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DIY、監獄ライフに勤しむ
脱獄遂行 その16
しおりを挟む弱者ゆえの権能、それが『隠者』。
冒険世界の誰よりも死を拒み、立ち向かうのではなく逃げることを強く渇望した者に与えられる『超越者』としての名前。
それが意味するところは……冒険世界のみが知ること。
わざわざ地雷を踏む趣味は無いので、今は青い花を眺める『隠者』に集中しよう。
「えっと、『隠者』さん?」
「!」
「まずは謝罪を。このような形で無ければ、私はこの先へ向かうことができないと考えたうえでの選択でした。何分、ここまで死闘ばかりでしたので……貴方が今回の行動に、協力的だとばかり」
「……!(ブンブンッ)」
うん、どうやら違ったようだ。
すでに魔導世界で業務の強要という前例を知っているので、そこまで驚くことは無い。
「しかし、これでは意思疎通は少々難しいかもしれませんね…………ご確認ですが、肯定か否定かを首で行うこと自体は問題ないのですね?」
「……(コクッ)」
「なるほど……分かりました。それでは、こちらを使ってください」
「!」
逃げ……はしなかったが、かなり怯えた様子で俺の出した物を見る。
それは魔道具でもないただの板とペン、ただし微妙に科学が入った道具。
まあ、ホワイトボードとマジックだ。
魔道具や機械にすると怯えられる気がしたので、そういった要素のまったく無い物を探した結果である。
それが功を奏したのか、何やら確認をした後二つの道具を手にした『隠者』。
使い心地を確認し、危険の有無も調べ終えたのだろう……何かを書き出す。
「……!」
[■■■■■■■]
「……えっと」
《ただいま言語解析を行っております……ですが、該当するものが見つかりません》
会話が成立していた、というのを言語解析のヒントにできないのが休人だ。
自動的に音声を認識可能な言語に変換してしまうので、元が分からなくなる。
詳細はまあ省くが、『SEBAS』はその代わりに記されたモノ──象形文字のような字体を解析してくれていた。
その字がどういったものなのか、それを知るのは今で無くとも良い。
重要なのは『隠者』が何を伝えたいのか、それさえ知れれば過程は不要だ。
《『バックハック』を起動、次いで“サイコメトリー”を発動します》
だからだろう、『SEBAS』は言語の解析を捨て意味の抽出を図る。
起動した『プログレス』は、過去を把握することに特化したもの。
過去を求める者が発現させた力で、多岐に渡る方法でアプローチを試みていた。
魔石で方向性を弄り、派生させたその能力は──触れた存在から意思を読み取る。
「……これは、拒絶ですか」
「……(コクッ)」
「ああいえ、大丈夫ですよ。すみません、距離は取りますね」
「……!(コクコクッ)」
ま、まあ、とりあえず書いた文字に籠められた意思は間違っていないようだ。
時間はあまりないのだ、何とかして道を開けてもらわなければ。
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