68 / 121
外国へ遊びに行こう
転送されよう
しおりを挟む「──その台詞は俺のものだよ」
面倒なことをしやがって。
王は俺を国に縛る鎖を用意したいらしく、娘をそれに使おうとした。
まあ、三人とも俺に好意があるわけじゃないし、嫌われてるから問題はないけどさ。
「俺は人類の味方じゃないし、誰かのために動こうとも思ってない」
諦めて立ち止まった、だからここに居る。
やることなすことすべてが面倒で、それでも楽をしようと仕方なく動いているだけだ。
「しかし、結婚ねー。男なら大賢者を目指す方が夢があるよな」
もしかしたら、スライムに転生してチートライフになるかもしれないし。
何より俺みたいな奴に惚れるって……かなりヤバくね?
「自覚はあるんだぜ、他人を洗脳して扱き使うクソ野郎だって……まあ、変わろうとする気は微塵も無いけど」
有効に使えるものがあるなら、使った方がいいだろ。
あらゆる手を許容して、この世界で贅沢三昧をする……それこそが俺の目的だ。
「そのためにはまず、確実な安全を確保しなければならない──地球人は召喚した国の魔法が洗脳中、これはパス」
俺がどうこうする以前に、なってしまったものだからしょうがない。
せめて、俺の肉壁になることを誓わせておけばよかったな。
「派遣された国は第二、第三王女が俺の安住について約束をしてくれている……第一のシスコンが何をするか分からないが、そこはゴリ押しでどうにかしよう。」
王子も居るのだが、あちらはあちらでしっかりと俺が住むことに利益があると分かっていらっしゃるので問題ない。
あとは力も知恵もある七面倒なシスコンのみ、どうやって解決するかだな。
「そして最後に一つ、俺の平穏を邪魔する輩が……これか」
ポツンと置かれた迷宮。
あまりにも小さく、小迷宮の中でもかなり階層が少ないのが入り口から見て分かる。
「おじゃましまーっす──『検索』」
すぐに中を確認して、進んでいく。
小迷宮らしく魔物は弱いが、別々の種族が連携していることから迷宮だとしっかり認識されたのだろう。
弓でパパッと屠り続け、三階層に行く頃にはそこが終点となる。
そこにはこれまたイケメン……チッ、イケメンの額に角、そして髪色を紫に染めた男が黒い騎士のような恰好をして立っていた。
「──やっと見つけた。今回の奴は、敵意があるかないかどっちだ?」
「お待ちしておりました、イム様。魔王様より送られた使者でございます」
うんうん、バッチリ洗脳対策をしているようで関心関心。
それをしないぐらい兵を駒にしている王様だったら、もうどうしようかと思ってたよ。
「それで、ここから中継で会談か? それともどちらかがどちらかの領土に行くか」
「……転送陣を用意しておりますので、イム様に魔王様の下へ向かってもらおうかと」
「まあ、アポを取ったのは俺の方だしな。座標とか全部貰うけど、本当にいいのか?」
「それよりも、魔王様が外に出ることを避けたいので問題ありません。イム様とであれば友好的な関係が築ける、魔王様はそうお考えでございます」
自身の配下を洗脳する奴を、いったいどうやったら信頼できるのだろうか。
感性が違うのか? まあ、俺と妹も考え方が違ったぐらいだから同じようなものだな。
「分かった、それじゃあ案内してくれ」
「畏まりました。では、こちらへ」
案内された場所には、複雑な術式が拵えられた魔法陣が置かれている。
すぐに見て分からない高難易度のものなので、何かしら特殊な効果があるのだろう。
「へー、これが転送陣か」
「はい。魔族製のものです」
すぐにその上に乗ると、隣でブツブツと詠唱を始める魔族。
それを耳コピして憶えようとすると、転送陣が輝いて──俺たちはその場から消える。
◆ □ ◆ □ ◆
光が収まるとそこは、少しおどろおどろしい魔力が漂う森の中だった。
「……どうして、森の中なんだ?」
「ここは『迷いの森』とも呼ばれていて、特別なアイテムを持たない者がこの近くへ転移で向かおうとすると、強制的に介入してこの場へ送るようになっているのです」
「つまり、俺が居るからそうなったと」
「いえ、今回は私も持ち合わせておりませんので……手間を掛けてすみません」
俺が洗脳対策を突破した際の時間稼ぎか。
ここから遠くにそびえ立つ居城まで、まあずいぶんと時間をかけられそうだしな。
「俺があそこまで飛ばしてやろうか?」
「……できるのですか?」
「まあ、できるにはできるが……止めておこうか。何が相手の顰蹙を買うのか、分からないもんだしな」
少なくとも洗脳は嫌われただろう。
使い方を変えれば、強靭な兵士を作ることもできるんだがな。
「責任を持って、ご案内しますので。イム様は、弓をお使いになられるんですよね?」
「ああ、そうだが」
「……先に申しておきますと、この森には掟がありまして」
「掟?」
聞いてみれば、何やら神の加護を受けた特殊な獣──神獣が居るらしい。
魔族に協力するその神獣を攻撃するのは危険らしく、決して弓を引かないことを誓わされてしまった。
また別の機会に会いに行ってみよう。
0
お気に入りに追加
152
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
スライムの恩返しで、劣等生が最強になりました
福澤賢二郎
ファンタジー
「スライムの恩返しで劣等生は最強になりました」は、劣等生の魔術師エリオットがスライムとの出会いをきっかけに最強の力を手に入れ、王女アリアを守るため数々の試練に立ち向かう壮大な冒険ファンタジー。友情や禁断の恋、そして大陸の未来を賭けた戦いが描かれ、成長と希望の物語が展開します。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?
みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。
なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。
身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。
一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。
……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ?
※他サイトでも掲載しています。
※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。
【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる