虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武

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DIY、山に登る

仙人談(01)

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 そしてツクルのいなくなった仙郷。
 一度宮殿に戻ると、『闘仙』と【仙王】は定位置に就く。

「行っちゃった」

「ワン、会いたいなら会えばいいだろう」

「ローさん……」

 これまでは呼ばなかった、私的な呼称。
【仙王】である彼女をそう呼ぶ『闘仙』。

『闘仙』は若干目が充血している【仙王】にそう言うが、ただ【仙王】の頬を膨らませるだけに終わった。

「違うんだよ、別に。居てくれた方が楽しいからだし、特別会いたいってわけじゃ……」

「別に気にするな、『生者』の住む街への行き方は教えてやろう」

「……だ、だから別にそんなんじゃない」

「そうか。なら何も言わない」

 実際、【仙王】が抱いているのは恋愛感情というわけではない。

 自分を叱りつけ、言葉だけでなく行動で示してくれたツクルへの感謝の気持ち。
 だが、尻を叩かれての説得という認めがたい実情が、それを阻害しているため複雑化しているのだ。

「初代【仙王】も守護をしている、九龍帝国も当分は何もできない」

「ほとんどツクルがやったんでしょ? アタシだって戦えたのに……」

「子供はまだ守られていろ。『生者』は子を守る親の気持ちが分かっている。だから初代は、『生者』を戦場に飛ばした」

「……そう、らしいけどさ。いろいろと無理がない? その説明。あのお爺ちゃん、結局最下層で待ってても誰も攻めてこなかったんでしょ?」

 ダンジョンに侵入する帝国の者もいた。
 貴族の私兵が軍となり──その数、数千。
 いっせいにダンジョンへと挑み……一瞬で散っていった。

 ツクルに奪われた仙丹を集め直し、激戦を待ち侘びていた初代【仙王】はその悲報に酷くショックを受けた。
 それならばツクルにこの場を任せ、己が上に行けば良かったと。

 その結果終戦後地上に現れ、『超越者』二人を相手に暴れ回ったのだが……ここではあえて記さないでおこう。

「……あれは激闘だった。それよりもだ、これからこの街をどういった街にするんだ」

「街を?」

「この機会だ、ちょうどいい。一度訊いておこうか。……帰って来たツクルが、どう思う街にしたいんだ」

「だ、だからツクルは関係ないって! ……でも、そうだな。どうせならこんな街なら良かったのにな、って考えはあるよ」

 その思いはもともと持っていた。
 この街に生まれてこの街に暮らしていたからこそ、【仙王】はその想いを感じていた。

「──そう、王を必要としないニート郷!」

「……もう一度闘うか」

「ふっふっふ。ローさんじゃアタシには勝てない、今はまだね」

「それはどうだろうか、俺ももう一度修業を受け直したからな」

「なら止めてみなよ、どうせ暇なんだし!」

 仙郷は仙人の住む郷。
 膨大な時を生きる彼らに、最近新しい風習が増えたらしい。

 ──シエスタ、と呼ばれる風習が。


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山登り篇はこれで終了となります
次回からは、本格的に『超越者』とお父さんが絡む……かも?
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