上 下
59 / 121
外国へ遊びに行こう

眠らせよう

しおりを挟む


 王城の中庭は平地に整備されており、武器や魔法などの戦闘訓練にうってつけの場所である……俺としては、その用途ではなく昼寝スポットとしての良さを語りたいが、今は止めておこう。

 中庭は兵士たちが使っていたのだが、面倒な事情を簡潔に説明したらあっさりと貸してもらえた。

 ただし、とてつもない同情の視線が居た堪れない俺への思いを伝えてくれたよ。

「ルールはどうする? 参ったって言った方が負けにするか」

「へっ、それでいい。異世界人の力がどれほどのものか……見せてもらうぞ」

 兵士、メイド様、国王が観ている中、俺たちの闘いが始まろうとしている。
 互いに模擬戦用の武器を握り締め、不殺という暗黙の縛りの中闘志をぶつけ合う。

「ところで、どうしてそこまでして闘おうとするんだ? 女だから、なんてつまらない理由じゃないんだが、わざわざ異世界人と闘おうとする理由が分からない」

「理由? んなもん、テメェにはどうでもいいことだろ。……まあ、オレに勝ったら教えてやってもいいぞ」

「そうか。なら、やる理由が一つ増えたな」

 強い意志の下に、覚悟を決めた。
 この大衆の中で、行うことにほんの少しだけ緊張をして汗が流れてくる。

 誤魔化すように強く武器を握り直そうとするが、汗のせいか少し滑ってしまう。

「では、二人共準備はいいな?」

「ああ」
「早くしろよ」

「…………では、」

 娘からの評判が悪い父親が、それでもどうにか威厳を保とうと開始を告げようとする。
 大きく息を吸い、俺たちの闘いを──


「始め」
「──参った!」


 告げ終える前に、降参を宣言した。
 これにて、一件落着だ。





 となれば、俺も気分よく昼寝の続きができたかもしれない。

『イム様、次はお願いしますね(ニコリ)』

 メイド様からありがたいお言葉を受け、俺のやる気は非常にがった。

「……ハァ、面倒臭い」

「くっ、この……」

「どうして俺が、わざわざここまでしないといけないんだか」

「ふざけんじゃねぇっ!」

 姫としての威厳がゼロの発言ではあるが、この状況を分かりやすく伝えてくれている。
 そもそも、俺に勝つことは今のユウキでも難しくなっているのが実情だ。

 異世界転移者クラスメイトのスキルの、メリットとなる部分だけを取り入れたステータスだぞ?
 自他ともに認める、チートな能力さ。

「少なくとも、俺はこの世界へ来たばかりの勇者様程度には闘えるぞ。俺に勝てない今のお前じゃ、相手もしてもらえねぇよ」

「まだ……やれるっ!」

 まあ、ユウキのことだ。
 来た女性は必ず相手をするだろうし、闘いもしてくれるだろう。

 赤髪の王女、なんていかにもアイツのハーレムに加わりそうだしな。

「嗚呼……面倒臭い」

 弓ではなく剣で相手をしている時点で、彼女にとって舐められていると思えるだろう。

 実際、俺の武器なんてなんでも構わない。
 そのことを知っているのは俺の部下だけだし、今回の闘いでメイド様が気づくだろうが今は関係ないからな。

 最近手に入れた聖気運用系のスキルを用いて、拳にオーラ的なモノを纏わせる。

「その光、聖気だよな?」

「説明する義理はないんだが……まあ、正解だ。けど、それがどうした?」

「テメェは聖人か! なんでこんな場所に、テメェみたいな奴がいる!」

「なんでって言われても……派遣されたからに決まってんだろ」

 質問の意図がまったく分からない。
 今では量産されるような聖人で、その気になれば俺でも創りだせる存在だぞ?

「なんで闘わねぇ! 聖人なら、何かできんなら動けよ!」

「……なあ、お前の娘はどいつもこいつもトラブルの種を持ち込まなきゃ気が済まねぇのか? 俺、関係ないだろ」

「その力を隠していたから、その問題が露呈したのだ。私は悪くない」

 怒りながら泣くという器用なことをする第二王女を見ながら、深くため息を吐く。

 聖人、聖人か……この国の誰かが聖人だったってパターンか? 少なくとも、漁った資料に王族の名は載ってなかったぞ。

「聖人は心まで聖人ってか? バカ言え、生きてりゃ欲に塗れるのが人間だろ」

「け、けど……」

「ケドもセロもレロもねぇ、俺は無理にこの世界へ呼ばれたんだ。何一つ、この世界のためにやることなんてねぇんだよ」

 まあ、生きるために必要なことであればやるんだけどさ。

 国王はそれが分かっているからこそ、しっかりとしたデメリットがほとんど存在しないメリットを提示する。

 俺もそれをメリットと認識して、だからこそこの国のため人働く。
 ギブ&テイクもできないで、正義論だけを理由に働くのはユウキみたい主人公だけだ。

「終わりにするぞ」

「うぐっ」

「『眠れ』」

 ギリギリまで抵抗を続けていたが、直接剣の腹の部分で叩いてそこから魔力を流した。
 そこから精神へ干渉させ、意識を強制的に遮断……はい、これで終了だ。

「なあ、国王。コイツも固有スキルで云々とか問題があるのか?」

「……いや、固有に関わらず希少なスキルを持ってはいない」

「それであの戦闘力か。力に傲った奴より、やっぱりああいう奴の方が面倒臭い。──次からはこういうことがないよう、ちゃんと父親としての義務を果たせよ」

「あ、ああ……善処する」

 隣で一礼をするメイド様に手を振って、俺はアシが待機している場所へ向かう。
 ……これ、どうせ面倒なパターンになるのが確定なんだよ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

クラスメイトに死ねコールをされたので飛び降りた

ああああ
恋愛
クラスメイトに死ねコールをされたので飛び降りた

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

処理中です...