催眠術師は眠りたい ~洗脳されなかった俺は、クラスメイトを見捨ててまったりします~

山田 武

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忠誠を誓わせよう

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「……やっと終わった」

 屋敷を丸ごとでいいならすぐに済んだことだったが、あえて手間をかけることで後に楽ができるように尽力した。

「さて、残された諸君らには、二つの選択肢がある。俺の言う通りに従い、力を置いて成仏する。それか霊体のまま俺に尽くすかだ」

 地下室から連れだした幽霊たちを広間へ並べ、同じく並べておいたこの屋敷の幽霊たちといっしょに交渉を行う。

「肉体、というか憑りつける物は随時用意しておく。誰かに会いたいというなら、できるだけやってやろう。俺が欲しいのは、従順な配下だ。だから、成仏したいというならそうすればいい……できないなら、送ってやる」

 少し神聖魔法の気配を漂わせれば、この場の幽霊たちに怯えが感じられる。
 ため息を吐き、解除して逆に死霊魔法を発動して安定化を促す。

「……感覚で分かると思うが、今のお前たちは物理干渉が可能になっている。少なくともこの屋敷に居るのであれば、それが永遠にできると思え」

『あ、あの!』

「ああ、どうした?」

 子供の幽霊が、手を挙げる。
 ちなみに、俺は二階から下へ向けて叫んでいるため、子供は意思表示のためにふわふわと上に飛んでいた。

『お、お母さんに会わせてくれますか?』

「……お前の母親次第だ。見た目から魔族なのは分かるが、母親がこの世界にまだ居るかどうかが不明だ。居るなら、生きていようが死んでいようが会わせてやる……お前の質問への答えは、これで充分か?」

『は、はい!』

 死者とは停滞している存在だ。
 餓えることも、老いることもなく、自身が抱いた遺志だけで漂う死した生命体。

 だからこそ、俺の言葉は彼らは響く。
 すでに止まった彼らの人生は、俺との邂逅によって強引にその針を動かされる。

「過去を引き摺るのであれば、それを手伝おう。捨て去るのであれば、それも手伝おう。どのような願いであれ、誓うのであれば俺は叶えてやろう……さぁ、忠誠を誓え」

 子供への対応が、彼らをより強く導く。
 もちろんやらせではないし、子供の願いはできるだけ叶えるように尽力するつもりだ。

 ……嘘偽りを言う必要が、そもそも俺にはないからな。


『──はい!』


 だからこそ、この結果は分かっていた。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 それからは忙しい日々を過ごしたものである……主に、幽霊たちが。
 屋敷を綺麗にさせる人材は、腐るほど存在しているわけで。

 屋敷の主が殺しまくった人材は、今やほぼすべて俺の支配下に収まっている。

 数はだいたい数百、屋敷の大きさからするとそう多くは無い……悪霊として暴走していた奴が多かったからな。

「しかし、まさか奴隷がいないとは……」

 そう、簡単に人材を得ようと奴隷を期待していたのだが、まさかの店が存在しないとのことだった。

 代わりにフリーターの真似事をする、いわゆる人材派遣の店はあるのだが、それでも永久の拘束は難しそうなので止めておく。

「というか、魔族にはいないのにアイツらはまだそれを許容するんだよな。あの国はともかく、召喚した国はそういう用途だろうし」

 国同士のしがらみは面倒で、こういう店をいくつ出さなければならない的な決まりまで存在するらしい。

 しかも、その商人は商人ギルドが決めるため、王族でも絡めないと……本当に、誰かの欲望が叶えられる世界だよ。

「まあ、一部は成仏したけど……それでも不満が出てこないからいいか」

 ちなみにだが、例の子供幽霊は成仏することなく忠誠を誓っている。

 母親は人海戦術で見つけだし、すでに再会している……母親もついでに忠誠を誓わせ、霊体ではできない仕事をさせていた。

 成仏した奴はお土産を残して、輪廻の環へ向かったはずだ。
 実際にはどうだか分からないが、仕掛けを施した奴がどうなったかが見物である。

『ご主人様、お時間です』

「……ああ、もうそんな時間か」

『はい。魔王様がお呼びですよ』

 また名前を憶えないとな。
 実体のある奴隷と違い、紙を貼って確認するわけにはいかないし……早く受肉させるアイテムを用意したいよ。

 俺を呼ぶ女性の霊体は、顔がよかった結果惨殺された女の霊だ。
 メイドとして短期間とはいえ働いていたので、そのまま仕事を継続してやらせている。

「そうか……なら、もう少し待たせてもいいかな? 正直、会うのも疲れるし」

『ダメです。ご主人様は、魔王様と並び立つ存在なのですから、もっと上位者だということを表明なさりませんと』

「えー」

『えー、ではありません!』

 ただ、従順すぎる配下が欲しいわけではないので発言の自由は許している。
 あくまで自由意思で、俺に従ってもらいたかったからな。

「はいはい、分かりましたよ。行けばいいんだろ、行けば」

『もちろんです』

「ハァ……。いちおう訊くけど、魔王から何も貰ってないよな?」

『…………もちろんです』

 嗚呼、すでに買収されていたようだ。
 俺が甘すぎるのが悪いのか、それとも悪魔染みたあの魔王が悪いのか。

「まあ、そこはどうでもいいか。それじゃあ行ってくるから、留守は頼むぞ」

『はい、行ってらっしゃいませ』

 何も無ければいいが……絶対あるよな。

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