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外国へ遊びに行こう

巨大な犬に会おう

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 目的地まであと少し、だがそこに至るまでの道はそう簡単ではなかった。

「もう、これは確定だな……というか犬好きだったのか」

 ただでさえ攻撃魔法が放てない場所、そこで侵入者を阻む強力な魔物たち。
 ──双頭犬『オルトロス』、太陽を喰らう狼『スコル』、月を喰らう狼『ハティ』。

 神話級の怪物たちが、侵入者である俺を排除しようと襲いかかってきた。

 その強さはなかなかのもので、いつも使っているユウキの神聖武具術スキルだけでは対処しきれないほどである。

「まあ、犬の先祖は『ハイイロオオカミ』らしいし、ギリギリセーフなのか」

 それら三匹……四頭? を倒して進むと、今度は神殺しの狼『フェンリル』が現れた。

 ただ、こちらは『グレイプニル』という戒めの鎖が付いていたので、それに干渉して封じることで無視できた……なんで付けたままなんだろうか?

「そして、最後の結界か」

 先ほどの刺客たちを媒介とした結界で、倒すか解除させなければ進むことはできない。
 わざわざ逃げずに現れたのは、奥に居る者の意志が関わっているのだろう。

「……転移はともかく、放出系はまた解除されてるのか。ずいぶんと余裕なんだな」

 舐めプをするのは好きだが、されるのはやはりイラつく。
 怒るのは面倒なので別に気にしないが、人としての感性がそう思わさせる。

「とりあえず……行きますか」

 シンプルにそれが手っ取り早い。
 まずは行く、そして飽きたら帰る。

 それを邪魔するのであれば、たとえ神だろうと俺は抗う。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 そこは不思議な空間だった。
 奥に在った魔法陣、そこを介して移動した空間である。

 見渡す限りの花畑、女が喜びそうなファンタジーな場所だった。
 見渡す限り多様な花が咲き乱れ、唯一そうでない場所は少し離れた場所にある丘だけ。

 ──そこには、巨大な木が立っている。

「……避けていくか」

 魔力で宙に踏み場を作り、そこを歩く。
 これなら花にダメージを与えず、目的地である丘まで向かうことができる。

 距離はかなりあったが、ただ意識せず歩くだけでやがて辿り着く。

 丘の目印として見えた巨大な木はより高く俺を見下ろし、その雄大な自然の凄さを魅せつけてくる。

「あれか?」

 その木の根元に、ソレは居た。

 首を三つ生やし、尻尾が蛇な真っ黒な犬。
 小型犬サイズのその犬は、木陰でゆったりと眠っていた。

 丘へ着地すると、そいつの下へ移動する。
 そして……話しかけた。

「──『ケルベロス』、だよな? アイツらが言っていた『サーベラス』は別名のはず」

「……まずは感謝しよう。ありがとう」

 だが、ケルベロスは俺の言葉を無視して突然そんなことを言いだす。
 純粋にそう言っているようだが、心当たりは全然なかった。

 このとき、巨体とか関係なく普通に声が聞こえてくるのは気にならない……従魔の一部がそんな感じだし。

「なんのことだ? ここに来たのは、あくまでその名前が気になったからだ」

「……ああ、それもあったな。だが、私が言おうとしているのはそれではない。君があの花々を踏まなかったことに対してだ。怒ることはなかったが、それでも機嫌の方は少々悪くなっていたかもしれない」

「呼んだ側がそうなるのか……まあ、大切なものなんだろう」

「ああ、その通りだ」

 しばらく沈黙が場を支配する。
 俺はコイツの事情を知らないし、知りたいとも思わない。

 関わるということは、つまり面倒事を知ってしまうことと同意だからだ。

 ──すべてに関わろうという気概があるわけでもないので、無視するのが一番である。

 だが、いつまでもここで時間を潰しているわけにもいかない。
 仕方なく、こちらから話を戻す。

「それで、俺を呼んだ理由は?」

「君は異世界人だろう?」

「そうだ」

「それが理由だ。彼女と同じ世界から来た、それだけで会ってみる価値があった」

 やっぱり地球人が関わっていた。
 しかし女か……例の誑かしたヤツか?

「どんな奴だったんだ?」

「優しかった。我らが、そして我らを傷つけることを怖いと言い、守ろうとしてくれた。人族の国を追われようと、安住の地を築いてくれた……永劫の忠誠を誓った、とても非力な少女だった」

「そうか……」

 うん、これは違うな。
 ケルベロスも例の能力に魅了されているのであればもしやとも思ったが、さすがにこの説明でそうだとは思わない。

 つまり、別の被召喚者がこの地まで逃げ延びてきたのか。
 その代の召喚国が洗脳をしたかどうかは知らないが、勇気ある選択だったと思う。

「この場所はソイツ……いや、女が?」

「好きに呼べ。あの方は私たちに呼び方を強要しなかった……ただ、主と崇めようとすると否定はしたがな。ここはあの方が好きだった場所、それを現実より引き剥がして隔離した空間。私たちによって創られた」

「たしか……ケルベロスの首には『保存』を象徴するものがあったっけ?」

「よく知っているな、さすがはあの方と同じ世界の出身だけはある。争いに巻き込まれる前に、この地を守る必要があったのだ」

 まあ、その少女がそれを願ったかどうかは微妙だけど……聞いた性格からして、もしそれを知ったら失神するか説教するだろうな。

 けどまあ、よく分かった。
 ──ここはつまり、誰にもバレない夢のリゾート地だ!

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