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DIY、高みへと挑む
違法侵入者 その07
しおりを挟むようやく現れた『DDD』のオーナー。
彼の初撃を転移術式で躱しながら、周囲の影を操作していく。
「なんだ、知ってたのか?」
「【殺人王】、対人特化超級職であるソレを知らない方も珍しいのでは? 古来より、大量殺人鬼だけが就ける、しかし就いても原人の方ならばすぐに殺されるということで有名ではありませんか」
「らしいな。でも、プレイヤーにはそんなの関係無いだろう? 死んでも死なねぇ、職業も無くならねぇ、どれだけ殺したって本当の意味で殺されるわけじゃねぇんだからよぉ」
職業剥奪の条件。
それは原人の死亡以外であれば、職業経験値を稼がないことがそれに該当する。
だが【殺人王】は戦闘職、人で無くとも何かを殺せばそれだけで経験値を獲得可能だ。
実質不可能、せめてできることは──原人の居ない場所に送り込むことぐらいか。
改めて、敵対する男を観察する。
染みついた血のような赤褐色の外套、それらに包まれた中の装備は見通せない。
武器は右手に長剣を。
左手には何も持たず、それぞれの手に指輪が一つずつ嵌められている。
「──“万物闇換”、“万闇統一”」
「! いいねぇ、盛り上がってきた!」
両手をパンッと重ねた。
それと同時に周囲の影が大きく蠢き、いっせいに彼に襲い掛かる。
だが、【殺人王】として膨大な戦闘経験を持っている男は簡単には倒せない。
その手にした剣に、禍々しいエフェクトが宿り──斬ッ。
斬撃は真っ直ぐ飛び、影を斬り裂く。
それを何度も振り回せば、包囲網はすぐに崩壊してしまう。
影自体の強度はそれほどではないが、そもそもとして物理的な性質を意図しない限り持たない影に干渉できるという時点で、普通では無い。
剣にそれらしき性能が無いのは、生産職の職業能力と鑑定の組み合わせて分かる。
特殊な性能は一切ない、ただそこには尋常ならざる耐久値と硬度のみ。
「とても素晴らしい剣のようですね」
「ああ、自慢の剣だ。現実だったら、この剣の錆にしてやるーとか言ってやっても良かったんだが……全部ポリゴンになっちまうし、アップデートしてくんねぇかな?」
「……よく分かりませんが、私が貴方に斬られることはありませんので。ええ、魔剣でもないその剣に、私は斬れませんよ」
男は何も言わない、表情を変えることも無いが逆にそれが嘘臭い。
剣に特別な性能が無くとも、武技や職業で補ったという場合もある。
だが武技ならもっと演出が派手だったろうし、職業は【殺人王】でそれらしき能力の情報は無い……一番可能性が高いもの、それはやはり『プログレス』。
そして、先ほどの一撃を放った時点でこちらは得たい情報をもう得ている。
擬似権能による情報改変、その残滓を闇経由で回収して解析を行い──発見。
その銘は『メメント・モリ』。
死を想うという意味を持つ『プログレス』は、あらゆる死を糧として発現者に更なる殺戮を授けていた。
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