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DIY、監獄ライフに勤しむ

監獄生活 その29

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 支援物資(万能薬や蘇生薬など)を使い、情報屋には謎の扉の先を調査してもらうことにした。

 同時に、星敵に対する『プログレス』の効能なんかもいっしょに……同時に使うことはできないはずだが、同時であることを諦めた時にどうなるのか知りたいのだ。

「……意外とやっていけるな」

 監獄での囚人ライフ、これが思った以上に上手く行っている。
 そりゃあ初めの頃は、道行く人々から第一声で『死ね』と言われたものだが。

 ……実際問題、それ自体は言ったその瞬間に達成されていたわけのは内緒にしておく。
 それはそれとして、俺も俺で状況を改善すべく動いた──屋台を開いて。

 何度も妨害されたものの、それでもひたすら匂いをばら撒き続けた。
 食事は国境線を超えるコミュニケーションツール、それを信じてやり続けた結果──

「──盛況なようだな」

「『修羅』さん……ええ、お陰様で」

「それは何より。今日はそうだな、肉料理を頂くとしよう」

「はい、毎度ありがとうございます!」

 屋台で提供しているのは、基本的にノリで決めているメニュー。
 客はその中から選べず、大まかに肉か魚か果物か、などを言うだけでいい。

 初めの頃は『こんな物食えるか!』とか難癖を付けてくる星敵も居たが、匂いに釣られて食べた魔物の星敵が一口咥え……その時点で問題は無事解決。

 その光景を見れば飯を不味いとは言えないし、残飯にしようものなら買収した星敵が襲い掛かってくる。

 今では人も魔物も飯を食いに訪れ、望む注文をしていた。
 俺はそれを:DIY:や『巧天』の効果を受けつつ、料理を作り上げる。

 ……はっきり言って、監獄で俺以上に旨い料理を作る者は居ない。
 だからこそ、少々価格をお高めにしているのだが、それでも客は集まってくる。

「何というか、皆さんよくぞお金を集めてきますと思っています──唐揚げ定食、お待たせしました」

「高い、速い、旨いの三拍子を揃えているのはここだけだからな。迷宮に挑むには、過剰戦力な以上問題あるまい」

「ははっ、ですよね。ここ以上に戦力が集まる場所なんて、滅多にございませんね!」

 なお、星敵と各世界の権能持ちとでどちらが強いのかと言われると、やはり単独では星敵の方が強い。

 供給されているリソースが、星敵の方が多いからである。
 ……それこそが星の約定であり、相応の対価があるからこそなんだけどな。

 ともあれ、そんなめちゃくちゃチートな連中がこの地には集っている。
 ──そんな彼らが挑んでいる場所、それこそが情報屋に探ってもらっていた場所だ。

「星造迷宮『邪悪深殿』、この最上層に何かがあるとのことですが……皆さん、あまり無茶はしないでくださいね」

「そうは言っても、挑むことに利があるからな。加えて、ここで飯を食べるためにもっとも効率よく稼げるからな」

「あ、あははは……」

 情報屋によると、迷宮の中にはとんでもないレベルの魔物たちが無尽蔵に居るらしい。
 理性を持たない狂った状態、なので相手が誰だろうと問答無用で襲ってくる。

 そのうえで、さかしいらしく罠などは一度使えば単純な物はほとんど通じない。
 ……討伐素材はまったく出ず、そこにはただ貨幣代わりになる物が落ちるのみ。

 その貨幣代わりになる物──ジュエルと呼ばれる宝石を、渡せば俺が料理を提供する。
 本来それは、街で様々な物に交換するためのモノなんだけどな。

 だが実際、彼らが使うのは俺の店のみ。
 ……というのも、すべて俺が悪いのだが。
 その理由は『修羅』の行っていること──銃の提示で分かることだ。

「そうだ、これなんだが……できるか?」

「問題はありませんよ。ですが、こちらも割高となりますが……」

「自分で高い、という店もなかなか無いな。だが、それに見合う結果を出してくれるのだから文句は無い」

「畏まりました。では、お預かりしますね。お代は後払いの一括でよろしいですよ」

 先に部分的に払ってもらうこともできるのだが、俺はこれを貫いている。
 相手が不満を抱くならお代は不要、だが文句が無いなら絶対に払ってもらっていた。

 あくまで料理メイン、装備品のメンテナンスについては空いた時間のついでだ。
 暇潰しに始めたのだが……うん、これが思いのほか繁盛していた。

 そりゃあどの世界のどんなアイテムでも、修理だけならできるし。
 魔物由来の素材なんかは少し困るが、幸いここには魔物の星敵も多いからな。

 ──そうして俺の日常は、しばらくまったりと進むのだった……あの日までは。

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