虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武

文字の大きさ
上 下
2,745 / 2,831
DIY、とにかく戦い続ける

特殊耐久サバイバル部門後篇 その23

しおりを挟む


 火山の領域、そこと隣接する中立地帯の侵攻を担当することになった。
 今回は魔獣が先導して行うため、楽になると思ったが……そうはいかないようで。

「──『白氷』さん、ですか……」

 エクリの視界が調整を行い、遠くからでもその存在をくっきりはっきりと捉えた。
 掌サイズの小さな妖精、しかし彼女が生み出す冷気による現象は世界を塗り潰す。

 火山の魔獣、ネズミ型のソレが周囲をマグマに変えたと思えば、『白氷』の権能範囲に収まった途端に鎮火、 溶岩となって氷に覆われていく。

 そうなれば、再燃するにもそれ以上の力を注がねばならなくなる。

 他の一般参加者たちの妨害を受けながらでは、そちらに注力することもできず、魔獣は少しずつダメージを負っていった。

「うーん、こればかりは相性ですね……最初に彼女を差し向けてくるとは、余程こちらを早々に処理したいわけですか」

 種族は【雪妖精】職業は【吹雪姫】、そして権能『白氷』を有するハイブリッドな力。
 まさしく天性の才、氷関連で言えば最高峰だと『騎士王』も言ってたっけ。

 そんな彼女だからこそ、マグマを操り不死性を保つ火山の魔獣は相性抜群だった。
 その絡繰りであるマグマを即座に消し、再度使えなくなるように処理可能だからな。

 その火力を当人にぶつけられれば危ういかもしれないが、お互い的が小さいため簡単には当てられない……何より、他の参加者たちが勝手にダメージは与えてくれる。

 彼女一人であっても、正直に言えば最終的には討伐可能だろう。
 しかし他の者の手を借りれば、それを更に縮めることができる。

 そういった事情を知らない一般参加者からすると、相手の回復を阻害してくれる頼もしい助っ人……ぐらいの認識だろうか。

 ある意味間違っていないのだが、実際のところはもっと厄介なものだ。
 あえて多くを語らないでいる、普段と違い不満気な様子が逆に多くを語っていた。

「さて、何もしていないというのは後でとやかく言われてしまいそうですしね……そろそろ動くとしましょうか」

 周囲にドローンと微精霊たちは展開済み。
 予め構築していた術式を『SEBAS』に任せ、俺は擬似スキルの起動を意識しながら一歩──宙を踏みつけ、蹴り抜く。

 空歩、そして疾駆。
 二つを同時に使い、空を物凄い勢いで走り抜ける。

「お待たせしました。どうやら少し、遅れてしまったようですね」

「──やっと来たんだ。うん、見た目は違うけどやっぱり『生者』だ」

「……見た目は曖昧になるよう、偽装しているのですがね」

「ふふーん、あたしの眼は誤魔化せないってことだよ♪」

 魔獣を逃がすためにも、俺が向かった先は『白氷』のすぐ近く。
 エクリに憑依した俺の正体をあっさり看破しているのだが、それはいい。

 理不尽なのは当たり前、それが『逸脱者』なのだから。
 それよりも、その理不尽を前に抗わなければいけない現状を悩まないとな。

しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

てめぇの所為だよ

章槻雅希
ファンタジー
王太子ウルリコは政略によって結ばれた婚約が気に食わなかった。それを隠そうともせずに臨んだ婚約者エウフェミアとの茶会で彼は自分ばかりが貧乏くじを引いたと彼女を責める。しかし、見事に返り討ちに遭うのだった。 『小説家になろう』様・『アルファポリス』様の重複投稿、自サイトにも掲載。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

Anotherfantasia~もうひとつの幻想郷

くみたろう
ファンタジー
彼女の名前は東堂翠。 怒りに震えながら、両手に持つ固めの箱を歪ませるくらいに力を入れて歩く翠。 最高の一日が、たった数分で最悪な1日へと変わった。 その要因は手に持つ箱。 ゲーム、Anotherfantasia 体感出来る幻想郷とキャッチフレーズが付いた完全ダイブ型VRゲームが、彼女の幸せを壊したのだ。 「このゲームがなんぼのもんよ!!!」 怒り狂う翠は帰宅後ゲームを睨みつけて、興味なんか無いゲームを険しい表情で起動した。 「どれくらい面白いのか、試してやろうじゃない。」 ゲームを一切やらない翠が、初めての体感出来る幻想郷へと体を委ねた。 それは、翠の想像を上回った。 「これが………ゲーム………?」 現実離れした世界観。 でも、確かに感じるのは現実だった。 初めて続きの翠に、少しづつ増える仲間たち。 楽しさを見出した翠は、気付いたらトップランカーのクランで外せない大事な仲間になっていた。 【Anotherfantasia……今となっては、楽しくないなんて絶対言えないや】 翠は、柔らかく笑うのだった。

私はいけにえ

七辻ゆゆ
ファンタジー
「ねえ姉さん、どうせ生贄になって死ぬのに、どうしてご飯なんて食べるの? そんな良いものを食べたってどうせ無駄じゃない。ねえ、どうして食べてるの?」  ねっとりと息苦しくなるような声で妹が言う。  私はそうして、一緒に泣いてくれた妹がもう存在しないことを知ったのだ。 ****リハビリに書いたのですがダークすぎる感じになってしまって、暗いのが好きな方いらっしゃったらどうぞ。

処理中です...