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外国へ遊びに行こう
本当に帰ろう
しおりを挟むシスコン王女とその姉、そしてその従者たちを転送した場所へ俺も移動した。
魔族は洗脳しておいたし、アプローチの変え方を悩んだせいで少し時間をかけてしまったが……まあ、戦闘に手こずったとでも言っておけばセーフか。
「はいはい、ご無事で何よりだ」
「アナタは……」
「イム・トショク。貴方の国に派遣された異世界人、今回は第二王女であるミネルバ様の命に従い救出活動を行いました……って感じだな。契約もある、必要なことだ」
「そう、ですか。ミネルバ、本当にありがとうね。助かったわ」
おお、なんかマトモっぽいな。
助けた第一王女を簡単に説明するなら、今までの二人をより大人っぽくした白髪の女性だ……まあ、聖人だからか。
「イム様、妹に協力していただきありがとうございます。第一王女『ティア』の名において──感謝を」
「いや、俺は運んだだけだ。見ていたはずだろ? お前の妹が姉を救おうと、必死に闘っている姿をさ」
「ええ、それはもう! さすが私の妹、お姉ちゃんはもう……必要、ないのかしら……」
「そ、そんなことねぇって! ほ、ほら、もういいだろっ! イム、早くオレたちを戻してくれ!」
今居るこの場所は、迷宮にある小さな隠し部屋だ。
先に場所を登録しておき、迷宮の中から中へ移動させたってこと。
本国まで? 無理無理、そんな魔力も運ぼうとする気もない。
もしまだやることがある、だから戻してくれなんて言われた場合を想定してのことだ。
「ごめんなさい、ミネルバ。私にはまだやることがあるの……この人たちをいっしょに、ミネルバと戻すことはできますか?」
「ああ、可能だ」
「では、お願いします」
「……はいよ」
シスコン王女の意見は黙殺。
ちゃちゃっとこの場の上位者の言うことに従って転送を行う。
すると残るのは俺と第一王女。
ニコリと綺麗な笑顔を浮かべ、俺にこう告げてきた──
「うちの可愛い妹たちに手を付けたらしいですね? その落とし前、今つけますか?」
中身はだいぶ黒かったけど。
どうやらシスコン王女の上もさらなるシスコン、何より姑息さも兼ね揃えていた。
◆ □ ◆ □ ◆
「──なるほど、そういうことでしたか。クソ野郎、と思っていたのは撤回します。もっと悪質な病原菌でした」
「こっちはこっちで楽するために必死で働いてるんだ、そちらの妹さんたちが厄介事を抱えてくるだけだろ?」
「妹たちはすべて正しいのです。イムさん、アナタにはそれが分からないのですか?」
「ああ、さっぱり分からん」
第二王女は萌えとしての軽いシスコンだったが、第一王女はモノホンのシスコンだ。
これじゃあ第二王女をシスコンと呼ぶことはできないな、そのうち修正しよう。
「すでに第二王女と約束した。少なくとも俺が退屈しないように生涯暮らせるようにすると……これは第三王女も同じだ」
「まあ、なんてこと!? うちの可愛くて可愛くてしょうがない妹たちが、こんな雑菌の言葉を聞いてしまったなんて……すぐに私の愛で治してあげなければ!」
「本当にあの父あって、娘ありだな。この世界に居る間は、絶対に寄生してやるからな」
「妹たちが決めてしまったのであれば、仕方がありませんね……。ええ、国に居るぐらいは、大目に見てあげましょう」
どうして第一王女の許可が必要だ、なんて面倒なツッコミはしない。
言質を取った、それだけで充分だ。
「ああ、ところで訊きたかったんだ……どうして捕まってたんだ? これは解決しておかないと、あの第二王女がまた俺の下にヘルプコールを出しに来るぞ」
「簡単な話です。私が可愛い妹たちの妄想に耽っている隙を狙われました……私の、唯一の弱点ですから」
「……そうか」
ちなみに俺が妹を弱点としているか、と聞かれると物凄く微妙である。
苦手意識はあまり持っていなかったし、どうして言うことを黙って聞いていたかというのも思いだせないほど昔の記憶だ。
そのうち催眠して思いだそうか? いや、必要もないし面倒だから止めておくか。
「今回のことだって、第一王女がそんなことしなかったらなかったんだ。俺だってのんびりと家で過ごせたのに……自業自得じゃねぇか。俺を責めるな」
「妹たちがやったことこそ、この世界における真理です。指示を受けた者は全力でその命に従い、たとえ命を燃やし尽くしてでも完遂することが当たり前なのですよ?」
「そんな当たり前、俺は知らねぇ。というか絶対やらねぇよ」
物凄く驚いた、と言わんばかりの表情に少しだけイラッとしたが、催眠でクールな状態に戻して話を続ける。
「やることは済んだのか? なら、第三王女にでも顔を合わせに行けよ」
「いえ、あの娘は私を避けますし……それにまだやることがあります」
「まあ、中身が重度なシスコンだって気づいているしな。それで、やることって?」
「条約を結んでいる最中、私たちが魔族に攫われたのはご存じのとおりです。すでに協力者は分かっていますので、そちらの駆除をしなければなりません」
顔を真面目な顔に切り替え、俺にそう語る第一王女……ずっとこのままならいいのに。
「はいはい、じゃあ頑張ってくれ。俺はもう帰るからさ」
「えっ? 手伝って……くれないのですか」
「する理由が無いだろ。どうせ一人で解決できるようなことに、俺はわざわざ関わる気はない。今回協力したのは、第二王女じゃできないことをしようとしたからだ」
どうせ転移魔法も使えるのだから、俺が居る必要はない。
唖然とする第一王女の顔を嘲い、俺は安住の地へ帰還するのだった。
「──ほ、本当に帰りましたね!」
最後に聞こえたその声は、もっとも素が出ていて好ましく思えたのは秘密だ。
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