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DIY、とにかく戦い続ける

闘技大会開発技部門 その10

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 試合時間数秒。
 凶悪術式“ニュートンの林檎”が休人の参加者に直撃し、試合は俺が何もせずともあっさりと幕を閉じる。

 勝利宣言を聞いた直後、会場は一瞬静まり返っていた。
 素直に勝敗に一喜一憂できない、あまりにも違和感だらけの結果だったからだろう。

 それでも俺は、今の姿勢を変えない。
 仰々しく、恭しく手を上に伸ばし、円を描くようにして一礼する。

 ──そこでようやく、俺に向ける感情が決まったのだろう。
 大ブーイングが辺りから、入場時は聞こえた歓声すら消えて響いていた。

「これはこれは、嫌われたものですね」

《旦那様……》

「分かっていたことですが……ハハッ、それでもクるものはあるのでしょう」

 とまあ、何か訳ありな悪役みたいな台詞を吐いているのだが──全然気にしてない。
 なぜならちょうど今、[メール]を介して家族からメッセージが届いているから!

 内容はまだ見てないけど、少なくとも家族がこの試合を把握しているわけで。
 夫として、父親として、恥ずかしい振る舞いを見せるわけにはいかない!

「──『火竜の呑柱』」

 舞台から降りた今、俺には何の制限も設けられていなかった。
 取り出すのは[死天]謹製のアイテム、仕様を選ぶとそれは即座に天を焦がす。

 火の柱が突如として現れ、会場中は再び驚愕で声を止める。
 その一瞬を突いて、アイテムの効果が切れた瞬間に言葉を紡いでいく。

「私は、逃げも隠れもしませんよ。貴方がたが行うべきは、罵倒ではありません。何をしたかを暴き、私を討ち倒すこと。あるいは、それを成し得る者に託すこと……そうではありませんか?」

 魔道具は使っていないが、『SEBAS』が拡声して届けてくれている。
 そのため誰もがこの言葉を聞き、なお一部の者が俺を罵倒していた。

 だがそれでも、大多数は声を荒げるのを止めてくれたので問題無し。
 ……特に台本は無い発言だが、頭を捻って言葉を繋げていく。

「試合中も語りましたが、もう一度お伝えしましょう。私は先ほどの『林檎』を、弱者に使うことはありません。使わずとも、勝てると自負しているからです……もちろん、相手が強大であれば話は別かもしれませんがね」

 煽る、とにかく煽り立てる。
 要は相手が弱いから、使わなくても構わないよね? と言ってみた。

 その結果──物まで投げつけてくるより苛烈なブーイングが行われだす。
 それでもそれは、俺を非難する内容では無くなっていた。

 思わず浮かべそうになる笑みを抑えつつ、俺は入場ゲートから退散する。
 ……うんうん、俺も彼らもWinWinではなかろうか?

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