上 下
2,547 / 2,721
DIY、とにかく戦い続ける

闘技大会開発技部門 その25

しおりを挟む


 自分自身は限界突破、対する敵にはスキルの封印。
 俺の行動を理解した厄介な戦術を用いてきたことに、ぞっとした。

 いやはや、何と凄いことか。
 ──こんな展開すらも予期して、事前の仕込みをバッチリ整えていた『SEBAS』に対して。

「舞台の下、ですか……」

「…………」

「ええ、お察しの通り頓智を効かせようと思いましてね。真っ当な手段では勝てず、スキルも使えず部門的に装備品に由来する力もほとんど使えません…………まあそれでも、決勝に向かうのは私ですけどね」

「そういえば、これはまだ準決勝じゃった。なんだかお主とやっておると、決勝という感じにしかならんわい」

 まあ、前回の対戦カードだし。
 そんな軽口を叩きあう俺たちは、その実裏で準備を整え合っている。

 ジーヂーの中でエネルギーが足元に集中しているのが、死亡レーダー経由で分かる。
 脚力の強化でどんな事態も捌き切る、という自信が見て取れるな。

《──旦那様》

「ええ、ええ。では始めましょう、時間も限られていることですし」

「!」

 準備の代行は、『SEBAS』がやってくれていた。
 俺は発動に必要な単語を、ただ読み上げるだけでいい。

「──我流・畳返し」

「なんじゃ、それ!!」

 まあ、今回は関係無いんだけど。
 開発技部門、これは要するにシステムの登録に無い技を一から構築していれば何でも有りというルールなのだ。

 それは『愚者の石』に登録された、他者の術式が運用可能な点からも分かる。
 ──つまり既存のモノでも、似ている別物と誤魔化せれば使えるというわけだ。

 地面に小さく蹴りを一発。
 ルールの制約を掻い潜るため、起きる事象にこれといった名称は存在していない。

 完成した料理が術式なら、これはそれを一から行っているだけ。
 ……いっさいの調理器具を使わずに、と言えばその難易度の高さが分かるだろうか。

 地面は固く、重く。
 赤ん坊以下の虚弱な人間の蹴り程度で動くようなものではない──だがしかし、会場中の観客たちが同じ光景を目にしている。

 蹴り上げた地面、それが宙を舞う。
 俺の足元だけを残し、舞台という定義の枠内にあるすべての物質が、地面から切り離されて遥か彼方へと。

「くっ、そうはさせんわい!」

 舞台とは何なのか、少なくともそれはこの場所の座標であり、用意された石畳のことではない──つまりそのまま居れば、敗北として扱われてしまう。

 そう判断したであろうジーヂーは、移動する舞台から飛び降りて走り出す──先んじて自らも蹴り上げて飛ばした、石礫の上を駆け抜ける形で。

「いえ、終わりですよ──それっ」

 ジーヂーは、舞台がもともとあった場所から遠く離れる前に動いていた。
 つまりギリギリだがルール上、舞台から降りてはいない。

 だからこそ俺は、最後の仕込みを開示。 
 事前に使った“貼地路在”、小さな足場に残れるような体幹が無い以上、これを使わねばいけなかった。

「──“生存結界”」

「…………っ。負け、じゃな」

 そして、『SEBAS』が補助を行い展開される堅固かつ柔軟な結界。
 攻撃に力を蓄積していたならともかく、移動用に注力していたジーヂーでは壊せない。

 さすがに舞空術は使えないようで、籠めた力の反動に吹き飛ばされる。
 ──そして地に足を着ける……ここでようやく、彼は舞台から降りたのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

処理中です...