虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武

文字の大きさ
上 下
198 / 2,831
DIY、山に登る

仙王 その04

しおりを挟む


 それから、かなり時間が経っただろう。
 留守にします、と再度ログインする時間を推定ではあるがメモしておいた書き置きを残してから、ログアウトを行いいったん仕事に向かった。

 さすがにダンジョンに行って穴を掘って登山して、と忙しかったために待っているだけの余裕が無かったのだ。
 なのでそうしてメモと詫びの人参だけ供えて置き、一度EHOの世界から抜け出した。

 仕事を終え、拓真や家族との情報交換を終えた後に再びログインする。

「……あれ、待っていてくれたのですか?」

「はい! ですからお留守番代として、ぜひあの人参様を!」

「いえ、頼んでませんのでそれは……仕方ないですね、人参ですよ」

「あ、ありがとうございますです! 一度食べたら止まらない、とはこのことですね!」

「ハハッ、喜んでいただけて何よりですよ」

 本当は渡す気は無かったが、悲しげに垂れるウサ耳には敵わなかった。
 大人しく人参を渡すと、ウサ耳は歓喜に踊り真っ直ぐに立ち上がってくれたので、俺としても満足である。

 ポリポリと人参を噛み締めるように食べるウサ耳少女、もう少し時間が掛かりそうだ。



 食べ終わり、ゆらゆらと耳を揺らす少女に尋ねる。

「それで、どうなったのですか?」

「ああ、はい。残念ながら、『闘仙』様は謹慎処分中でしたので、お会いできませんでした。終わるのは一週間後、それまでは面会も謝絶のようです」

「……どうしようか」

「ですので事情を説明したところ、なぜかあの【仙王】様が、貴方にお会いすると言うことになりました」

「…………なぜ?」

「さぁ、なぜでしょうか」

 こういうとき、当然だが嫌な予感と言うか面倒事に巻き込まれると言うか……正直、もう帰りたくなってきた。
 しかし、新しい街に訪れて観光をするという偉大な目的もあるし……やるしかないか。

「分かりました、【仙王】様に会うことにしましょう。何か、服装に関する問題などはありますか?」

「いえ、お客様は別の場所からやって来た旅人なのでしょう? 街の者ならともかく、強制することはありません。最低限の礼儀は、当然してもらいますがね」

「もちろんです、異境の地に赴いたのはこちらの都合。王様が会ってくれるのならば、私も最大級の礼節を尽くしましょう」

 俺の最大限は、たかが知れてるからな。

「それでは、参りましょうか。私たちの住む国──『仙郷』へ!」

「はい、よろしくお願いします」

 そうして俺はウサ耳少女の案内の元、ようやく街の中に向かうことになった。
 はたして街はどんな感じで、【仙王】とはどういった存在なのだろうか。

 ……面倒事だけは、確実だけどな。

しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

てめぇの所為だよ

章槻雅希
ファンタジー
王太子ウルリコは政略によって結ばれた婚約が気に食わなかった。それを隠そうともせずに臨んだ婚約者エウフェミアとの茶会で彼は自分ばかりが貧乏くじを引いたと彼女を責める。しかし、見事に返り討ちに遭うのだった。 『小説家になろう』様・『アルファポリス』様の重複投稿、自サイトにも掲載。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

Anotherfantasia~もうひとつの幻想郷

くみたろう
ファンタジー
彼女の名前は東堂翠。 怒りに震えながら、両手に持つ固めの箱を歪ませるくらいに力を入れて歩く翠。 最高の一日が、たった数分で最悪な1日へと変わった。 その要因は手に持つ箱。 ゲーム、Anotherfantasia 体感出来る幻想郷とキャッチフレーズが付いた完全ダイブ型VRゲームが、彼女の幸せを壊したのだ。 「このゲームがなんぼのもんよ!!!」 怒り狂う翠は帰宅後ゲームを睨みつけて、興味なんか無いゲームを険しい表情で起動した。 「どれくらい面白いのか、試してやろうじゃない。」 ゲームを一切やらない翠が、初めての体感出来る幻想郷へと体を委ねた。 それは、翠の想像を上回った。 「これが………ゲーム………?」 現実離れした世界観。 でも、確かに感じるのは現実だった。 初めて続きの翠に、少しづつ増える仲間たち。 楽しさを見出した翠は、気付いたらトップランカーのクランで外せない大事な仲間になっていた。 【Anotherfantasia……今となっては、楽しくないなんて絶対言えないや】 翠は、柔らかく笑うのだった。

私はいけにえ

七辻ゆゆ
ファンタジー
「ねえ姉さん、どうせ生贄になって死ぬのに、どうしてご飯なんて食べるの? そんな良いものを食べたってどうせ無駄じゃない。ねえ、どうして食べてるの?」  ねっとりと息苦しくなるような声で妹が言う。  私はそうして、一緒に泣いてくれた妹がもう存在しないことを知ったのだ。 ****リハビリに書いたのですがダークすぎる感じになってしまって、暗いのが好きな方いらっしゃったらどうぞ。

処理中です...