虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武

文字の大きさ
上 下
77 / 2,831
DIY、面倒事に巻き込まれる

騎士の国 その06

しおりを挟む


 猫がいる空間は、鏡写しの世界だった。
 左右が反転しており……右に在ったはずの川が左側に、左に在ったはずの森が右側にとかだな。

 うん、これだけでも凄いと思う。
 しかし、それ以外にも初期の場所とは異なる点があった。

「……あれ、こんな山あったっけか?」

 島の中央に巨大な山がそびえ立っていた。
 色は闇夜のような黒、昼である今ではありえない山の色である。
 ──嗚呼、もうなんか分かった気がする。

『ウニャアアアアアアアアアア!!』

「これがシュパリュ、なのか……デカすぎるだろ!」

 超巨大な猫、その一言で目の前にいる化け猫を纏めることもできるのだろう。
 しかしそれは傍観者のみの特権であり、当事者にはそう思えない現実がそこにはある。

「ワ、ワタシ、オイシク、ナイy──」

『ニャァ』ザシュッ

 定番のセリフを言おうとしたのだが……猫が俺の体をそっと爪でなぞった瞬間、体がはじけ飛んで死んでしまう。

 だが、今回はこうなることを予想していたので、結界の魔道具を使わずにそのまま死に戻り──この場で蘇る。
 これもまた、『生者』の効果に含まれているんだよな。

 俺の体はまるで何も無かったかのように,
猫の前に立っている。
 ……あ、このままだと無限ループじゃん。

『ウニャ?』

「うわぁ──、死ぬかt──、思っt──よまったく……どうするんだ、昔のおr──」

 一言一言発する度に、猫は俺の体に優しく触れていく。
 猫はまだ、俺をおもちゃとして丁寧に扱ってくれているんだろうが……すみませんが、それだけで壊れる繊細な者なんです。

『ニャッニャッニャ!!』

「あっ、この、でも、まだ、……よしっ、あとこれ、と、それも、……うん、いけ、る」

 俺の扱い方にだいぶ慣れたのだろうか、少しずつ俺に触る速度が上がってきている。
 そうして攻撃をされる前の一瞬、肉体の再構築の時間の隙にやれることをやっていく。



 それから手順を少しずつ踏み、ついにこの瞬間が訪れた。
 調子に乗って、太鼓で連打の譜面が流れた際のように俺を殺し続ける猫は、突然濁った悲鳴を上げる。

『ウニャニャニャニャニャ……ニ゛ャァ!?』

「──ハァ、また何回死んだんだろうな。いや、お前に聞いているわけでもないんだけどさ、ただこう愚痴でも零さないとやってられないんだよ」

『フーフーフー!』

 荒い息を吐く猫。
 少しずつ、ゆっくりと顔色を青く染めていく姿は、死の病に侵された人の顔を早送りで見ているようでもあった。

「元々、死ねば死ぬ程強くなるみたいなチートでも、死んだら平行世界に飛ぶ能力でも無いんだよ。ただただ器を別の物に取り換え、もっとも神の力が届く場所に送られる……これが死に戻りの原理だったんだ」

『……ニャー』

 結晶には、神が力を籠めたという設定があるらしい。
 だから死んだプレイヤーは、その結晶がある場所か同様に神の力が濃い場所──教会などで蘇ることができる。

「『生者』の効果はさ、それを無理矢理別の場所でやるだけだったんだよ。要は昔作った魔道具を、全世界対応版にアップグレードしただけ。まあ、そのお蔭でこの場所で何回でも死ぬんだけどな」

『…………』

 猫は俺を見ていない。
 虚ろな瞳はゆっくりと濁り、息を吐くことも無くなっていく。

「結構時間が掛かったんだぞ。そうして死んでいる隙を突いて毒を盛るのはさ。まあ、もう聞こえていないんだろうけどな」

 ズドンッ! という音と共に、猫は地面に倒れ伏す。

 盛った毒は、『SEBAS』が考えた最強の毒である。
 耐性を生むこともできず、魔法による回復もできない──殺戮兵器として扱うのが一番な危険なアイテムだ。

 ただ、俺は称号の効果で状態異常がかなり効きづらかったので、並大抵の毒ではまったくと言っていいほどにダメだった。
 そのためこのような劇毒でなければ、俺にはいっさいの効果を齎すことはできない。

「俺は毒に掛かってもすぐに戻るから、関係ないんだけどな」

 いちおうの策として、空気中に散布された瞬間に死滅するようにしてあるんだが、その一瞬で毒に掛かってしまったモノは必ず死ぬことになる。
 ……うん、俺も含めてだが。

「さて、そろそろ帰りますか」

 猫の死骸を片付け、鏡の世界から出ることにする。
 あっ、そうそう、猫の通れないサイズで用意された水溜まりから出れるんだよ。
 猫は、これを拡大しようと頑張っていたんだよな。

 だが残念、それも一度ここで失敗。
 再配置されリポップして再度励んでくれ。

しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

てめぇの所為だよ

章槻雅希
ファンタジー
王太子ウルリコは政略によって結ばれた婚約が気に食わなかった。それを隠そうともせずに臨んだ婚約者エウフェミアとの茶会で彼は自分ばかりが貧乏くじを引いたと彼女を責める。しかし、見事に返り討ちに遭うのだった。 『小説家になろう』様・『アルファポリス』様の重複投稿、自サイトにも掲載。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

Anotherfantasia~もうひとつの幻想郷

くみたろう
ファンタジー
彼女の名前は東堂翠。 怒りに震えながら、両手に持つ固めの箱を歪ませるくらいに力を入れて歩く翠。 最高の一日が、たった数分で最悪な1日へと変わった。 その要因は手に持つ箱。 ゲーム、Anotherfantasia 体感出来る幻想郷とキャッチフレーズが付いた完全ダイブ型VRゲームが、彼女の幸せを壊したのだ。 「このゲームがなんぼのもんよ!!!」 怒り狂う翠は帰宅後ゲームを睨みつけて、興味なんか無いゲームを険しい表情で起動した。 「どれくらい面白いのか、試してやろうじゃない。」 ゲームを一切やらない翠が、初めての体感出来る幻想郷へと体を委ねた。 それは、翠の想像を上回った。 「これが………ゲーム………?」 現実離れした世界観。 でも、確かに感じるのは現実だった。 初めて続きの翠に、少しづつ増える仲間たち。 楽しさを見出した翠は、気付いたらトップランカーのクランで外せない大事な仲間になっていた。 【Anotherfantasia……今となっては、楽しくないなんて絶対言えないや】 翠は、柔らかく笑うのだった。

私はいけにえ

七辻ゆゆ
ファンタジー
「ねえ姉さん、どうせ生贄になって死ぬのに、どうしてご飯なんて食べるの? そんな良いものを食べたってどうせ無駄じゃない。ねえ、どうして食べてるの?」  ねっとりと息苦しくなるような声で妹が言う。  私はそうして、一緒に泣いてくれた妹がもう存在しないことを知ったのだ。 ****リハビリに書いたのですがダークすぎる感じになってしまって、暗いのが好きな方いらっしゃったらどうぞ。

処理中です...