上 下
63 / 121
外国へ遊びに行こう

サクサク潜ろう

しおりを挟む


 ゲームであれば、地図機能の他にも迷宮ダンジョン攻略に便利なシステムがいくつかあった。

 だがここは異世界であり、すべてが便利というわけではない……しかしそれでも、楽なものは楽なのだ。

「信じらんねぇ……」

「勇者様ならもっと速いぞ。いや、他の異世界人でもそれなりの速度が出せる」

 階層ごとにリセットされるが、『検索あんじ』を使えば地図をすぐに生成することができる。
 最適なルートをすぐに見つけ出し、階層を降りること数十回。

 ──すでに五十層を下っていた。

「お前らって、異常なんだな」

「それをあの国は求めてたんだよ」

 なんて名前だったか忘れたけど、丁寧に俺たちへ洗脳をかけてから支配しようとしていた国だ……まあ、あっちは精神魔法だったんだけど。

「勇者はあの国のため、そして自分の矜持のために世界を救う。救われた者たちは勇者に感謝して、あの国に何かを想う……けど、勇者はそれでもあの国を大切にする。いやー笑える話だな」

「笑えねぇだろ」

「笑えるだろ。自分たちを庇護してくれた、ただそれだけの理由で勇者はあの国を守る。これだけ誰がどう言おうと、何があっても変わらないんだぜ?」

 諸悪の権化、みたいな扱いを受けているらしいからなーあの国。

 面倒なので俺に関わらないならスルーしてやるし、何よりこの国に派遣してくれたことにはいちおう感謝しているのだ。

 ──王様が俺を受け入れニートライフをそれなりにさせてくれている、それだけでも充分に嬉しいわけなんだよ。

「しかし、そろそろ自分で闘ってみるか? その方が自分のためだぞ」

「……オレだって、自分の力で闘いてぇけどよ。このままじゃ間に合わなくなっちまう」

「じゃあ、まだいいや・・・・・

 魔物の声は届かない。
 元素魔法で風の結界を生み、完全にシャットアウトしていた。

 自分は『検索』で把握した魔物に向け、和弓女子のスキル(必中)を用いて矢を放つ。

 魔力で生みだした矢はスキルの力を受け、軌道を変えてどこかへ飛んでいく。
 そして脳内地図から魔物を示す点が一つ、また一つと消える。

 薄ーく伸ばした(異空間収納)スキルでできた空間が魔物を自動的に格納するため、本当にゲーム感覚で魔物たちを殲滅できるという寸法だ。

「さぁ、次の階層に行くぞ。まだ魔力は掴めないが、居るんだろ?」

「あ、ああ……って走んなよ!」

 成長すれば楽しめる点は、第三王女と同じなので飽きはしない。
 追い風を吹かせて急ぎつつ、シスコン王女と絶妙な距離を取って走っていく。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 どんだけ深いんだよ、と思ったが最大階層数が七十なことなど最初から分かっていた。

 だけど三十を超えていればすべて中迷宮なので、もっと早く終わると考えれば……実際は全然終わらない。

「そろそろ七十なんだが……姉はいったいどこに居るんだか」

「今より下って気しかしねぇ。けどまぁ、踏破すればいいんじゃねぇのか?」

「こういうとき、俺の世界だと二パターンの未来が存在する──まだ隠された階層が存在しているか、人工的に用意された階層が用意されているかだ」

 前者なんか、特にヒ……ヒメノ君なんかが当て嵌まりそうだな。
 洗脳で弄ったが復讐者だし、ヒロインを見つけてハーレムライフの真っ最中だろうし。

 後者も後者でユウキとかにありそうだ。
 陰謀に溢れた人造階層で、ヒロインを救うために死闘を繰り広げる……サブカルは範囲が広すぎて、こういう想像がだいたい思いついてしまうな。

「つまり、下があるってことか?」

「守護者をスルーしておけば、最後の場所は安全地帯になる。なら、入り口の前かその先に細工をしておけば、穴でもなんでも掘って広い場所が確保できるだろ」

 ゲームではほぼできないけど、ゲーム世界が本物になった話などでは穴を掘るなど貫通系の攻略が行われた場合もあったわけだし。

 ちなみにこの世界の迷宮も、いくつかの条件の一つを満たせれば破壊できる。
 今回それをやらないのは、いちおうでも第一王女の安全を確保するためだ。

 ……経験値稼ぎのためじゃ、ないんだぞ。

「で、理由がシスコンの勘ってだけで潜ってる俺たちはかなりヤバい。どうせ普通の冒険者も居るのに、隠さないわけがない。勘が場所まで当てれるならまだしも、なんとなく下ぐらいだと頼れないな」

「うぐぐぐっ……」

「何がヤバいかって言うと、そもそも不法侵入の奴が居るから普通の脱出はできない。登録ぐらいしてりゃあよかったんだが……アイツもやってなかったしな」

 王族で冒険者、なんてことをやっている暇も無かったわけだ。

 冒険者ギルドに職業を変えられる水晶的な物があるならともかく、この世界ではそういう仕組みは神話でしか存在しない。

 ……まあ、説明は面倒なのでまったくやる気がないけど。
 ただ言っておけば、行動経験や特殊な儀式で就けるモノなどそこら辺はゲームっぽい。

「帰る時もアレで出ればいいだろ」

「いちおう犯罪だからな。お前、王族なのに適当だな」

「う、うるせぇ! それよりほら、早く助けに行くぞ!」

「へいへい、畏まりましたよ」

 ──そして俺たちは、最終層へ辿り着く。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

クラスメイトに死ねコールをされたので飛び降りた

ああああ
恋愛
クラスメイトに死ねコールをされたので飛び降りた

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

処理中です...