虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武

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DIY、監獄ライフに勤しむ

脱獄遂行 その04

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 命の炎を燃やすことで、暗黒の世界をほんの少しだけ照らすことに成功した。
 結果、可能になった視界内転移──その歩みは刻まれていく。

「さて、結局何もありませんでしたか……それもそのはずですか」

 ここは迷宮であって迷宮でない、つまり本来のソレとは異なる場所。
 魔物や罠を配置する必要も無く、ただ存在しているだけで意味を成す。

 まあ俺を精神的に殺すべく、あえて何も用意していなかった可能性もあるが。
 魔物や罠で何かの意思が関わっている、そう思わせないというのも徹底しているけど。

「とはいえ、こちらも黙って相手の意図に従い続けるわけではありませんので」

 俺の歩みを俯瞰的に見ることができる者が居れば、それに意味を見出すことができる。
 そうなるように歩き続けたし、むしろそうならないと困ってしまう。

 実際に、ドローンで空中から見て……も残念ながら何も分からない。
 周囲を照らしている命の火だが、それは不規則に歪んだ線があちこちに散らばるだけ。

 だがそれでいい、この空間自体が歪んでいるので正しく見えていないのだ。
 それでも、『SEBAS』が指示した歩みが正しいと信じ──足元に魔力を流す。

「! 成功しましたね!」

《旦那様、ご警戒を。このまま見す見す、逃すとは思えません》

「……いえ、そうですね。少なくとも、この場所そのものが悪意の塊でしたか」

 何もないとはいえ、誰かがこちらを覗いている嫌な感覚はあった。
 魔力を流し切るまで、あるいは流し終わっても油断していいわけではない。

「命の炎で結んだ術式、時空の転移魔法は成功しますよ?」

 発動自体はきちんとするだろう。
 それまでの過程も念入りに行い、干渉の余地を無くしている。

 だがその後がどうなるのか不明だ。
 目的地の指定は『SEBAS』が解析した情報を基に行われ、安全地帯に逃げ返す設定にしてはいるが。

 あるいはそれすらも、混沌の使徒からすれば想定の範疇かもしれない。
 不安はしていない、だが拭い切れない違和感と共に俺はこの場から転移した。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 ジジ、ジ……

≪■■:(■■■■■■)■■■■■■■≫

  ◆   □   ◆   □   ◆

 邪悪深殿 五十層 最奥

 気づけば俺の姿は、見覚えのある様式の空間に在った。

「…………ここは?」

《五十層の裏です。どうやら、転移そのものは成功しました》

「問題は何か変なものを貰っていないかなんだが…………ああうん、あったな」

 すぐに[ログ]を確認すると、何やら変な表記を発見してしまう。
 それは間違いなく、先ほどまで居た空間の悪影響──まあ、想定の範疇だ。

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