから高速化に対応して……やることが多いな」
(面倒だな)
(疲れそう)
口と思考×2が同じ意見を出しているが、それでもやった方が後が楽なのだ。
そう自分に命じて、どんどん体を慣らしていくのだった。
0
お気に入りに追加
153
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
男子中学生から女子校生になった僕
葵
大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。
普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。
強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!
漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?
みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。
なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。
身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。
一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。
……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ?
※他サイトでも掲載しています。
※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。
ずっと女の子になりたかった 男の娘の私
ムーワ
BL
幼少期からどことなく男の服装をして学校に通っているのに違和感を感じていた主人公のヒデキ。
ヒデキは同級生の女の子が履いているスカートが自分でも履きたくて仕方がなかったが、母親はいつもズボンばかりでスカートは買ってくれなかった。
そんなヒデキの幼少期から大人になるまでの成長を描いたLGBT(ジェンダーレス作品)です。
性癖の館
正妻キドリ
ファンタジー
高校生の姉『美桜』と、小学生の妹『沙羅』は性癖の館へと迷い込んだ。そこは、ありとあらゆる性癖を持った者達が集う、変態達の集会所であった。露出狂、SMの女王様と奴隷、ケモナー、ネクロフィリア、ヴォラレフィリア…。色々な変態達が襲ってくるこの館から、姉妹は無事脱出できるのか!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる