185 / 2,733
DIY、忙しく動く
決意
しおりを挟むヘノプスの瞳は黒く濁り、完全に事切れたことを示す。
死亡レーダーにも反応しなくなったので、それは俺にも分かっていた。
どっかりと地面に腰を下ろした古代人たちの間を通り、代表の元へ向かう。
「──それじゃあ、死体は貰いますね」
「ああ、それがお前との約束だ。これからお前がそれをどうしようと、俺たちはいっさい気にすることはない」
ありがとうございます、と言ってから会話に戻る。
「まったく、代表もずいぶんと大胆なことをしましたね。これが貴方なりの覚悟、というヤツですか?」
「そうだ、タビビトにも迷惑をかけたな。俺はこれまでの代表たちの努力を継ぎたいがために、こうした愚行を行ったんだ」
「ですが──みんな納得していることですよね? そうですよね!」
そう、守護獣を殺さずとも生き残る案は、すでに俺が提示してあったのだ。
俺はその案を確実でないと告げると、代表が守護獣を討伐することを強く願った。
そのときはどうして、と思ったが……守護獣戦を終えた今ならばなんとなく分かる。
それでもだ、共に戦った精鋭部隊たちの行動も愚行と評するのは駄目だと思う。
まあ、独り善がりだと困るし、念のため後ろを振り返っておく。
「そうだぜ、代表」「アンタの思い、さっきまでの戦いでしっかり見てたぞ」「そうよそうよ、みんなやりたくてやってたんだから、愚行なんて言わないでよ」「むしろ、俺たちであの守護獣を倒したことを誇りに思っていこうぜ!」
「おまえたち……」
うん、よかった。
ここで全員が後ろを向いて見て見ぬ振りをする、なんて展開だったら俺は傷心のあまり引き籠もるところだったぞ。
さて、話を戻そう。
死体はもう回収し、代表が何も存在しない湖の中心で魔核を掲げていた。
何やらブツブツと唱え、こちらにも聞こえる大きな声で叫ぶ。
「我は全ての試練を超えし者。我は永遠の安息を拒み、焦燥の世に旅経つ者。大いなる罪の証を今この場に示し、庇護を断ちて楽園を抜けることを誓おう──“楽園追放”!」
どこからか、軋む音が聞こえ始める。
空が悲鳴を上げるように、高々しくそれは鳴り響いていく。
代表が水辺から上がる頃には、その軋みも止んでいた。
「魔核を受け取った瞬間、この呪文が脳裏に浮かんだ。これで俺たちは、正式にこの場所から脱出することができるようになる」
「そうなんですか、私の方法では長期間できなかったので良かったです」
「ああ、世話になったな。一度砦に戻って支度をした後、再びこの地に戻ろう」
「…………代表、一つだけ確認しておいてもいいでしょうか?」
ここで今さら、そして当たり前の疑問を代表に訊いてみることにした。
「なんだ?」
「代表は、この先どうするのですか? 当てのない外の世界で──それに、この先って水没してますから、脱出するの大変ですよ。たぶん、魔法も持ちませんし」
「…………タビビト、ならお前はどうやってここに来た」
なんだろう、このタイミングで物凄い眼力で睨み付けてくるんだけど。
俺、なんか不味いことって……あっ。
「だ、代表。もう一つだけ──」
「くだらない質問だったら、例えタビビトでも容赦はしないぞ」
「『死の灰』はいつ来ますか?」
「──明日、夜明けと共に山が噴火する」
歯を食いしばって、そう教えてくれた。
俺はその言葉を聞くと、代表に告げる。
「仕方ありません、私の策を実行することにしましょう。──箱庭を乗っ取り、この地を救うことにします」
箱庭を、神様から奪い取ってみようか。
10
お気に入りに追加
643
あなたにおすすめの小説
【第1章完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。
鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。
鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。
まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。
「お姉様の赤ちゃん、私にちょうだい?」
サイコちゃん
恋愛
実家に妊娠を知らせた途端、妹からお腹の子をくれと言われた。姉であるイヴェットは自分の持ち物や恋人をいつも妹に奪われてきた。しかし赤ん坊をくれというのはあまりに酷過ぎる。そのことを夫に相談すると、彼は「良かったね! 家族ぐるみで育ててもらえるんだね!」と言い放った。妹と両親が異常であることを伝えても、夫は理解を示してくれない。やがて夫婦は離婚してイヴェットはひとり苦境へ立ち向かうことになったが、“医術と魔術の天才”である治療人アランが彼女に味方して――
英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。
公爵令嬢はアホ係から卒業する
依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」
婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。
そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。
いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?
何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。
エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。
彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。
*『小説家になろう』でも公開しています。
何でも奪っていく妹が森まで押しかけてきた ~今更私の言ったことを理解しても、もう遅い~
秋鷺 照
ファンタジー
「お姉さま、それちょうだい!」
妹のアリアにそう言われ奪われ続け、果ては婚約者まで奪われたロメリアは、首でも吊ろうかと思いながら森の奥深くへ歩いて行く。そうしてたどり着いてしまった森の深層には屋敷があった。
ロメリアは屋敷の主に見初められ、捕らえられてしまう。
どうやって逃げ出そう……悩んでいるところに、妹が押しかけてきた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる