虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武

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DIY、とにかく戦い続ける

闘技大会無制限部門後篇 その12

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 魔術、魔法、魔装といった魔力の運用をいくつも使い分ける『理操の導き手』。
 対するは符に刻むことができれば、大抵の術式は使うことができる『陰陽師』。

 その場その場での応用が利く前者に対し、後者は事前に仕込んだものしか使えない。
 だが彼女の場合、使うのは術式だけではない──式神たちがそれを使う場を整える。

「九拿が動いた……!」

 神子の式神、『陰陽師』が有する戦力の中でも最高峰の存在。
 そんな少女は壊れない妖刀を構え、鋭い斬撃を解き放つ。

 墓碑刀[究銘]、彼女の持つ妖刀は過去に喰らった妖刀の力を再現することができる。
 魔を断つ性質が与えられたのであろうその一振りは、その場の術式を問答無用で壊す。

 符の術式も含め、何もかもが強制的リセットされる。
 ──式神だけがその場に残り、無防備と化した『理操の導き手』を襲う。

 だがすぐに魔装の一つを解放、ショウの時にも使っていた転移で距離を取った。
 すぐさま魔術で周囲の魔力を回収、霧散した術式を束ねて異なる術式に仕上げる。

 空間が捻じ曲げられ、歪んでいく。
 式神たちの表情が一様に苦々しいものに変化しており、再び妖刀を振るおうとする九拿もそもそも体が動かせないようだった。

「……アレは、どういう理屈だ?」

《空間の法則性を操作することで、特定の距離で軌道に歪みが生じるようになっております。体を前に動かしても後ろへ、右に動かそうとしてもその場に留まる、といった書き換えが行われているのでしょう》

「…………じゃあ、アレは?」

 動きが縛られている中、一人だけ動き出した式神が……九拿である。
 これまでの洗練された動きは無い、だが確実にゆっくりとだが妖刀を上に翳していた。

 歪みによる動きの書き換えは、場所によって細かく変更が加えられているのだろう。
 腕を上げようと動かす彼女は、右に行ったりなぜか体を逸らしたりとてんやわんやだ。

 それでも、何か違和感を覚えれば動きを止め、刀を上に向かわせるための正解をひたすら挑戦し続けている。

 ……見ているだけでは分からない、何かしらのデメリットがあるだろうに。
 他の式神たちが動けないのも、それがおそらく存在するから。

 強靭な肉体を持つ九拿だからこそ、それを無視してひたすらトライ&エラーを繰り返すことができた──そしてそれは、やがて頭上に妖刀を掲げることで幕を閉じる。

「ここからいったい何が……はっ?」

 妖刀が黒く輝き始めた。
 まるで何かを吸い上げるように、黒さは刻一刻と光を飲み込み漆黒へ染まっていく。

 それと同時、緩慢だった九拿の動きがとてもスムーズなモノになる。
 動きやすくなったその体を、彼女はただ上から下に動かす──そして、世界が裂けた。

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