虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武

文字の大きさ
上 下
2,579 / 2,812
DIY、とにかく戦い続ける

闘技大会無制限部門前篇 その07

しおりを挟む


 本戦出場定員は二名、残されたのは四名。
 それぞれを観察していると、そのうちの一人が知り合いの娘さんと発覚した。

「…………譲る、はありえないにせよ。共闘であれば……無理でしょうね」

《おそらくは侮辱として受け取られます、あまり好ましくは無いかと》

 獣人全体がそうとは言わないが、それなりに戦闘狂の気質がある彼ら。
 その中でも頂点に居るのが【獣王】、就職条件からして武力トップな獣人だし。

 そんな頂点に立つ獣人の娘さん、かつこのような場所に居る。
 どう考えても乗り気な戦闘……好きな子だろうし、最悪の場合必ず揉めてしまう。

 まあ、彼女自身の実力が足りずに脱落する分にはおそらく何も起きないだろうが。
 ただ俺はここに居て、何をしようにもその影響が彼女に出る…………やるしかないな。

「バレないように勝たせ、そのうえで私も勝つ。これしかありませんね」

《難易度は少々上がりますが?》

「少々、でしょう? できる以上、やり遂げるしかありません」

《畏まりました》

 さて、現状の把握を行なおう。
 先ほど人魚系の水人族の少女が爆音を出して、その影響で【獣王】たちの娘さんが姿を隠すためのローブが剥されている。

 ちなみに話題に上げていない最後の一人、【操奏剣主】は音を斬っていた。
 ……やっていることは無茶苦茶だが、実際にやっていたらしいので仕方がない。

「二人しか次に行けない以上、残った二人を退けなければならない…………もう、使いますか──“僂瓏仙武”」

『ッ!!』

 周囲に大きな変化は無い。
 だが俺が術式を起動した途端、三人がいっせいにこちらへと視線を向ける。

 やっていることは単純、あるエネルギーを媒介に肉体を強化しただけ。
 スペック上、つまり能力値としての数値にさして変化は無いが……効果はある。

 現在、体内を巡っているのは通常時を遥かに超える膨大な量の──仙丹。
 魔導世界やら監獄やら……特に脱獄時の一戦を経て、完成した一つの極致。

「まあ、一発しか打てませんのでどうぞご安心を。これより放ちますは──」

『させるか!』

 剣の雨、声の狙撃、そして逃走。
 三者三葉の動きを見せる中、すぐに遠ざかる獣人の少女の姿にほっと一安心。

 俺自身は剣に刺し貫かれようと、声の弾丸に撃ち抜かれようとお構いなし。
 ただ脚を高く上げ、これから何をするのか見せつけるだけ。

 彼女も遠距離の攻撃が無いわけではないだろうが、それよりも逃げることを選んだ。
 それは悪いことではない、今特攻して俺を排除できても二人から狙い撃ちになる。

 ならば自分の身を守るために距離を取り、そのうえで次を考える方がいい。
 ……他二人が攻撃しているのは、それぞれ剣と水の膜で防御を展開済みだからだ。

「──痛いですねぇ……ええ、とても痛い。ですので、この痛みを皆さんにも味わってもらいたい──“デッドデュエット”」

『!?』

 報復系『プログレス:バイバイバック』、そしてその派生能力“デッドデュエット”。
 効果は死亡時のカウンター呪殺、死者の数だけ即死耐性と呪い耐性を減衰させてから。

 これにより、水人族の少女が即死。
 もちろん闘技場のシステムでそれは無かったことになり、無事退場となった。

 また、俺を殺していなかったということで娘さんの方は無事。
 問題は、俺を殺しまくっていたにも関わらず、その場に残っている【操奏剣主】。

《どうやら、呪殺に対する妖刀を保持していたようです》

「…………」

 ──ちくせう、妖刀ってそんなに万能じゃないはずなんですけど!?

しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」  リーリエは喜んだ。 「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」  もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

あなたがそう望んだから

まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」 思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。 確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。 喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。 ○○○○○○○○○○ 誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。 閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*) 何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

「おまえを愛することはない!」と言ってやったのに、なぜ無視するんだ!

七辻ゆゆ
ファンタジー
俺を見ない、俺の言葉を聞かない、そして触れられない。すり抜ける……なぜだ? 俺はいったい、どうなっているんだ。 真実の愛を取り戻したいだけなのに。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...