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DIY、穴に潜る
落とし穴
しおりを挟む迷宮のことは『SEBAS』に任せるとして、俺は適当に行動しよう。
外に出て冒険するとまた何者かに狙われそうな気がするので、あまり広く行動することは避けたい。
なので──
「……よし、これぐらいあればいいか」
行くのは草原だけにしておき、あくまで焼き串屋に売る分だけを倒していく。
無為な殺戮はできるだけ控え、引き籠もるのが吉と見た。
まあ、そもそも生き残るために道具を使っていたので、無為ではないと思うけどさ。
今日も今日とて狩りを行い、コツコツとお金を稼いでいく。
ポーションの売り上げも計り知れないのだが、それはアイプスル発展のために使っているので、俺だけの金というものが存在しないのが実情だ。
故にこうしてチマチマと作業をこなして、一日一日を生きている。
「何もない平和な一日、実に素晴らしいじゃないか。『騎士王』はつい先日来たんだし、これ以上の邪魔者は来ない」
『騎士王』自身は来ようとするかもしれないが、ガウェインさんたちがそれを食い止めることは間違いないだろう。
そう何度も自国の王が遠く離れた町で焼き串を食っている状況なんて、あんまり歓迎したくないだろうしな。
「いやー、良い一日になりそうだー!」
そう叫んだ俺の足元には──
「……あっ――」
何もない真っ暗な穴が存在していた。
◆ □ ◆ □ ◆
そして今、俺は焼き串屋の前で美味しい焼き串を食べている。
貿易の結果調味料が一気に増えたからな、色んな味が作れるようになって、味のレパートリーも増えたってもんさ。
えっ、穴に落ちた?
そんなもん、着陸と同時に死に戻ってきたに決まってるじゃないか。
底の方にも重力操作で安全に着地できるようなサービスが有ったり、死亡レーダーに反応があったから人が居たとは思うが……俺の気分は焼き串に集中していたんだ。
何が起こるか分からない地下世界のイベントよりも、何もなくても食べられる平和な日常の方が今は好ましい。
確かに冒険を求めた時期もあったが、一度やると一気にテンションが下がった。
……いや、冷静になったのか。
どうせピンポイントで俺を落とす必要は無いんだし、他のプレイヤーが歓待を受けてから依頼を引き受けるだろう。
俺が文字通り命懸けで依頼をこなすより、そっちの方が誰もが幸せな結果を生む。
「店主、今日はこの肉を焼いてくれよ。エルフの里で手に入った熊の肉だ」
「……ソイツぁ焼き甲斐がありそうだな。よし、ちょっと待ってろよ」
こんな風に、少しだけファンタジーな感じが出ていれば、俺は充分なんだ。
──決して、文字通りの死闘がしたいわけじゃなかったんだ。
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