上 下
150 / 2,733
DIY、穴に潜る

冥府の扉

しおりを挟む


「巨大な扉……冥府への門ってか?」

 そう、坂を下りた先には、凱旋門のように巨大なアーチを描くオブジェクトがあった。
 通るための場所は一つ。
 だが、凱旋門とは違ってしっかりとした門扉が設置されており、締まり切った現状では通過できないだろう。

「装飾も冥府としては良いデザインだな。写真を撮っといてくれ」

《そう言うと思い、すでに行っております》

 俺の視界を媒介として、『SEBAS』が凱旋門を写真として記録する。
 ゲーム中の写真撮影だし俺が撮影しているわけでもないし、SSスクリーンショットって説明でいいのか?

「デザインは良いんだが……BGMの方は趣味が悪いな。いや、確かにここで美声とかを流されても正直引くけど」

 門柱とも言える部分には、金銀や宝石などの装飾もあるのだが……鮮やかな腕前で、人が嘆き苦しむ様子も彫られてるんだよ。
 そこからは時々アーとかウーとか声を上げているのが耳に入ってくる。

《結界で音を遮断すればよろしいかと》

「……その手もあるんだが、いつ何があるか分からない場所で、こっちから五感の一つを潰すのもどうかなって? 『超越者』がいると困るし」

《軽率な発言、申し訳ありません》

「解析に処理能力を使わせているのはこっちだからな。それを割いてまで、俺の些細な問題を考えさせるのは筋違いなことだ」

『SEBAS』は常にさまざまなことを任せており、その負担はスパコンが何十台あっても補えないほどの処理能力が無ければ、支えきれない程になっているのが現状だ。
 ……俺、身の丈に合わないことばかりやっているからな。

 世界の管理や貿易の調整、さらに:DIY:と技術の組み合わせなどなど……うん、やらせすぎたかもしれない。
 故にこのタイミングで『SEBAS』が後悔の念を抱こうと、俺にはそれを咎めることはできないのだ。

 今度、バージョンアップしてやろうか。



 亡者の呻きはスルーにしておくとして、この先をどう進むかが問題だな。
 仮定だと俺を呼んだわけでもないだろうから、門が親切に開いてくれるなんて展開はさすがに求められない。

「……あっ、一個だけ可能性があったな」

 称号リストを開き、一度確認した一つの称号を調べ直す。

「これがあればどうにかなる……のかな? 詳細不明だし」

 自分でもそれが、確実に上手くいくかどうかは分からない。
 それでも、少しでも可能性があれば……そう思って門に近付く。

 すると──

  □   ◆   □   ◆   □

 称号『生冥の迷い人』を確認
 冥界への移動権(第一権限)を行使します

 開門……成功しました

  □   ◆   □   ◆   □

 人々の悲痛の声を掻き消すように、重々しい音と共に扉が開いていく。
『生冥の迷い人』、まさか繋がるのが冥界になるとは……少し、予想はしていたけど。

「だが、これで確証が取れてしまった」

《この場は冥界、門の先は死の国となっているでしょう》

 ……さて、俺は帰ってこられるのかな?

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

【第1章完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。

「お姉様の赤ちゃん、私にちょうだい?」

サイコちゃん
恋愛
実家に妊娠を知らせた途端、妹からお腹の子をくれと言われた。姉であるイヴェットは自分の持ち物や恋人をいつも妹に奪われてきた。しかし赤ん坊をくれというのはあまりに酷過ぎる。そのことを夫に相談すると、彼は「良かったね! 家族ぐるみで育ててもらえるんだね!」と言い放った。妹と両親が異常であることを伝えても、夫は理解を示してくれない。やがて夫婦は離婚してイヴェットはひとり苦境へ立ち向かうことになったが、“医術と魔術の天才”である治療人アランが彼女に味方して――

番だからと攫っておいて、番だと認めないと言われても。

七辻ゆゆ
ファンタジー
特に同情できないので、ルナは手段を選ばず帰国をめざすことにした。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

公爵令嬢はアホ係から卒業する

依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」  婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。  そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。   いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?  何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。  エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。  彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。    *『小説家になろう』でも公開しています。

仰っている意味が分かりません

水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか? 常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。 ※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。

処理中です...