催眠術師は眠りたい ~洗脳されなかった俺は、クラスメイトを見捨ててまったりします~

山田 武

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外国へ遊びに行こう

登城しよう

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 第一王女は第二王女のように単純なバカではないので、直接乗り込んでお礼参り……などといった面倒な行為はしてこなかった。

「ご主人様……」

「またか……」

 だが、その分嫌がらせはしてくるのだ。
 毎日のように送られてくる──登城という命令書。

 初めはすぐに飽きるだろう、と思ったのだがいかんせん……あの第一王女は、厄介者を追い出すために頑張っているようだ。

 俺もすぐに第二・第三王女にどうにかしろというメッセージを送ったのだが、どうやらあの二人はあちらの味方らしい。

 それを行ったことがバレたため、翌日の書状の厚みが数倍になっていたのはつい最近のことである。

「王かあのメイドに言われるならまだしも、第一王女に言われていくのは面倒だ。その書状は纏まったら焼き芋にでも使って、お前たちでその芋を食べることにしろ」

「よろしいのですか?」

「きっと紙を送ってくるのも、俺たちに有効的に活用しろという裏のメッセージかもしれないからな。ぜひそうしてやってくれ」

「……畏まりました」

 実際にはしないだろうが、俺といういちおうでもご主人様の前でそこまで強く反論することはできないだろう。

 メイドは蒼い狼耳をパタンと伏せたまま、この部屋から去っていった。

「ったく、俺が居心地のいいようにどうにかうするのがお前たちの役目だろうに。どうして俺の手を煩わせようとする」

 第三王女は言わずもがな、第二王女とも今回の契約でそれを取り付けることができた。
 グータライフ万歳、金は奴隷たちが勝手に稼いできてくれるので問題ない。

 必要最低限のお給料は払っているし、俺に対する敵意は感じられないので一年ぐらいはのんびりしていられる計算だ。

 しかし天才シスコン第一王女が関われば、その計算が狂ってしまう。

「魔族からの返事もまだ無いし、なかなかに平和が訪れない日々だな」

 平穏は時々あるのだが、平和という概念は異世界へそう簡単に定着してはくれない。

 いつかユウキかヒ……ヒスキー君が勝手にやってくれるとは思うが、それまでの間に俺が死なないように尽力せねばならないのだ。

「あーあ、せめて俺に……あれ? 何があれば平和になるんだ」

 頼れる仲間? 仲間かどうかはともかく、使える配下が居る。
 最強の能力? 唯一スキルがある。
 住み心地の好い場所? いちおうある。

 なのに平和じゃないのならば、残りは他の奴が原因で平和じゃないのだろう。
 周りをどうにかしなければ、仮初でも平和にはならない……さて、どうしたものか。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 お城の中を気怠い気持ちで歩いていく。
 ついに第一王女は切り札を使い、抗えなくなった俺は登城するハメになった。

 だがどうにもやる気が湧かず、気の重さに耐えられず沈んでいるのだが……誰一人として、それを気にしていない。

「──ハァ、面倒だった」

「やっと来ましたか。イムさん、貴方が来るまでに、いったいどれだけの紙が無駄となったのかお分かりですか?」

「紙は俺が教えた技術で発展している。王様だってメイド様だって、今じゃ俺の作った洋紙をご愛用だぞ。それに、手紙に使われていたのもうちの洋紙だったんだが?」

「…………」

 あっ、知らなかったみたいだ。
 何か一つ貢献しておけば、少しは仕事から逃げられると思って提案しておいた。

 自分で洋紙を作る必要がなくなるし、何より恩を売れるのだからな。

「紙に問題が無いなら、俺への用も無いわけで……帰らせてもらいます」

「──などと仰るのは、お止めくださいね。イム様(ニコリ)」

「あっ、はい」

 冷酷なスマイルによって、俺は再び前を向くことを促された。
 現在謁見の間には王女三人+王様、そして俺とメイド様が居る。

「さて、うちの娘たちがいろいろと迷惑をかけたようだな」

「ああ、まったくだ」

「……細かいことを言う気はないが、そこまでストレートに答えないでもらいたい」

「そうか? 善処しておく」

 メイド様が怒っていないので、とりあえずセーフの範囲内だろう。
 きっとこの行為こそが、王様にとっての父親の義務なのだろう……そう思っておく。

「イムよ、娘を助けてくれたことには感謝する。本当にありがとう」

「いいっていいって、お蔭で保証がまた一つ増えた。互いに益のある話だったさ」

 プイッと視線を逸らす第二王女に、父親である国王はため息を吐く。

「徐々に侵食されているな、この国も。息子にはできるだけイムに手を出さぬよう、言明しておかねば」

「いいんだぜ、俺に頼っても。その分の報酬はしっかりと頂くがな」

「……それもまた、一方的ではないのだから困るのだ。まったく、どうしてこのような者が不要者としてここへ送られたのだか」

 そうなるように仕組んだからだ。
 本当であれば、もっと早くに住みやすい場所となっただろうに……メイド様のせいでいろいろと計画が狂ったんだよな。

「イム様がこの国に敵対しないのであれば、私は全面的にイム様を協力しますよ」

「ついさっきまで脅していた人の言葉じゃありませんね」

「そうですか? ふふっ、イム様は時々変なことを仰りますね」

 さてまあ、こんな会話をメイド様としていたのだが……ここで王様のインターセプト。


「──イム、お前に婚約者はいるか?」

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