虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武

文字の大きさ
上 下
2,347 / 2,811
DIY、監獄ライフに勤しむ

脱獄遂行 その15

しおりを挟む


 ──『孤闘の武台』。

 これは『死闘の舞台』をどうにかカスタマイズし、完成させた死ななくていい試合場。
 その代わり、試合終了後は戦闘不能状態として大半の行動が取れなくなる仕様だ。

 つまり、現状──氷漬けにして封じ込めていた『隠者』を倒すことに繋がる。
 本来なら逃げの一手で無双する相手であろうと、どうにか土俵へ引き摺り込めた。

「まあ、問題はだからと言って絶対に勝てるかどうかはまた別の問題ですよね……」

「……」

「貴方のお噂はかねがね。不可触の『隠者』と言えば、我々休人ですら把握している伝説上の御方ですので。知られていようと問題ない、それだけの権能を貴方はお持ちだ……それでも、上に行くため倒させてもらいます」

 一言も発さない『隠者』。
 警戒は最大限に、再び使用可能となった機械群で全体を把握し一挙手一投足を決して見逃さないつもりだ。

 ──だからこそ、一切把握できなかったその行動に、俺も『SEBAS』も驚いた。

「──降、参。殺さ、ないで……!」

「…………へっ?」

  ◆   □   ◆   □   ◆

 それは、両掌両膝を地に着け額すらも擦り付ける五体投地──つまりは土下座である。
 状況は理解できない……が、とりあえず今のままではいけないと理解した。

 未だに『殺さないで』と連呼しているその声は、まだ大人ではない子供のもの。
 しかし、他の『超越者』からある程度知っている……まあ、それはさておこうか。

「えっと、頭を上げて──」

「ひぅ! 殺さ、ないで……!」

「……『ブルームセンス』、青色開花」

 借り物の『プログレス』を展開し、掌に咲かせた青色の花。
 当然、それにすらも怯える『隠者』に対して強引に花を渡し、渡……

「──くっ、力が強い……」

「……えっ?」

「こ、これを、受け取って──」

「ひっ、嫌っ!」

「けほっ!」

 激しく抵抗された結果、文字通り無力ATK0な俺は弾き飛ばされる。
 この結果には、『隠者』もさすがに驚いたらしくキョトンとした表情だ。

「痛たた……ご存じありませんでしたか? 私は誰よりも弱い『生者』、たとえこの身が星敵になろうとも根本は変わりません」

「そ、そう、なんだ……」

「死なないからこそ資質はございませんが、ある意味『隠者』への権利はあったかもしれませんね」

「!?」

 冒険世界の『超越者』は、権能の獲得先がかなり特殊な場合が多い。
 その中でも『隠者』は、決して強者が得ることの無い代物。

 ──弱く、それゆえに死から逃れようとする強い渇望。

 運命から拒む強い気持ちが、『隠者』となる証となるのだ。
 そしてそれが誰よりも強く、それを保つことができなければ証は失われてしまう。

 要するに、『隠者』になった後も卑屈なまでに死を拒まなければいけない。
 ──そして冒険世界の『隠者』は、それを何十年も保ち続けている。

「正負はともあれ、その強い渇望は大変素晴らしい。花は……もう不要ですね」

「……あっ」

「…………要りますか?」

「! ……(コクッ)」

 結構な御歳のようだが、『隠者』は老化や死すらからも逃げている権能持ちだ。
 おまけに『隠者』の権能は、なぜかレベルまで継承する仕掛け付き。

 ……ただし、上がった分のレベルで本来得られるはずの成長は一切無い。
 ただただレベルが上がるだけ、強くなりたいのであれば無意味な効果だ。

 それでも、『超越者』はレベルが一定を超すことで得られるものがある。
 それこそが『隠者』が得たもう一つの効果だ……手放し易くする嫌らしい効果だよな。

しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。 了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。 テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。 それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。 やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには? 100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。 200話で完結しました。 今回はあとがきは無しです。

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

神に逆らった人間が生きていける訳ないだろう?大地も空気も神の意のままだぞ?<聖女は神の愛し子>

ラララキヲ
ファンタジー
 フライアルド聖国は『聖女に護られた国』だ。『神が自分の愛し子の為に作った』のがこの国がある大地(島)である為に、聖女は王族よりも大切に扱われてきた。  それに不満を持ったのが当然『王侯貴族』だった。  彼らは遂に神に盾突き「人の尊厳を守る為に!」と神の信者たちを追い出そうとした。去らねば罪人として捕まえると言って。  そしてフライアルド聖国の歴史は動く。  『神の作り出した世界』で馬鹿な人間は現実を知る……  神「プンスコ(`3´)」 !!注!! この話に出てくる“神”は実態の無い超常的な存在です。万能神、創造神の部類です。刃物で刺したら死ぬ様な“自称神”ではありません。人間が神を名乗ってる様な謎の宗教の話ではありませんし、そんな口先だけの神(笑)を容認するものでもありませんので誤解無きよう宜しくお願いします。!!注!! ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇ちょっと【恋愛】もあるよ! ◇なろうにも上げてます。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

処理中です...