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DIY、偽装工作に走る

魔導世界密入 その09

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 絡んできた魔導世界のチンピラたち。
 いかにも弱そうな風に見えているに違いない……実際、息を吹きかけるだけで死ぬような弱者だしな。

「へへっ、もう逃げ場はねぇぞ」

「まあ、この辺なら……大丈夫ですね」

 路地裏の奥、チンピラたちに囲まれている俺は独り呟く。
 彼らの目的は金……なんだろうが、それに従うつもりはさらさらない。

 それでもすぐに撃退せず、わざわざ遠くに来たのには理由がある。
 今は『SEBAS』に任せることができないので、自分でいろいろする必要があった。

 まずは周囲にここで起きることを広めないための結界、その構築。
 それが正しく作動するか、またしなくてもどうにかするために奥へ来たのだ。

「──『防音結界』、作動」

「! こりゃあ……結界術式! その魔装の力か!」

「さすがは魔導世界、こういった分野には優れているのですね──たかがチンピラ程度、でもね」

「……あ゛ぁ?」

 結界の発生源は腰に下げた剣の鞘。
 魔道具の『ソードデバイス』なのだが、こちらの世界では魔道具は魔装という分野に含まれている。

 他世界の者よりも魔力的な才に富んだ彼らは、一瞬で俺の仕込みを見破った。
 チンピラでもそのレベルなのだ、やはり公の場で堂々と使うのは難しいだろう。

「チッ、魔装使いか……そのちっせぇ魔力で自信たっぷりなのはそれが理由か」

「さて、どうでしょう。ああ、言っておきますがこれの効果はお分かりでしょう? もう逃がす気は、ございませんので」

「……言ってくれるじゃねぇか、おい。それはこっちの台詞だ! おいテメェら、やっちまえ1」

『うぉおおおお!』

 ここで接近戦を行うのは数十人のうち二人ほど……まあ、魔導世界だしな。
 彼らの大半は後方で何かの準備、術式の展開で遠距離から攻撃を行うのだろう。

 とはいえ、彼らの目的は金品の強奪。
 大火力でそれらを無為にするはずもなく、あくまで痛めつけるか……死んでもアイテムの回収ができるぐらいの威力だろう。

「まあ、すべてが無駄ですがね」

「「──うおっ!?」」

「さて、無力化していきますよ」

 俺の手に[インベントリ]を経由して現れるのは、魂を斬る刃[モルメス]。
 名前の一部にもある通り、医療器具であるメスに近い形状の小さい武器。

 だが、それで充分。
 死に戻りで彼らを物理的に擦り抜けたとほぼ同時、その刃は彼らを掠っていた。

「「────」」

「お、おい! それも魔装か……しかも、かなりの上物だな」

「分かりますか? いえ、分かりませんか。たしか魔装とは、魔を宿す物全般を指すのでしたね。でしたら違います──これは、神を宿しているのです」

「神……けっ、胡散臭ぇ。だが、効果だけは間違いねぇな。それさえあれば、俺たちもあの方に認めてもらえる! テメェら、何としてもアレを奪い取るぞ!」

『うぉおおおお!』

 あの方、というのが非常に気になるな。
 その辺も含め、『SEBAS』が調べてくれているだろうが……まあ、俺の方でも確認ぐらいはしておきますか。

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