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DIY、とにかく戦い続ける

闘技大会開発技部門 その25

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 自分自身は限界突破、対する敵にはスキルの封印。
 俺の行動を理解した厄介な戦術を用いてきたことに、ぞっとした。

 いやはや、何と凄いことか。
 ──こんな展開すらも予期して、事前の仕込みをバッチリ整えていた『SEBAS』に対して。

「舞台の下、ですか……」

「…………」

「ええ、お察しの通り頓智を効かせようと思いましてね。真っ当な手段では勝てず、スキルも使えず部門的に装備品に由来する力もほとんど使えません…………まあそれでも、決勝に向かうのは私ですけどね」

「そういえば、これはまだ準決勝じゃった。なんだかお主とやっておると、決勝という感じにしかならんわい」

 まあ、前回の対戦カードだし。
 そんな軽口を叩きあう俺たちは、その実裏で準備を整え合っている。

 ジーヂーの中でエネルギーが足元に集中しているのが、死亡レーダー経由で分かる。
 脚力の強化でどんな事態も捌き切る、という自信が見て取れるな。

《──旦那様》

「ええ、ええ。では始めましょう、時間も限られていることですし」

「!」

 準備の代行は、『SEBAS』がやってくれていた。
 俺は発動に必要な単語を、ただ読み上げるだけでいい。

「──我流・畳返し」

「なんじゃ、それ!!」

 まあ、今回は関係無いんだけど。
 開発技部門、これは要するにシステムの登録に無い技を一から構築していれば何でも有りというルールなのだ。

 それは『愚者の石』に登録された、他者の術式が運用可能な点からも分かる。
 ──つまり既存のモノでも、似ている別物と誤魔化せれば使えるというわけだ。

 地面に小さく蹴りを一発。
 ルールの制約を掻い潜るため、起きる事象にこれといった名称は存在していない。

 完成した料理が術式なら、これはそれを一から行っているだけ。
 ……いっさいの調理器具を使わずに、と言えばその難易度の高さが分かるだろうか。

 地面は固く、重く。
 赤ん坊以下の虚弱な人間の蹴り程度で動くようなものではない──だがしかし、会場中の観客たちが同じ光景を目にしている。

 蹴り上げた地面、それが宙を舞う。
 俺の足元だけを残し、舞台という定義の枠内にあるすべての物質が、地面から切り離されて遥か彼方へと。

「くっ、そうはさせんわい!」

 舞台とは何なのか、少なくともそれはこの場所の座標であり、用意された石畳のことではない──つまりそのまま居れば、敗北として扱われてしまう。

 そう判断したであろうジーヂーは、移動する舞台から飛び降りて走り出す──先んじて自らも蹴り上げて飛ばした、石礫の上を駆け抜ける形で。

「いえ、終わりですよ──それっ」

 ジーヂーは、舞台がもともとあった場所から遠く離れる前に動いていた。
 つまりギリギリだがルール上、舞台から降りてはいない。

 だからこそ俺は、最後の仕込みを開示。 
 事前に使った“貼地路在”、小さな足場に残れるような体幹が無い以上、これを使わねばいけなかった。

「──“生存結界”」

「…………っ。負け、じゃな」

 そして、『SEBAS』が補助を行い展開される堅固かつ柔軟な結界。
 攻撃に力を蓄積していたならともかく、移動用に注力していたジーヂーでは壊せない。

 さすがに舞空術は使えないようで、籠めた力の反動に吹き飛ばされる。
 ──そして地に足を着ける……ここでようやく、彼は舞台から降りたのだった。

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