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外国へ遊びに行こう
墓に参ろう
しおりを挟む「──そんなことがあったのか」
「君がどう思うか、それは分からない。だが私たちにとって、あの方の行ったことは間違いなく善行だった……」
「ああ、別にそこは否定しないさ。過去のソイツも、きっとお前たちと逢ってそうしたいと思ったんだろうよ」
思いっきり端折るが、例の異世界人の過去話を説明された。
魔物を使役する力があり、魔物を友達と想い世界に融和を求めた女の話だ。
ただ、ケルベロスなんかを従えていることから分かるようにだいぶ恐れられたらしい。
そして、なぜかしイフ°されかかったんだとか……体つきが良かったのかもな。
「まあ、何はともあれこっちの世界の価値観は地球とは違うからな。いくらなんでも、簡単には受け入れないだろう」
「……そうだな。あの方も、それを悔やんでいた。価値観が変わるようなことがあれば、それこそあの方に救われた者たちの中には、時折考え方を改める者がいたのだがな」
「まあ、それこそレアケースだろ」
そんなことができるのは、鬼畜外道の類いである……ああ、ソイツがあの国の洗脳に掛からなかったのは、最初から精神的苦痛に慣れていたかららしい……凄い経歴持ちだな。
「そういえば、墓はここにあるんだったな」
「ああ、そうだ」
「なら、一つ提案があるんだが……」
申し出をケルベロスは、すぐに受ける。
スッと立ち上がると、そのまま自分の居た場所を俺に譲った。
「いや、お前そこに居ていいのか」
「……あの方も、許してくれるだろう」
「まあ、別にいいんだけどさ」
礼装として、瞬間着装を使ってかつての制服に身を包む。
魔法で清潔さは保っていたので、ごわごわ感などはいっさいない。
「──よお、先輩。墓参りに来ましたよ」
俺たちが居る丘こそが、地球からの召喚者であるソイツの墓だった。
木にはこの世界の言葉で『サヤ・アカリ』と彫られている……どっちが名字でどっちが名前なのか分からないな。
とりあえず屈み、手を合わせる。
特に祈ることでもないが、眼を閉じて語りかけるように言葉を伝えた。
「まったく関係ないが、アンタの従魔に呼ばれたから来た。苦労したんだな、本当に」
酒なんて嗜んでいないので、日本人が喜びそうなものとしてお茶を取りだす。
ケルベロスに確認してから、それを木の根元にかける。
「ほら、緑茶だ。おーいを再現したから、たぶん嫌いではないと思う。この世界に天国はないと思うが、まあ味わってくれ」
ちなみに、冥府の番犬たるケルベロス曰くソイツの魂はこの世界から認識できなくなった……つまり消えたとのこと。
心残りがなく、最後は自分の従魔たちに看取られて老死したらしい……魂の欠片だけでもあれば、それを有効利用できたのに。
……創作物を愛読する俺としては、若干気になることがいくつかあったが。
まあ、『解析』でも分からないので、とりあえず面倒だから放置しておく。
「……もういい、ありがとうな」
「いや、あの方も喜んでいるだろう。たしかその『おーい』という茶を飲みたいと言っていたことがあったのでな」
「そうか? なら、来たときは定期的にここに流していこう」
「できるならば、その木に影響が及ばない範囲で頼む」
木はソイツが死んでから、遺言に従って植えたんだとか。
いつかたった一つだけ花がなる時、とても面白いことが起きるとかなんとか……そんなことを言ってたらしい。
少なくとも解析して視た限りでは、それといった情報は載ってなかった。
「ああ、一番大事なことを聞き忘れた」
「……なんだ?」
三つの首が同時に俺の方を向く。
自分でもそれなりに自信のある笑みを浮かべ、尋ねる。
「──ここに、家を建ててもいいか?」
◆ □ ◆ □ ◆
「へぇ、奥まで行ったんだ」
「なんだ、知ってたのか?」
「魔王だしね。それに、あのワンちゃんは悪魔でもある。つまり、私の専門分野内の存在だから」
「あー、そういえばそうだったな」
悪魔を使役する魔王なだけあって、地獄の番犬のことやソイツが守る場所についても把握しているようだ。
悪魔同士の繋がりがあるのかもしれない。
「魔王の知識にもあるよ。尋常ならざる魔物たちを従える異世界人、交渉の末に森の中へ封じたと……そのときの魔王は怖がりのくせにちょっかいを出すのが好きだったみたい」
「らしいな。ご主人様を攫われた忠犬が、どういう行動をするかぐらい考えとけよ」
「お蔭で勇者たちに回す人材がいなくて、その代の魔王は勇者に倒されたよ」
魔王は継承するもので、能力や知識が次の魔王を強化する。
その代はまだ、異世界人のチートがヤバいと認識できなかったんだろう……それよりも前の魔王が草木の陰で哭いてるだろうな。
「まあ、お蔭様でいい話ができた。お土産も置いてきたし、死んだ奴も報われるってめでたい話だな」
「ああ、それで見れなくなったんだ。イムもひどいな、せっかくの花を見る趣味を邪魔するなんてさ」
「お前が観たいのは華だろ? それに、あそこは俺の先輩が死んだ場所だ。クソ野郎の墓ならともかく、やりたいことをやろうとして死んだ人の墓なら俺は守る」
「……へぇ、まあ別にいいよ。それでイムとの繋がりが保てるならさ」
悪魔や悪意を払う結界を張っておいた。
識別を前から張ってあった結界とリンクさせたので、魔王の監視の目が入らないように手を施したわけだ。
だって、俺のプライベートな別荘だ……守らないわけにはいかないだろう。
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