虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武

文字の大きさ
上 下
2,317 / 2,853
DIY、監獄ライフに勤しむ

脱獄実行 その15

しおりを挟む


 邪悪深殿 十層

 九層から穴の開いた十層への転移、裏技に近い方法で『闘仙』との決着から逃れることになった俺。

 おそらく、階層を抜けさえすれば追いかけてくることは無い。
 また、追いかけてきたとしても、俺を足止めする必要性は失われるはずだ。

「げふっ……何とか生き残ったな」

 星敵になった、だからといって俺にさしたる変化は無い。
 ただ一つあるとすれば、痛覚機能が緩和できなくなっている。

 これは本来の犯罪者などにも当て嵌まり、原人であっても一部の痛みを誤魔化すスキルなどが使えなくなる──まあ、これは相手が断罪系の職業やスキルを持つ場合だけど。

 星敵の場合、システムによる緩和の恩恵がほとんど失われる。
 嫌ならなるなの星敵、これまでとは少し立場が異なるのだ。

「痛み止めは……要らんか、よいしょっと」

 一撃を撃ち込まれた部分がズキズキと痛んでいたが、これは『闘仙』が俺の不死性を理解したうえで攻撃を行ったから。

 仙丹を残留するような形で送り込み、強制的な外部HP枠に仕立て上げたのだ。
 勝手に増えたものが勝手に減り、その分だけ痛みが発生するという悪辣なもの。

 その対策はシンプルに──自害だ。
 今の俺の蘇生方法は二パターンで、簡単に済む死亡後にすぐさま蘇生するというやり方では仙丹を取り除けない。

 ゆえに[メニュー]から自害機能を選択、アバターの再構築を実行する。
 本来ならペナルティを支払う必要があるのだが、そこは低スペックな体ゆえ無料。

 同時に『生者』が内包する無数の[称号]の効果が発動し、瞬間的に実行される。
 仙丹は体内から取り除かれ、そのうえでツクルのアバターは再構築された。

「よし……デスペナはゼロのままだな」

《星敵としての能力もまた、外部にあるため制限に引っかかることはございません。同時に、[称号]によるデスペナ緩和効果も機能しておりますので、問題ないかと》

「初心者が欲しいものなんだろうけど、手に入れるためには死に続けないといかんしな。無駄に時間を使うぐらいなら、それこそレベルを上げて強くなる方が早いか」

 先ほどまでと違い、余裕のある会話。
 次に目指すのは二十層……ではない。
 先ほど十層へ向かったのは、星々の刺客が訪れたことによる変化を確認するため。

「だからこそ、セーブしておいたわけなんだし。『SEBAS』、設定の書き換えは済んでいるか?」

《はい。完全にとはいきませんでしたが、この場の陣を用いれば可能です》

「それじゃあ、次に行きますか」

 用いるのは守護者が居なくなることで現れる二つの転送陣、その一つ。
 片方が十一層へ、もう片方は一層へと向かうためのものだ。

 俺は一層へ向かうための転送陣を選択、アイテムを握り締め転送時の体が浮く感覚に包まれるのだった。

しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

あなたがそう望んだから

まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」 思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。 確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。 喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。 ○○○○○○○○○○ 誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。 閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*) 何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

【完結】お父様に愛されなかった私を叔父様が連れ出してくれました。~お母様からお父様への最後のラブレター~

山葵
恋愛
「エリミヤ。私の所に来るかい?」 母の弟であるバンス子爵の言葉に私は泣きながら頷いた。 愛人宅に住み屋敷に帰らない父。 生前母は、そんな父と結婚出来て幸せだったと言った。 私には母の言葉が理解出来なかった。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。 了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。 テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。 それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。 やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには? 100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。 200話で完結しました。 今回はあとがきは無しです。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

傍観している方が面白いのになぁ。

志位斗 茂家波
ファンタジー
「エデワール・ミッシャ令嬢!貴方にはさまざな罪があり、この場での婚約破棄と国外追放を言い渡す!」 とある夜会の中で引き起こされた婚約破棄。 その彼らの様子はまるで…… 「茶番というか、喜劇ですね兄さま」 「うん、周囲が皆呆れたような目で見ているからな」  思わず漏らしたその感想は、周囲も一致しているようであった。 これは、そんな馬鹿馬鹿しい婚約破棄現場での、傍観者的な立場で見ていた者たちの語りである。 「帰らずの森のある騒動記」という連載作品に乗っている兄妹でもあります。

追放された薬師でしたが、特に気にもしていません 

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、自身が所属していた冒険者パーティを追い出された薬師のメディ。 まぁ、どうでもいいので特に気にもせずに、会うつもりもないので別の国へ向かってしまった。 だが、密かに彼女を大事にしていた人たちの逆鱗に触れてしまったようであった‥‥‥ たまにやりたくなる短編。 ちょっと連載作品 「拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~」に登場している方が登場したりしますが、どうぞ読んでみてください。

処理中です...