上 下
207 / 2,723
DIY、山に登る

仙王 その13

しおりを挟む


 宣言通り、ゆっくりと歩を進めていく。
 小細工など一切せず、ただただ慌てることなく歩くだけ。
 だが、それこそが相手の恐怖感を煽る。

「こ、来ないで」

「…………」

 足が地面を踏みしめる音だけが、空間内に木霊していく。
 誰かが唾液を嚥下する音すら聞こえる程、静寂に満ちたこの瞬間。

 俺の言葉が本気だと理解した【仙王】は、はたしてどのような手を打つのか。

「来ないで!」

 拒絶、それが【仙王】の選択。
 超強力な攻撃の嵐、怒涛の仙術による洗礼が俺に襲いかかる。
 全身でそれを浴び、最後には再び何もない空間に呑み込まれた。

 だが、それでも俺は平然と前に進む。

「ひっ……!」

 一種のホラーになってきた気もするが、相手の戦意を削ぎ確実な勝利を得るためには、これ以外の選択肢は望めない。

 放たれた【仙王】の攻撃すべてをあっさりと無効化した(かのよう見せている)俺は、【仙王】にとって理解不能としか思えないだろうな。

 青白い顔で俺を見る【仙王】。
 作業服なのがちょっと意匠不足だが、そこも謎な感じでまあアクセントになっている。

「ツ、ツクルさん? もう、それぐらいにした方が……。ほら、【仙王】様も戦意喪失していますし」

「何を言っているんですか? 私の勝利条件は、【仙王】様に触れることです。それまで私が手を緩めることは、決してありません」

「で、ですが……」

「大丈夫ですよ、私に任せてください」

 何を安心すればいいのか全く分からない状況下で、俺を何を言っているんだろうか。
 答えは後で出せばいいかと考え、【仙王】の下に近付いていく。

 年端もいかない幼気な少女に、いったい俺は何をしているんだ……とも思う。
 だが、『闘仙』さんとの約束を果たすためにもやらなければならないのだ。

「さぁ、あと少しですよ」

「────ッ!」

 瞬間、【仙王】は全力で逃げた。
 仙丹を身体強化に使い、空間転移を発動しての逃走だ。

 空間転移って、体に響くからな。
 先に体を強化しておかないと、疲労感がかなりあるんだよ。

「仙丹が尽きた時、それが終わりですよ」

 この空間に、霧は存在しない。
 大気中にも微量にあるらしいが、空間転移などという燃費の悪い技を使っていればいずれは尽きることになる。

 鬼ごっこ、それはそう長く続かなかった。



「……グスンッ」

「……ようやくか」

 そもそもこの勝負、ルール改訂をした時点で俺の勝利となっていた。
 だって、負ける条件が無くなったし。
 仙丹が尽きても必死に逃げ惑う【仙王】をどうにか捕まえ、俺はこの勝負に勝った。

 頬を紅潮させ、荒い息を吐く【仙王】。
 体中汗でベッチョリ、着ている薄絹が体にフィットしていた。
 酷く退廃的な生活のせいか、痩せ細った体がそのせいでバッチリ確認できてしまう。

 ……いい食材、何かあったかな?

「それじゃあ、罰ゲームをしましょうか」

「ツクルさん、いったい何をされるので? 場合によっては、それをさせるわけにはいかないこともありますので」

「子供が悪いことをしたとき、やることはだいたい一つですよ」

 俺の視線は──【仙王】の体の一部をジッと見つめていた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

(完結)私は家政婦だったのですか?(全5話)

青空一夏
恋愛
夫の母親を5年介護していた私に子供はいない。お義母様が亡くなってすぐに夫に告げられた言葉は「わたしには6歳になる子供がいるんだよ。だから離婚してくれ」だった。 ありがちなテーマをさくっと書きたくて、短いお話しにしてみました。 さくっと因果応報物語です。ショートショートの全5話。1話ごとの字数には偏りがあります。3話目が多分1番長いかも。 青空異世界のゆるふわ設定ご都合主義です。現代的表現や現代的感覚、現代的機器など出てくる場合あります。貴族がいるヨーロッパ風の社会ですが、作者独自の世界です。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

Ancient Unfair Online ~万能武器ブーメラン使いの冒険記~

草乃葉オウル
ファンタジー
『Ancient Unfair Online(エンシェント アンフェア オンライン)』。 それは「不平等」をウリにした最新VRMMORPG。 多くの独自スキルやアイテムにイベントなどなど、様々な不確定要素が織りなすある意味自由な世界。 そんな風変わりな世界に大好きなブーメランを最強武器とするために飛び込む、さらに風変わりな者がいた! レベルを上げ、スキルを習得、装備を強化。 そして、お気に入りの武器と独自の戦闘スタイルで強大なボスをも撃破する。 そんなユニークなプレイヤーの気ままな冒険記。 ※小説家になろう様にも投稿しています。

公爵令嬢はアホ係から卒業する

依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」  婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。  そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。   いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?  何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。  エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。  彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。    *『小説家になろう』でも公開しています。

処理中です...