43 / 121
小さな諸国に行ってみよう
空間を延ばそう
しおりを挟む「……どの国も、頑張ってるんだな」
目覚めた俺は、朝特有の停止した思考でそう呟く。
アテラの持つ能力、情報を文字ではなく一種の映像として保存できるというもの。
それを利用して、錬金スキルで用意した紙に情報を纏めてもらった。
何度か試しているが、最近はこの方法を特に愛用している。
使える駒はそう多くないので、情報交換にも苦労していたのだ。
そこで見つけた便利な能力の持ち主。
すぐにそれを転用するための方法を探し、即座に使用する。
クラスメイトの便利スキルを駆使すれば、それぐらい容易いことだった。
駒たちに憶えさせた暗示術式、アテラをメインサーバーとして行われる情報交換。
難しいことはどうでもいいので分からないのだが、要は一々視界を共有しなくても知りたいことが知れるようになったんだよ。
「気になったのは、人造なんたらかな? 造れるならその技術、クローンってことになるしな。つまり、食材に困らなくなるってことだ。うん、人間のクローンはロクなことにならないからパスだけど」
というより、そこまでやると面倒な奴らに目を付けられそうだ。
クローン技術は程々に、精々遺伝子改変ぐらいが限界かな?
「でも、【聖女】は欲しくて【勇者】とかは要らないのか。あくまで聖人が目当て。そして改造計画……うん、面白そうだ。聖人に必要な因子があるのかもな。二つの意味で」
着替えを瞬間着装スキルで済ませ、寝起きの鈍い思考を精神魔法でスッキリさせた。
魔法は実に便利だ、こういったかったるい動作をすべて一瞬で済ませてくれる。
「とりあえず、調査は進めるけど今はギルドで金稼ぎだな。細かいことはあそこの国担当の…………少女に任せておこう」
名前も脳に書き込んだ方が良いのかな?
やればできそうだが、脳に悪影響がありそうだから止めておこう。
そこまでのリスクを背負ってまで人の名を憶える気もないし。
本当に必要な名前なら、憶えている。
必要性を感じないから覚えていないだけ。
今日はそんなことを考えて、一日が始まっていった。
◆ □ ◆ □ ◆
やることがないというのも、楽なようで退屈なのだろう。
地球に居た頃は、いちおうでも学生としての義務をまっとうしていた。
すると平日は一日の大半を学生としての生活に奪われ、休日という平日に比べたら少ない時間をどう有効に使うかで悩んだ。
でも、それが良かったのかもな。
限られた時間だからこそ、それだけ大切に扱えたのだろう。
「さて、今日も働きますか」
ダンジョンではなく、国の領地内。
依頼内容は魔物の討伐であった。
「『検索』……うん、いるな」
調べた周辺の情報を仮想のボードとして表示する──そこまでのスキルや魔法の発動を一つに纏めた暗示ワードを唱える。
依頼で何度もお世話になった機能だが、可視化しておくと頭の中で情報すべてを処理しなくて良いから楽なんだよ。
「これとこれとこれ、を狙って──射る」
矢を番えた弓を、適当に構えて放つ。
三本同時に射った矢は、必中スキルの効果もあってどこかへ飛んでいく。
マーキングもしっかりとできている、速度の方も速度上昇効果を付与してあるので問題ない。
「……よし、ターゲット消失」
ボード上の魔物が色を失う。
それは死亡を意味しており、矢の命中を暗示していた。
「ついでに回収機能まであれば、なおのこと良かったんだが……それは無いんだよなー」
魔力がもったいないので、歩いて殺した魔物の場所まで移動する。
本来なら空間魔法で移動するが、何も考えずに歩くのも乙だ。
「陽光を浴びて、散歩する……こんな当たり前のこともできなくなったんだよな」
暗示を解けば、鼻腔からは血の匂いが感じ取れる。
辿り着いた一匹目の魔物──熊型のヤツは頭に矢が刺さった状態で死んでいた。
散歩した先で猫や鳥が死んでいる、そんなことも極稀にあったと言えばあったな。
だが、熊と会うのは……さすがに一度もしたことの無い経験である。
「『回収』。視界に捉えれば解体できるスキルと、手をかざせば仕舞えるスキル。仕舞う方のスキルをどうにかできれば……たぶん、できるか?」
そうして使用したのは、解体の派生スキルである──(指定解体)だ。
視界内にある死骸を、魔力に応じて自動的に解体してくれるスキルである。
ただし、(自動解体)という派生スキルが無ければ使えないという面倒な設定もあった。
DEXに応じて、解体した際に手に入る素材の品質が変わる……補正をしてからやらないと下がるんだよ。
「空間は俺の手から数センチの所でしか生まれない。なら、俺の認識を弄ればどこでも空間を生みだすのも可能か?」
イメージしたのは金ぴかの英雄王だ。
あれは本気になれば360°自分を中心とする空間を展開する。
関係ないのだが、魔法なんだから何でも有りだというところを見せてもらいたい。
「でも、あれは空間が繋がっているのか。それなら空間を細長く延ばせば…………あっ、意外とイケた」
真円状の穴は、俺の意思と共に形を変えていった。
するすると糸を解くようなイメージをしていくと──二匹目の魔物が居る場所まで空間が届く。
「収納も……よし、できた」
ニュッと自分の場所に残っている細い空間から、回収したばかりの魔物の死骸を確認できる。
調子に乗って、ボードに回収の意思を籠めてみると──これまた成功であった。
「嗚呼、日々の思い付きって大切だな」
しみじみとそれを感じ、何か思いつかないかと期待しながら、ギルドに達成報告をするために帰還する。
結局、今日はこれ以上アイデアが浮かぶことは無かった。
0
お気に入りに追加
153
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?
みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。
なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。
身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。
一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。
……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ?
※他サイトでも掲載しています。
※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。
男子中学生から女子校生になった僕
葵
大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。
普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。
強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!
性癖の館
正妻キドリ
ファンタジー
高校生の姉『美桜』と、小学生の妹『沙羅』は性癖の館へと迷い込んだ。そこは、ありとあらゆる性癖を持った者達が集う、変態達の集会所であった。露出狂、SMの女王様と奴隷、ケモナー、ネクロフィリア、ヴォラレフィリア…。色々な変態達が襲ってくるこの館から、姉妹は無事脱出できるのか!?
ずっと女の子になりたかった 男の娘の私
ムーワ
BL
幼少期からどことなく男の服装をして学校に通っているのに違和感を感じていた主人公のヒデキ。
ヒデキは同級生の女の子が履いているスカートが自分でも履きたくて仕方がなかったが、母親はいつもズボンばかりでスカートは買ってくれなかった。
そんなヒデキの幼少期から大人になるまでの成長を描いたLGBT(ジェンダーレス作品)です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる