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DIY、監獄ライフに勤しむ
脱獄遂行 その15
しおりを挟む──『孤闘の武台』。
これは『死闘の舞台』をどうにかカスタマイズし、完成させた死ななくていい試合場。
その代わり、試合終了後は戦闘不能状態として大半の行動が取れなくなる仕様だ。
つまり、現状──氷漬けにして封じ込めていた『隠者』を倒すことに繋がる。
本来なら逃げの一手で無双する相手であろうと、どうにか土俵へ引き摺り込めた。
「まあ、問題はだからと言って絶対に勝てるかどうかはまた別の問題ですよね……」
「……」
「貴方のお噂はかねがね。不可触の『隠者』と言えば、我々休人ですら把握している伝説上の御方ですので。知られていようと問題ない、それだけの権能を貴方はお持ちだ……それでも、上に行くため倒させてもらいます」
一言も発さない『隠者』。
警戒は最大限に、再び使用可能となった機械群で全体を把握し一挙手一投足を決して見逃さないつもりだ。
──だからこそ、一切把握できなかったその行動に、俺も『SEBAS』も驚いた。
「──降、参。殺さ、ないで……!」
「…………へっ?」
◆ □ ◆ □ ◆
それは、両掌両膝を地に着け額すらも擦り付ける五体投地──つまりは土下座である。
状況は理解できない……が、とりあえず今のままではいけないと理解した。
未だに『殺さないで』と連呼しているその声は、まだ大人ではない子供のもの。
しかし、他の『超越者』からある程度知っている……まあ、それはさておこうか。
「えっと、頭を上げて──」
「ひぅ! 殺さ、ないで……!」
「……『ブルームセンス』、青色開花」
借り物の『プログレス』を展開し、掌に咲かせた青色の花。
当然、それにすらも怯える『隠者』に対して強引に花を渡し、渡……
「──くっ、力が強い……」
「……えっ?」
「こ、これを、受け取って──」
「ひっ、嫌っ!」
「けほっ!」
激しく抵抗された結果、文字通り無力な俺は弾き飛ばされる。
この結果には、『隠者』もさすがに驚いたらしくキョトンとした表情だ。
「痛たた……ご存じありませんでしたか? 私は誰よりも弱い『生者』、たとえこの身が星敵になろうとも根本は変わりません」
「そ、そう、なんだ……」
「死なないからこそ資質はございませんが、ある意味『隠者』への権利はあったかもしれませんね」
「!?」
冒険世界の『超越者』は、権能の獲得先がかなり特殊な場合が多い。
その中でも『隠者』は、決して強者が得ることの無い代物。
──弱く、それゆえに死から逃れようとする強い渇望。
運命から拒む強い気持ちが、『隠者』となる証となるのだ。
そしてそれが誰よりも強く、それを保つことができなければ証は失われてしまう。
要するに、『隠者』になった後も卑屈なまでに死を拒まなければいけない。
──そして冒険世界の『隠者』は、それを何十年も保ち続けている。
「正負はともあれ、その強い渇望は大変素晴らしい。花は……もう不要ですね」
「……あっ」
「…………要りますか?」
「! ……(コクッ)」
結構な御歳のようだが、『隠者』は老化や死すらからも逃げている権能持ちだ。
おまけに『隠者』の権能は、なぜかレベルまで継承する仕掛け付き。
……ただし、上がった分のレベルで本来得られるはずの成長は一切無い。
ただただレベルが上がるだけ、強くなりたいのであれば無意味な効果だ。
それでも、『超越者』はレベルが一定を超すことで得られるものがある。
それこそが『隠者』が得たもう一つの効果だ……手放し易くする嫌らしい効果だよな。
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