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外国へ遊びに行こう
端折って入ろう
しおりを挟む目的地である『グストリー』の迷宮は、俺の滞在している……ああ、『バスキ』の迷宮よりも大きい。
そこのサイズは中、つまり最低でも30層は超えているわけだ。
海上都市を名乗るだけあって、空から向かうと例の匂いが漂ってくる。
「──潮の香りだな」
「……あんまり好きじゃねぇな。異世界人は全員好きなのか?」
「偏見すぎる。ただ、俺は好きだ」
暇潰しに海へ行き、何をするでもなくのんびりとしていることもあったからな。
ずっと同じ匂いを嗅いでいたのだ、そこまで嫌いにはなれない。
「だがまあ、これで分かっただろう。ここが海上都市だ」
「……信じられねぇ。まだ一日だぞ」
「すぐに姉を助けたいというバカなシスコンのために、こっちも全力で来たんだ。ちゃんと礼は弾んでもらうからな」
「……お、おう!」
うちの妹も、俺がピンチになったら助けにきて……おっと、自分でイメージを纏める前から拒絶された気がする。
どうにも妹様は、俺が帰りに買ってくるはずだったお菓子が手に入らなかったことに激怒しているな。
「しかしまあ、ここにも異世界人は居るはずなんだがな。何をしているんだか」
「本当かよ?」
「名前はまったく思いだせんが、とにかく居た。たしか、海を操る……とかそんな能力を持ってたな」
「ここ向きな力だな……異世界人は、どいつもこいつもありえねぇ力を持ってやがる」
まあ、俺もそうした便利な恩恵にあやかっている身だ。
シスコン王女の言葉は否定できないし、そもそも否定する気はない。
「だがまあ、そんな面倒な話はいいや。シスコン王女の目的は、異世界人じゃなくて姉だろ? なら、さっさと拾って帰るぞ」
「おい、まさか勝手に入るつもりか? まずは都市側に話をつけて」
「──バカかよ。そんな面倒なことをしてたら、間違いなく異世界人が首を突っ込んでくるぞ。美人なんだろ、お前の姉。鼻息荒く、男に迫られていいのか?」
「何してるんだ、早く行くぞ!」
焚きつけたら、すぐに乗ってくれるところはさすが姉妹だろう。
飢えた男子高校生など、すでに性的懐柔によって存在しないだろうが……まあ、それでもハーレム願望があるなら話は別だ。
どうせこの世の女の大半は、ユウキに惚れるルートしかないんだが……そこはそこ、今は気にせずにやることをやろう。
◆ □ ◆ □ ◆
迷宮に入るまでの過程など面倒なので、全部端折っておこう。
要すれば──俺が入って座標を登録し、あとからシスコン王女が俺と転移するという方法で入った。
「ここが『ウォルシー』か」
「水棲系の魔物が多いらしい。シスコン王女は、どんな武器を使う?」
「なんでも使える」
スキルを調べてみても、派生は少ないがかなり多くの武術スキルを所持している。
器用貧乏、ここに極まれたりだな。
「なら、前衛を頼む。俺は弓で後方支援だ」
「……女に前をやらせるのかよ」
「別に。シスコン王女は性別云々で力量を比べるのか? 俺は別にいいんだぞ? 再会した姉に、自分はおんぶにだっこでここまで来たと説明するの」
「──前はオレに任せろ!」
空間魔法が付与された見た目以上にアイテムが入る袋──『魔法袋』から、シスコン王女は武器を引き抜く。
物凄い魔力量を誇る剣と盾、それらを無造作に扱う。
「……なあ、それって国宝じゃないか?」
「おう! 適当にパクってきた」
「…………便利だしいっか。適当に弓を射ぬくから、突破しそうになったら殺してくれ」
「分かった!」
ヒステリックな第三王女と違い、こっちのシスコン第二王女は戦闘ができる。
いずれメィシィがマチスの修業を突破したら、シスコンはアイツに任せよう。
そうすれば強くなって、独りでに働いてくれるようになるしな。
閑話休題
ヒトデっぽい魔物やサザエっぽい魔物などが、俺たちの行く手を阻む。
どちらもサイズは30cmを超えた代物、料理したら美味しいかが気になるところだ。
「──『黄の矢』」
バチバチと電気を纏った矢が、正確に魔物の核の部分を射抜く。
異世界人チートとして魔石が確実にドロップし、収入としては充分な額となるかな?
「……ウワサには聞いてたけど、本当に絶対魔石が出るんだな」
「魔石なんて、矢の触媒にしか使えないから特に必要はない……ほれっ、姉へのお土産として採っとけよ」
「……なあ、間接的に拾えって言ってる自覚はあるか?」
「ああ、あるぞ。要らねぇならいいけど、もし姉が欲しているとしたらどうするんだ?」
舌打ちをされるが、それでもそう思ったのか仕方なさそうに魔石を拾う。
その一瞬意識が魔石に向いた瞬間に、俺自身にかけた『検索』の催眠を起動して、第一王女の居場所を探しだす。
「……まだいないな。おい、シスコン王女。そういえばどうして姉がピンチだって知ってたんだ?」
「姉妹の絆だ!」
即答で返すシスコン王女。
一瞬俺の意識は固まるが、すぐにフリーズから回復して動作を再開する。
「…………」
「お、おい、待てよイム!」
少なくともスキルに直感系のモノは見つけられなかったし……それが本当なのか、それともからかわれているのか。
これまでの言動からして、おそらく本気で言っているのだろう……と思ったからこそ呆れて歩を進めてしまった。
きっとそれは少しだけ、その解答に納得してしまったからだ。
──俺も妹の要求された品を求める強い気持ちが、なんとなく分かったからな。
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