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DIY、監獄ライフに勤しむ
脱獄計画 その07
しおりを挟む迷宮の十層、ボスである『邪多頭鷲獅子』に用いた遺製具『影踏吸[カゲフミ]』。
周囲に影の領域を展開していき、奪い取ったエネルギーはそれなりになっている。
「──“影鬼”」
両手をパンパンと叩くと、足元に広がった影に変化が生じる。
水面が揺れるように影が波打つと、何も無いはずのそこからナニカが浮上してきた。
それはシルエット状のエクリ。
光の当たり加減を一切無視した、真っ黒なソレはそれぞれが異なる行動を取っていく。
掌の形が歪み伸びたかと思えば、その部分が変形して武器になる。
俺が使っている銃だけでなく、剣や槍、手甲や盾など種類は様々だ。
一番目に見えた変化はそれだが、俺にとって重要なのはそれではない。
──懐中時計の針が、逆回転している現象こそが最重要だ。
「それじゃあ、頼むぞ」
『──』
先ほど発動した“影鬼”は、その効果は領域内における分身の生成。
制限はいくつかあるが、それでも広げた領域の規模に応じた数分、作ることができる。
唯一の問題はそれに必要なエネルギー。
自身の身力で発動することはできず、あくまでも“影蹂満”で回収したエネルギーでのみ発動可能だった。
そうした制約が備わっているからこそ、成立している遺製具『影踏吸[カゲフミ]』。
しかも、本来であれば使用者に合わせた意味ある制限も、エクリならば無意味と化す。
「スキルは基本的に高出力のものは発動できず、能力値も抑え目な分身体。けど、そもそもエクリはアイテムで擬似スキル使い。レベルが存在しない技能に制限は入らないし、マジで便利過ぎる」
発動中も、別に使用者自身に制限が掛かることは無いので、おそらく自分でその補助をするぐらいのことが正式な獲得者にはできたのだろう。
だがそれをせずとも、エクリは分身体各々で無双の力を発揮できる。
剣は頭を落とし、槍は頭を穿ち、盾は頭をひしゃぎ、手甲は頭を砕く。
どのエクリ(影)も己に刻まれた擬似スキルを正しく運用し、武の達人レベルの技量で攻撃を行っている。
「さて、属性としては相性悪いんだが、それでもやるとしますか──『アップ・ロード:グランドマロット』」
エクリ、いや『終従人形』というアイテムに用いられたアイテム、その中核的存在なのは『黒淵穴亡抽核遺骸[エクリエンド]』である。
闇属性の精霊を、ある手段で歪めて人工的なユニーク種と化したそれは、当然ながら突出した闇属性への適性──そして相反するほどに絶無な光属性への適性を有していた。
のちに『終従人形』生産の過程で調整はしたものの、絶無を皆無にする程度で光属性に対する高い適性があるとは言えないもの。
だがそれでも、まったく無いわけでは無い以上、使える物は何でも使う。
それこそ道化師のように──取り出した杖から光が収束する。
「──“極小光”」
《──“崩壊之光”》
先に生み出した小さな光、そしてそれを塗り潰さんと解き放たれた禍々しい光の柱。
そのまま『邪多頭鷲獅子』に命中し、失われた首諸共すべてが呑み込まれる。
周囲の瘴気や侵略者もまた、それに巻き込まれ消滅していく。
歪もうと光は光、効果さえ発揮すれば効果は発揮されるのだ。
──こうして、迷宮の十層ボス討伐に成功する俺なのだった。
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