虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武

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DIY、監獄ライフに勤しむ

脱獄計画 その01

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 星層監極 派生 邪悪深殿

 監獄の中に在る迷宮、そこに現れ始めた寄生生命体こと『侵略者バシビウス』。
 彼らの出現と共に俺は決意した、脱獄のための計画を始動すると。

「──搭乗成功っと……さて、俺も行くとしますか」

 普段のように喋る俺だが、そこから発せられる声は女性のもの。
 今回はエクリの操作権限を使い、意識を完全にそちらへ移している。

 その間、体は当然無防備なのだが……そこは便利なアイテム群。
 一時的に別空間に隔離する、という荒業で安全を確保しておいた。

 体が違えば感覚も違う。
 休人もまた、アバターと現実の自分に差異があるとその違いで感覚に障害が発生する場合がある。

 しかしエクリは、そもそもとして俺がこうして用いることを考慮した存在。
 なのでそういった問題は無し、シンクロ率的な意味でも過不足なく操作可能だ。

「──“孤絶ノ衣”、“人霊切替”」

 隠匿に特化した魔術、そして肉体を精霊に近しい状態にする能力を発動。
 完璧な隠蔽を行う必要は無いが、最低限迷宮内の敵にバレないようにする必要はある。

 星敵たちに普段使いの万全状態を試したことがあるのだが、そちらに関しては何らかの形で大半の奴らが突破……脱獄後に、再度練り直す必要ができてしまったんだよな。

「しかしまあ、ここが迷宮の中か。自分で見るのと遠隔で観るのとじゃ、やっぱり全然違うよな……」

 街や自然風景を模したフィールドを構築している『星層監極』と違い、『邪悪深殿』はそれこそ監獄のような閉鎖された環境だ。

 無機質な黒い壁が周囲を蓋うそこを、俺はエクリとして進んでいく。
 現れる魔物はどれもこれも爛々とした瞳を金色に輝かせ、侵入者に突っ込んでいた。

「エクリ、よく習得してたな……壁歩きってスキルが無くてもできるんだな」

『お褒めいただき光栄です。ですが従者として、会得は当然の事柄かと』

「……そういうものかな?」

『はい、間違いございません』

 俺は現在、壁と平行な状態で歩いている。
 それ自体はスキルや武技、職業能力などで可能ではあるのだが……エクリの場合、素のスペックのみでそれを可能としていた。

 エクリが可能とした行動のすべてが、擬似スキルという形で登録されている。
 俺がエクリの体を動かす際は、それを使うだけでお手軽再現が可能になるのだ。

 いちおう理屈としては、壁歩きが何らかのシステムで自動化されて発動されている時の力の流れを、エクリが全部マニュアルで再現して記録しているとのこと。

 登録自体は困難ではあるが、一度済ませておけば想定の範疇であれ本来の仕様以上に利便性が高くなる……という文字通りのチートズルなのだ。

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