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外国へ遊びに行こう

朝練を終えよう

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「……嗚呼、面倒だった」

 地面に転がる奴隷たちを、別の奴隷たちが回収していく。
 欲望に忠実な奴隷のお蔭で、やりたかった技はある程度モノになった。

「じゃあ、配っておいてくれ」

「畏まりました」

 メイド長に指示をしておけば、後のことは勝手にやってくれるだろう。
 大切なのは、俺が指示をしたという事実だけだし。

「──というわけだな。ここでの朝練、まだやる気があるか?」

「いつも、やっているの?」

「別に。試したいことがあれば、時々って感じだな。嫌がるならやらせてないし、失敗すれば詫びは渡している。あくまで自己責任ってやつだな」

「……意外」

 いつの間にかレクリエーション的な運動を終えたフレイアが、こちらを見ていた。
 スキルを使っているようで、魔力の波動が奴隷たちに向かっている。

「誰も嫌がってない?」

「だから言っただろう、強制はしてないんだよ。アイツらは褒美が欲しくて、自分から率先して動いている。危険度に応じて、ちゃんと報酬がある……いわばこれは、ビジネスと言っても過言ではない」

「そうじゃなくて……イムを……もがっ」

「おい、俺を……なんだ?」

 振り返ってみれば、フレイアが奴隷たちに囲まれていた。

「なんだ、何か言われちゃ困ることでもあったのか?」

「い、いえ、そのようなことは……」

「まあ、別にいいけど。お前たちに嫌われていても憎まれていても、奴隷と主という関係がある以上殺すことはできないわけだし」

「そ、そういったことを考えている者は、私たちに中にはいません!」

 誤魔化し役っぽい奴隷はそう言うし、彼女自身に嘘は無いように見える。
 だが、個人個人を探れば真相はすぐに分かるだろうな。

「!」

「……いや、面倒だな。そういうヤツが居るなら、俺にその情報が漏れる前に捕らえてくれればそれでいい。俺の面倒事を解消しろ、命令したのはそれだけだしな」

「こ、心得ております」

 神妙な顔つきで、奴隷は頷いた。
 捕まえといて、誰かが許しを請うなら催眠で脳を弄っておしまいにする。

 もし、誰もそれを求めないなら……人形オモチャとして、踊っはたらいてもらうだけだ。

「なら、それでいい。朝練は終了だ、フレイアもそろそろ城に帰れ」

「わ、分かっています」

「そうか……ピィン、やっておけ」

「畏まりました」

 以降フレイアの朝練に対応させようとしていたので、名前は覚えておいた。
 運動係はフレイアを、待機しているであろう彼女の侍従たちの下へ連れていく。

 その際、奴隷たちがフレイアに詰め寄り何かを言っているが……誰かが防音を施しているようで、声は届いてこない。

 読唇術を使ってみようと思ったが、そちらも闇魔法で対策がされている。

「そこまでしてか……」

 本当に危険な情報であれば、一人ぐらい俺の味方になってくれるだろうからとりあえず問題ないだろう。

 もしかして、俺へのサプライズか? って祝うようなこと、無かったな。

「ハァ……朝風呂でも入るかな」

 朝練に参加していない奴隷が、すでに風呂の準備をしてくれてあるだろう。

 日本人たる者、風呂を忘れるべからず──というか、急がないと朝練終わりの奴隷たちの朝食に飯の時間が被ってしまう。

  ◆   □   ◆   □   ◆

「ふ~、やっぱり朝風呂は気持ち好いな~」

 好いものは素直に好いと言うべきだ。
 中でも風呂ほど好いものを、未だにこの世界で見たことは無い。

 異世界だけあり、こじんまりとしたバスタブで我慢する必要は無くなった。
 何より、妹の長風呂に飽き飽きする日々が無いだけでも至上の風呂とも言える。

「アイツ、風呂に何でも持ち込んで時間を潰してたからな……それなのに、俺にはさっさと出ろって言うし」

 ただ、俺がある程度入浴に満足して、それから時間を潰そうとするとそう言ってくるんだよな。
 妹という存在には、兄が暇かどうかを暴くセンサーでもあるのかもしれない。

「誰か、居るか?」

「──ここに」

「名前は……チーリンだったか?」

「はい」

 黄色の鱗が首筋から見える少女。
 前にも似たような展開があったので、どうにか思いだせた。

 しかしまあ、尻尾が揺れているな……せっかく登場は隠密っぽいのに、なんでだろう。

「食堂の込み具合はどうだ?」

「すでに満員です」

「マジか……長風呂しすぎたな」

 女子は長風呂、だから間に合うと思ったんだが……やはり一時間も入っていれば、逆に抜かれてしまうか。

 長風呂ができるようになったせいか、つい入りすぎるんだよな。

「仕方が無い。待つしかないか……」

「……あの、お訊きしたいことがあるのですが。奴隷の身に不相応な行いなのは承知しております。それでもよろしいでしょうか?」

 面倒な言い回しで彼女は訊ねてくる。

「固い、面倒、適当にしろ。それで、何が訊きたいんだ?」

「どうしてご主人様は、わざわざ従えている奴隷たちと同じ場で、同じように食べているのでしょうか?」

「──逆に、分けた方が面倒だろ?」

「は、はい?」

 どうやら理解できなかったようだな。
 シンプルかつ分かりやすく、理由を説明したつもりなんだが……。

「そうだな……まず、俺以外の奴らにああいう食べ方をさせているのは、ストレスとかを感じさせないためだな。──ああして、一家団欒な飯を食ってれば、さすがに不満は感じさせないだろう」

「そうかと思われます」

「メイドなお前なら分かると思うが、そのうえ飯は美味い。環境も整えてあるんだから、俺に反乱する気もないだろう」

「はい、すべてはご主人様の仰る通りかと」

 これは前にも考えたことだ。
 反意とは、自身の居る環境に不満を持たない限り個人で動くことは無い。

 集団もまた、個人の不満が漏れない限りそれを実行はしないだろう。

「まあ、そういうことだ」

「……あの、ご主人様が共に同じ卓に着く理由がまだ」

「それは簡単だ。一に不満を出せなくするため、二に予約席が嫌いだから」

「な、なるほど……」

 予約とは、妹が兄をパシリにするために使うものだからな。

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