催眠術師は眠りたい ~洗脳されなかった俺は、クラスメイトを見捨ててまったりします~

山田 武

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「……あれ、ここは?」

「このセリフも何度目だ? よぉ、目が覚めたか?」

「はい、お蔭様で」

「精神の異常も無しっと。三人の精神を詰め込んだってのに、人間ってのはある意味色んな可能性を秘めてるよな」

「ど、どういうことですか!?」

 少女が目を覚ました。

 結構体に手を加えたので、少しぐらい異常が見つかると思ったんだが……他の材料の質も良かったし、協力的だったのが一番の理由なのだろうか。

 今のところいっさい悪影響を見せず、ハキハキと会話ができている。

「お前の友人だという二人、そいつらの魂を弄ってお前の中に入れた」

「……え?」

「今のお前は、元の自分と友人二人が混ざった新しい人格。無論、切り替えられるように設定しているがな」

「よ、よく分からないんですけど……」

「まあ、ここで瞬時にできる奴は面倒ではないが好みはしないさ。一度試してみた方が早いな。自分の名前、それか友人どちらかの名前を言ってみろ。ただし、魔法を唱えるように意志を強く籠めてな」

「は、はい」

 少女は半信半疑、といった表情でしばらくこっちを見てから、結局試している。

「──『リュフ』」

 すると、少女──リュフに変化が起き始める……なんてことはない。
 あくまで肉体のベースは彼女なので、分かりやすい変化はないのだ。

 せいぜい実験の結果白色になった瞳が、元の銀色に戻ったぐらいだな。

 地球では病気になった奴がそんな色になったみたいだが、こっちの世界だと瞳孔が白い奴もいるかもしれないし……面倒だから、そのままにしておいた。

「……の、……に……はな……で……ど……あれ?」

「まだ一人の状態じゃ無理か。その話し方は元からのものか?」

 首を横に振るリュフ。
 外的心傷のせいで、一時的な失語症に陥っているのだろう。

 記憶を弄れば治るのだが、別のやり方を試してみたかったのが今回だ。

「よく耳を澄ませてみろ。何か、聞こえるんじゃないか」

「……い。な……、……しい……が……」

 少しすると、少女は涙を流す。
 二つの名前を呼び、嗚咽を漏らして掠れた声で見えない誰かと言葉を交わしていた。

 途中から言葉は出さなくなったが、目を閉じて云々と唸り始める。
 時々笑みが零れるようになり、俺も少しだけやった甲斐があったなと思えた。





「あ……とう、……い……た」

 積もる話があると思い、放置して別の作業に取り掛かっていると、少女が戻ってくる。

「礼なら要らないぞ。この後、お前を囮にして動くんだからな」

「で……、貴…………ったら、も……え……とこ……った」

「俺がいなかった場合なんて考えるな。俺がいて、お前の中に友人もいる。それだけが、実際にあった事実だ。……それに、今は俺も居てやるからさ」

「──っ! に、『ニー二ャ』!」

 フリュは突然口をあわあわとした後、先ほど二つの名前の内、一つを上げる。
 すると、瞳の色が蒼色に変色し、顔の感じがやや変化していく。

 内気だった相貌はみるみる明るそうな表情に変わり、最後には先ほどまでのおどおどした感じは完全に消え失せ──天真爛漫と言えるような顔つきになる。

「あ、ああ……声も変わんのかよ」

 そして、これまでとはまったく異なる声色で話を行う。
 そこら辺は、肉体に暗示をかけて声帯を弄らせれば簡単にできたぞ。

 体つきも少しは変わっているのだが……大小を弄ったりするのは、さすがにスキルを使おうと無理だった。

「生前の動きも、多少はできるだろうが……そこら辺は集合体が鍛えなきゃ難しいな」

「へー、なんか凄ぇんだな。アンタ」

「面倒事から逃げた結果、効率の良さを求めていろいろと勉強するハメになっただけだ」

「……それ、逆にめんどくねぇか?」

 そうツッコむ彼女は『ニーニャ』。
 ──亡くなった、リュフの友人の一人だ。

「ところで、違和感とかはあるか? 説明した通りにしてはあるが、念のためな」

「うーん、ちょっと動いてみねぇと全部は分かんねぇな」

「なら、それは後でやる。もう一人の方にも変わってみろ」

「あいよ──『ヒューナ』」

 今度は瞳の色が金色に、顔は柔かい優しそうなものへ変わっていく。
 声もそれにあったものへ、変声する。

「あ、ああ……二人の中から見ていましたけど、ワタクシもなんですね?」

「アイツら二人だけやっといて、お前だけ出てこれねぇってのもおかしいだろ」

「ふふふっ、それもそうですね」

 彼女がフリュとニーニャの友人にして、同じくすでに亡くなっている『ヒューナ』だ。
 そんな彼女にも、肉体の調子を確認させておく。

 本番前に一度テストさせてみるが、平時から馴染まないならば設定を変える必要ができるからな。

 結果は特に異状なし、実戦で使えるかどうかを確かめるだけだ。

「──あの、アレ・・は使わないので?」

「特別必要になったときだけだ。融合人格に戻っておいてくれ」

「……その、最初の名前は?」

 戻らせようとした時、そう尋ねられる。

 あっ、そういえば言ってなかったな。
 人格融合前だったもんな、説明と交渉を進めておいたのは。

「『メィシィ』だ。由来は特に気にするな」

「分かりました──『メィシィ』」

 そしてその言葉で、最初に目が覚めた時と同じ状態に戻っていくのだった。

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