虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武

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DIY、冒険を求める(続)

機械箱庭 その05

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 事象ごと斬ってくる、『事斬』の使い手に絶賛苦戦中。
 おまけに外部からの来訪者ということで、魔工機士たちには補正が入る模様。

 時間を掛けていると、他の魔工機士たちがここに集まってしまう。
 足止めも、同じく固有魔動を使う魔工機士たちが相手となると分が悪いはず。

「──“アップ・ロード:スピードブースター”」

 他者の『プログレス』を再現する、俺とは似て非なるエクリのやり方。
 だが出力される結果は同じ、靴として構築された擬似権能に力を注ぎ──後方へ走る。

「早ッ、おいこの状況で逃げるのか!?」

「貴方はとても強い、真っ向から挑むのであれば時間が掛かるでしょう。今回は機会が無かったということでお開きとしましょう!」

「……勝てねぇ、とは言わねぇんだな」

 独白するような呟きは、あえて聞かなかったことにしてそのまま走り抜ける。
 一番最初の『事斬』、あれは空間を斬っての瞬間移動だったのだろう。

 だが魔工機士は今それをせず、ただその場に立っているのみ。
 使用制限が…………いや無いな、たぶん見逃してもらっただけだ。

  ◆   □   ◆   □   ◆

「──本当に行っちまいやがった」

 ツクルと相対していた魔工機士は、手持無沙汰となっていた剣を鞘に納める。
 追いかけることもできた、だがそれをしなかったのは──

「……あれ以上、全力を出されたら不味かったからな」

「──ここに居ましたか」

「おおっ、我らが副長殿。最深部への侵攻は順調なようで」

「……皮肉ですか? 動力から権限、何から何まで取られているのです。相手が我々の魔動機盤に手を出さないのがおかしいぐらいですよ。各部隊、固有魔動を解放して挑んではいますが……まったく進んでいません」

 新たにこの場に現れたのは、先ほどまで最深部への侵攻を行う指揮を執っていた女性。
 腰には剣ではなく二丁の拳銃を下げ、魔工機士に詰め寄るように近づいてくる。

「それより、そちらはどうなっているのですか? 先ほどまで接敵していたようですが」

「ああ、ありゃあヤバい。休人どもを簡単に斬れた『事斬』を真正面から受けても、ピンピンとしてやがった」

「…………それは本当に人ですか? 休人は種族も様々なようですし」

「いや、普通に人族っぽかったぞ。亜人だったか? 俺たちとの差異も無かったし、そういう感じじゃないだろう」

「それでも、貴方の──総隊長の『事斬』を捌いたと……それは恐ろしいですね」

 総隊長、と言われた魔工機士は嫌がるような表情を見せるが、仕方なしと溜息を吐く。

「大犯罪者ツクル、ねぇ。ずいぶんと面白くしてくれるじゃねぇか」

「そんなこと言っている場合ではありませんよ。何としても、捕まえねばなりません」

「殺しても死なないから、殺してもいいから捕まえろだったか? やれやれ、物騒な時代に生まれたもんだ」

 彼らは共に、移動を再開した。
 向かう先は──先ほどツクルが向かった方角である。

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