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外国へ遊びに行こう
朝練をしよう
しおりを挟むビッチについて語ったら、第三王女に力強く叩かれた……結界で防いでもよかったが、そのときのメイドの行動を恐れて受けた。
なお、防がれないと思っていたのか唖然としていたな……そのことを笑ったら、もう一発叩いてきやがったよ。
「回復魔法があるから、別にいいけどさ」
会話をする前から結界を遠隔で構築し、城のあちこちに盗聴対策を施していた。
メイドによるチェックも済んでおり、少なくとも俺より弱いヤツが盗聴することは不可能になったと思う。
「さて、あんな約束をしたからな……」
会話の最中、第三王女……いや、フレイアが鍛えると言っていたのを聞かれていた。
再び玉座に呼び戻され、ある程度護身できるぐらいに鍛えてくれと言われてしまう。
奴隷たちに任せれば楽に済むはずだったんだが……なぜか、俺も同席しろとの通達を受けてしまった。
「面倒臭い……メイドさえいなければ、普通に拒否していたのに」
俺だって、さすがに逆らっていい相手とそうでない者ぐらいの分別はつく。
絶対に逆らってはいけない……今はまだ。
「けど、具体的にどうするべきか……どうすれば、楽にサボれる?」
ちょっと考えたあと、面倒になったのですぐに眠った。
困ったら諦めて目を閉じる、これが人生においてもっとも楽な選択である。
──明日の俺、あとは任せた!
◆ □ ◆ □ ◆
──昨日の俺、ふざけんなよ!
翌日、王女が屋敷にやってきた。
朝練があるので無理だろ、的なことを言って脅した結果が俺も早朝に起きなければいけないという事態だ。
起きたくもない時間に意識を覚醒させ、引き摺るように体を動かした。
寝起きが弱いというわけでもないんだが、やりたくもないことをやるという点が体を鉛のようにしている。
「お、おはようございます……イム……大丈夫ですか?」
「んー? あ、ああー、もう少ししたら、目も覚める……と思う」
「そ、そうですか」
「その間は……メイドに任せるから。誰か、フレイアを任せた」
誰かが了承の意を示したことを確認し、俺の意識は再びブラックアウトする。
──そして、再び目を覚ます。
『待たせたな。じゃあ、朝練をやるか』
「……あの」
『と、言ってもまずは基礎能力を上げるところからだがな。俺も死にたくはないから、参加して筋トレはしているんだぞ』
「どうして半透明なんですか!? あと、目を閉じたまま体の方が……」
どうやらフレイアは、かつてのヒステリックをまた起こしてしまったようだ。
やれやれといったポーズを取って、すぐに奴隷たちにやらせている朝練に参加する。
『いいか。俺は朝練をしたくない、だが鍛えないと不味い。だから、こうする』
「分離……?」
『正解。まあ、やり方は企業秘密だがな』
なんやかんやの末、肉体と魂魄を剥がした状態でそれぞれを動かせるようになった。
ただし、肉体は催眠で無理に動かしているのが現状なので、小難しい動きはできない。
『フレイア、お前にはこれと似たようことをやってもらう……どうせ嫌がると思った。すでに説明して、メイドにも許可は得てある』
「リディア……」
『まあ、特に痛くは無い……と思うぞ』
実験はしてある。
適性が無いということはないし、そもそもフレイアならできると思う。
霊体のまま近づき、フレイアの体に腕を勢いよく突っ込む。
事情を知らないフレイアが連れてきたメイドは悲鳴を上げるが、うちの奴隷たちはまったく気にせず朝練を続けている。
──散々やったからな、アイツらで。
だが、フレイアに変化は起きない。
俺が腕を引き抜いても、体に傷などもなく変わらない姿だ。
「……何をしたの?」
『お前の魂魄を引っ張りだして、体の外側に纏わせた。要するに、今のお前は魔核をむき出しにしたスケルトンみたいなものだ』
「…………」
『意味はある。だから、そんな目で睨むな』
分かる人には分かるのだが、今のフレイアの体は薄らと光っている。
レベルとも呼べる魂魄の輝きが、そのまま剥き出しになっているからだ。
『レベル、低いんだな』
「見ての通り、蝶よ花よと育てられた第三王女ですから」
『……ぶふっ』
「何かご不満でも?」
彼女なりに俺を脅したいのか、ニコリと微笑む顔に何やら黒い感情が……今の状態が制御できていない者は、心情もまた剥き出しになってしまうと言わないとな。
『やっぱり、お前はそういう顔の方が俺も楽しいよ。ありのままって、結構楽だろ?』
「そうかもしれません。ですが、イムに言われることでもありません」
『……そうかい』
感情を押さえつけているのか、輝きが明滅しだす。
何を思っているのか知らないが、抑えるぐらいなら曝け出してもらいたい。
『そろそろ説明するか。その状態は、肉体的疲労を抑える……代わりに精神的に疲れるがな。けど我慢できるなら、好きなだけ肉体を苛め抜くことが可能だ。鍛えた内容も、普通にやるよりステータスに反映される』
「何かリスクは?」
『無い。疲れやすくなるが、それも自然経過でどうとでもなる。さらに言えば、俺の力でそれも無しにできる……やらないが』
「どうしてですか?」
催眠を施し、感覚を麻痺させることは簡単にできる。
だが、今の状態の者に暗示をかけるということは、魂魄に干渉するということだ。
配下の一人に調べさせたのだが、俺のスキルはかなり悪行として判定されるらしい。
それがどういうことかというと──やりすぎると、何かのシステムに引っかかると言われてしまった。
ステータスというシステムがある世界だ、犯罪者を裁くのにも特殊なスキルを用いての裁判が存在する……それをやられた場合、俺は確実に犯罪者扱いなんだとか。
閑話休題
そのため、魂魄への干渉は聖女ぐらい善人でないとやらない方が得策らしい。
というか、フレイアにわざわざサービスをするのも面倒だし……頑張ってもらおうか。
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